第63話

「え? じゃあゴブリンが出たの?」

「うん。でもヘッドライトに驚いて逃げて行ったんだ」

「ゴブリンは夜行性ですの。明かりに照らされて、ビックリしたのでしょうね」


 そんな話をしながら朝食を済ませ、片付けを終えたら北西に向けて出発した。

 森を抜けたところで村を発見した。

 特に寄るつもりもなかったけれど、水の補給をしたくて井戸水を分けて貰おうと村へ。


「水だぎゃ? そんなのいくらでも持っていくといいだ。それよりお若いの、冒険者さんかい?」

「はい、一応」


 優しそうなおばあさんは、井戸まで案内してくれると採れたてだからとスイカをご馳走してくれた。

 そして不安そうな顔で僕らに尋ねてくる。


「昨日なぁ、森の奥のほうから変な音が聞こえたんだよ」

「変な音?」

「おぅおぅ。ブァーってなぁ、この世のものとも思えない、そりゃあおっかない音だぁ」


 ブァー?


「それになぁ、ラズゥのとこの息子が屋根の上さ登ってみたら、なんか森ん中が明るくなってたって言うだよ」

「森が明るくなってて、ブァー?」

「んだ。お前さんら、何か知らんかね?」


 何かと言われても。僕らはその森から来たけど、そんなもの見ていないし。

 そう思っていると、後ろのアーシアが袖を掴んで引っ張る。


「も、もしかして……昨夜私たちが押したくらくしょんと言うやつでは?」

「あ……」


 ブァーっていうのはクラクション。明るく見えたのは四方八方を照らしたサーチライトか。


「はぁ、あれはドラゴンだろうかねぇ。それとも地獄から這い出てきた悪魔じゃろうか。お若いの、何かしらんかね?」


 ドラゴン……悪魔……なんだか話が大きくなってきたな。

 しかも同じく音を聞いたっていう村の人が集まってきて、キメラだドラゴンだ邪神だと話はどんどん膨れ上がっていく。

 ここでキャンピングカーの話を出したところで、余計な誤解を生みそうだ。


 僕らは何も知らないフリをして、村を後にした。


「キャンピングカーがドラゴンだなんて……どうしてそんなことに」

「仕方ないわよ。だってあんなもの、この世界にはないんですもの」

「そうですの。あのくらくしょんの音も凄かったですの。あんな音……ううん、声を出すのは大型のモンスターぐらいですのよ」

「キャンピングカーは、やっぱり人前では出さないほうがいいのかなぁ」


 まぁ決して小さくはない乗り物だ。ぽんっと街中に出せば当然邪魔だし、街道脇に置いたとしても人目を引きすぎる。

 やっぱり人気ひとけのない森とかで出すべきなんだろうなぁ。

 





「"勇敢なる者たちへ、神の祝福を──戦歌バトルソング"」

「いっくわよーっ!」

「たぁーっ」


 僕の支援を受けて、ルーシアの矢は鋭さを増し、アーシアの剣の切れ味に磨きがかかる。

 僕の出番は──ない!


 港町を出発してから十日が過ぎ、内陸のほうまでやって来るとモンスターのレベルも上がって来る。

 それでもこの辺りに生息するモンスターのレベルは25から28といったところ。

 確かに僕の出番なんてない。


「タックに出会ってアタシたち、ずいぶんと強くなれたわよね」

「そうですの。以前だと故郷の森に生息するモンスターだって、一匹倒すのもやっとでしたのに」

「「ねー」」


 声をハモらせそう話す二人は元気よく歩いて行く。

 だけど僕は……歩くのに疲れてきた。

 やっぱり肉体の数値が必要かなぁ。二人より疲れるのが早いんだよね。


 とにかく今は──


「二人とも。ライド獣で移動しないか?」

「え? スキルの練習はもういいの?」

「うん。このスキルはいくら練習してもレベルが上がらないし──いや、僕の場合はいくら練習してもスキルポイントに依存しているから君たちのように『いつの間にか上がっていた』なんてこともないんだけどさ」


 ものまねの戦歌も使い慣れてきた。

 戦闘開始前にさくっと発動させて、あとはいつも通りにすればいい。

 ただモンスターが弱すぎるので、僕の出番自体がここで終わってしまっているけれど。


 手持ちのライド獣から乗りやすそうなのを選んで三匹取り出す。

 以前にも出したピュロロの白、黒、茶色の色違いだ。


「タックは馬には乗れないのに、ライド獣には乗れるのね」

「あー、うん。だってほら、こいつらはゲーム仕様だし。僕の意思通りに動いてくれるからさ」

「草原はこの子で走り抜けるのですね。この先は故郷の森まで草原が続くですし、この子の足なら今日中には森まで到着しそうですの」


 とはいえ、二人がピュロロに乗るのは初めてなハズ。

 ふふふ。ここは手取り足取り僕は教えて──


「あはっ。乗れたわよ」

「案外、馬と変わらなさそうですの」

「……じゃあ……行こうか」

「あらタック、どうしたの?」

「元気がないですの」


 そんなことないですよー。はははーん。


 草原をピョロロで駆け、陽が暮れる頃に森が見える所までやって来た。


「この辺りは人の通りは少ないのかな?」

「えぇ。この森は街道からも随分離れているし、大丈夫よ」


 森の中にはモンスターもいる。普通の旅人が近づくこともない。

 じゃあモンスター退治を生業にしている冒険者ならどうか。

 それもほとんど来ることはなかったようだ。

 というのも──


「この森に生息するモンスターは、毒を持つ奴が多いの」

「それに皮膚の硬いモンスターも多く、武具の損傷が激しいので冒険者も避ける場所ですの」

「まぁそれも森の外周にばかり生息しているモンスターだから、アタシたち獣人が住むのに適していたとも言えたのよ」


 人間族が住まない土地。だから獣人が住むことに反発する者はいなかった──と。


 今夜は森には入らず、その手前で野宿することにした。

 サーチライトは必需品だけども、森のほうに向かってのみ照らすことにする。

 地図を見ながら街道側からその光が見えないよう、遮蔽物のある場所にちゃんと置いて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る