7章

第110話

「"メテオ……ストライク"!」


 季節が二つ過ぎた。

 大陸の南側からだろうけど、「寒い!」ってほどでもない。


「よっしゃっ。敵さん、逃げていくようだぜ」

「あんな大魔法見せられたら、そりゃー逃げたくもなるだろうよ。追う必要はねぇー、荷物を頂いてさっさとずらかるぞ」

「「おーっ」」


 二カ月前、帝国が突然戦争を始めた。

 隣国のクロニア王国に攻め入り、今も進行を続けている。


 僕たち革命軍は、横から嫌がらせのようにちょいちょいと手を出していた。

 戦場に届けられる支援物資の輸送隊を襲っては、それを盗んでいるのだ。

 ついでに帝国の南、元獣人の国に入っては、現地で奴隷にされている人たちを解放して匿ったりもしている。

 中には一緒に戦うと申し出てくれる人もいて、今では仲間の数は千人を超えた。


 ま、人数が増えたのはそれだけが原因ではないけれど。


「ブレッド王子ぃー。こっちの馬車には奴隷が入れられてますぜぇ」

「戦場の前線に立たせるための兵士か……」


 ブレッドの身分は、彼が想定していなかった形で公になってしまった。

 

「タック、お疲れ様」

「ルーシアも。ハンタースキルもだいぶ使い慣れてきたみたいだね」

「うんっ。広範囲スキルも増えたし、これでみんなを守れるわ」

「それにしても、ブレッドさん……すっかり王子様が板についてきたですの」

「あはは。いや板について来たっていうか、元々王子様だったんだろうし」


 こうなったのは帝国がクロニア王国に攻め入ったあと。

 実際には攻め入る前だったらしいけど、僕らのところに情報が入ったのはその後だった。


【帝国第五王子ブレッド・ヘルムック・ブリズナーは、祖国を裏切り、自らが世界の覇者にならんとして反乱軍を組織している。決してブレッド王子の言葉に耳を傾けるな。奴は世界の敵だ!】


 と、わざわざ似顔絵付きで帝国内はおろか、他国にまでそんなビラを配りまくっていた。


「帝国ってさ……ちょっとお粗末だよね。ブレッドの似顔絵と世界征服を企んでいるーとか触れ回ったって、誰も信じないだろうに」

「その結果が、こうして革命軍の増員に繋がっているんですものね」

「親切ですの、皇帝は」

「あはは、そうかもね」


 上位職になった者もだいぶん増え、ブレッドとアリアさんに至ってはカンストしている。

 ただ転生は……していないようだ。

 こればっかりは自動じゃないもんね。


 魔導都市の地下迷宮で預かった武具のことは、まだ話していない。

 アーシアたちがカンストするまではと思って。

 それもあともう少しだ。


 そして僕はというと……。


「あ、レベルが123になった。キリ番だぁ~」

「アタシは? 上がってるかしら?」

「んー…・・・98のままだね」

「残念」


 レベル100を突破するとは思わなかった。

 ただ……この世界の優しさなのか……対人でレベルが上がることはない。

 それが僕にとっては救いになっているのかも。


 人を殺めることでレベルが上がったら、人の命を経験値・・・として見てしまうようになるんじゃないかっていう不安があるから。


 奪った物資と、そして奴隷として戦場に連れていかれるところだった人たちを解放し、僕らは足早にその場から離れた。






「城の地下道に入るための入口は二カ所ある。一つはもちろん、城にある」

「もう一カ所は?」


 あちこちに点在する隠れ家の一つで、ブレッドが神器強奪の為の作戦を伝える。

 ブレッドは東西の大陸が描かれた地図を広げ指を差した。


「ここだ」

「そこ……って、海じゃないか」


 帝国は東大陸でも北東に位置する国だ。

 ブレッドが指さしたのは大陸の上ではなく、東の海の上。

 島があるようにも描かれていない。


「もしかして海の底かしら?」

「アリア、説明してあげて」

「他力本願ですね。仕方ありません……地図には描かれていませんが、ここには小さな島があるのです」


 その島は陸から200メートル程度の所にあるけれど、潮の満ち引きで出たり沈んだりしているそうだ。


「でもそれって、潮が引いても入口は水没したままなのでは?」

「そうなんだ。300年前は隆起していた島だったんだよ。だけど大地震で沈んでしまってね。だからもうずっと使われていない空洞なんだ」

「じゃあどうやって中に入るですの?」


 アーシアの言葉にブレッドは、これまた地図上の海を示して笑みを浮かべた。


「姫様のお力を借りようと思っているんだ☆」


 そこは西のアレストン大陸と、東のユラシア大陸の中心地。


 ある種族と共闘してグリードを倒した海域だった。

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