第99話
90±のインスタンスダンジョンに入れるようになる頃、案の定なことになった。
「く、くらくらする」
「だからスキルの撃ちすぎなんだって!」
「す、すみませんタックさん。こんな風になるなんて……」
スキルレベルも上がって威力が増すと、それが楽しくて二人は僕の忠告も聞かずスキルの乱発。
結果、MP枯渇でふらふらだ。
「はい、MPポーション。いい、これを飲んだからって、スキルの乱発はしないように!」
「「はぁい」」
大きな耳と尻尾が元気なく項垂れる。
少しきつく言っちゃったけど仕方がない。命に係わることなんだから。
「いい。アーシアは初撃に挑発スキルを使ったら、MPの残量を見ながら──ってのが出来ないのか……」
ゲーム仕様の僕だけなんだ。二人のHPやMPのバーが見えるのも。
となると、僕がこまめに二人のMP残量を教えなきゃならないんだな。
スキルを節約して貰いながら一度クリアして外に出ると、ソードマン、アーチャーと個別にスキルごとの消費MPとかを説明していった。
ソードマンもアーチャーも、MPは多くない。その分、スキルの消費MPも少ないけれど、連発するといざという時にMPが無くて困ることに。
いや、困るだけで済めばいい。
これはゲームじゃないんだ。現実なんだ。
「いい、二人とも。僕は……まぁ今はエターナルノービスっていうちょっと微妙な職業だけど、ベースは魔術師なんだ。だからMPが多くて当たり前。でも二人はMP補正の高い職業じゃないんだから、使い過ぎには気を付けて」
「う、うん。でもMPって、ポーション意外だとどうやって回復するの?」
「自然回復だと。HPも時間の経過ですこーしずつ回復しているしね」
ここで僕はあることを思い出した。
立ったままの状態と、座った状態では、HPもMPも回復する量が変わる。
座っていると倍の量が回復するんだけど、回復も5秒毎って決まってて。その回復する瞬間に座っていれば2倍になった。
魔術師系の固定砲台出来る職業だと、自分で時間管理して一瞬座る──なんてことやってたなぁ。
「とにかく、僕が二人のMP残量を小まめに報告するよ。節約しすぎていつでもMP満帆なんてのも勿体ないけど、ピンチになった時のことも視野に入れてね」
「分かりましたですの」
「スキルを使いこなすのって、難しいのね」
「僕らプレイヤーはMPが目視できたから、割と簡単なことだったけど。二人には見えないんだし仕方ないよ。少しずつペース配分を覚えて行こう」
そう少しずつ身に着けるしかない。
説明しなきゃいけないのは、MPの事だけじゃなかった。
二人のレベルは90になっている。
上級職のことも、そろそろ考えなきゃね。
「二人のレベルが99になって、経験値がMAXまで溜まったら、次は上級職に転職することになる」
「上級職!」
「ゲームだとね、一つの下級職につき上級職が二つ用意されているんだ」
「まぁ、選べるってことですか?」
ゲームでは選べる。でも女神様は言った。
この世界の人間は選ぶことが出来ないと。
それを話すと二人は少しガッカリした様子だった。
「まぁ選べはしないけど、転職する者に最適な職業が選ばれるみたいだから。つまりそれって、失敗がないってことだしね」
「そう、なの?」
「うん。とにかく二人には上級職の説明をしておくよ」
まずはソードマンから。
上級職は『ソードマスター』と『サムライ』。
「そういえば、白タイツのブレッドがソードマスターだったな」
「え、ブレッドさんがですの? す、凄い」
「じゃあアリアさんも?」
「たぶんシーフの上級職だろうね」
イメージ的には『アサッシン』かなぁ。
今はそれより二人の上級職だ。
「ソードマスターはスピード重視の攻撃型だ。盾を装備することもあるけど、ソードマスターに盾スキルがなくって、代わりに剣でいなすようなものが出てくる」
「剣による攻撃に特化した職業になるですのね」
「うん。そんな感じ。で、サムライになると、装備出来るのは刀オンリーになる。こっちも攻撃特化だけど、一撃必殺系が増えるんだ」
あと大小の刀で二刀流も出来る。ソードマスターは逆にこれが出来ない。
装備出来る武器の種類の多いソードマスターを取るか、武器の種類は少ないが一撃に賭ける戦い方をするか。
「どちらになるにせよ、職業の特徴が先に分かってる方が転職してから慌てなくて済むだろ? 今から転職後の自分をイメージするのもいいかもね」
「はいっ」
「タック、アタシは?」
「うん。アーチャーの上級職は『ハンター』と『レンジャー』だよ」
ハンターはこれまで通り、弓を使った攻撃の特化職業だ。
レンジャーは弓の他に、短剣や罠といったトリッキーな戦術が加わる。
弓、短剣、罠と、使える武器が増える分、スキルの方向性をしっかり考えないといけない。
あれもこれもとスキルを取っていたら、どのスキルも中途半端なレベルで攻撃力の低い器用貧乏キャラになってしまうことも。
「む、難しそうね、レンジャーって」
「うん。僕も正直、レンジャーはファーストキャラ向けじゃないと思ってる。あ、ファーストキャラっていうのは、初めてそのゲームをプレイするキャラのことだよ」
と説明したけれど、ルーシアはいまいち分かっていないみたい。
実際にゲームをプレイしていた日本人にしか分からないよね。
その日はゆっくり休んで、翌日から転職に向けレベリング開始。
ただ二人のレベルが92になったも、僕の方はまだ87で……このままだと経験値分配に問題が出るなぁ。
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