第60話

「"勇敢なる者たちへ、神の祝福を──戦歌バトルソング"」


 スキル効果を確認するために、馬車を下りて街道から逸れて歩く。

 街道を逸れれば「獲物が来たぞ」とばかりにモンスターが襲って来た。

 レベル15のモンスターだ。弱すぎて相手にもならないけれどまぁいいや。


 僕も杖から短剣に持ち替え攻撃をしてみるけれど……


「そもそも筋力1が7%増えてもね……」

「タックは非力だものねぇ」

「たぁーっ! でも私はこのスキルのおかげで、切れ味が増した気がします」


 もともとの数値が高いほうが恩恵を感じやすいのかな?

 まぁ物理攻撃力を+7%だもんね。例えば攻撃力1の人に+7%しても、1だ。10あれば……いややっぱり1か。端数切り上げならもしかして11かも?


 この物理攻撃力って、武器装備時のステータスなのかな?

 だとするとアーシアはレジェンド武器を使用しているので、武器性能だけで100以上いっているはずだ。

 攻撃力は一定数に達するとダメージがランクアップするから、スキル効果でダメージランクが上がる数字になるなら──恩恵はデカいかもしれない。


「ルーシアはどうだい? 効果ありそう?」

「そうね……敵が弱すぎて分からないわ」

「……もっと奥の方にいこか」


 ルーシアが放つ矢は、一撃でその辺のモンスターを絶命させまくっている。

 しかも効果があろうがなかろうが関係なくだ。

 そう思ったらアーシアも同じだ。

 武器・・による攻撃で敵を一撃で倒せていないのは──僕だけだった。


 こうなったらどんどん街道から逸れちゃうぞぉー。


「面倒だし、二人の故郷の森に向かって一直線に進んでみるか」

「それだと──この森を突っ切ることになるですの」


 アーシアが広げた地図を見て現在地を確かめる。

 街道は港町オーリンから一度真西に進み、そこからすぐに二股に分かれている。

 一つは西の山脈に向かうルート。もう一つは北へ向かうルートだ。

 僕らは西ルートを進み、この先で山脈をぐるっと迂回する分岐点があるので、そこから北を目指す予定だった。

 だけどスキル検証のために分岐点の随分手前から北に逸れて歩いている。

 この際、街道を無視して一直線に進むのもありかなーっと。


 二人の故郷のある森はかなり広大で、小さな国がすっぽり入るサイズだ。。

 その手前に、こちらは小さな──というか普通の森があって、直線で結ぶとそこを突っ切ることになる。


「急いで故郷へ戻るかい?」


 僕が尋ねると、二人は首を振って「ゆっくりでもいいですよ」と答えた。


「なら歩いて行こう」






 とはいえ、ずっと歩きっぱなしだと疲れる訳で。


「この調子だと、何日ぐらい掛かるかな」

「んー、半月掛かるかどうかじゃないかしら。ねぇ、アーシア」

「そうですねぇ。以前、村を護衛してくださっていた冒険者の方が、港町から村まで、一カ月ほどだと仰ってましたし」


 昨日は一日ノンストップで馬車を走らせた。その距離は徒歩の4、5倍にはなるだろう。

 彼女らのいう冒険者は街道を歩いてきたのだろうし、真っ直ぐ進むならそれよりは早く到着する──ハズ。


 案外遠いんだなぁ。

 ま、急ぐ旅でもないし、ゆっくり歩けばいいや。


 何度も休憩と戦闘を挟みながら、夕暮れ前には開けた場所でキャンピングカーを出してキャンプの準備。

 流し台にある蛇口はホースになっていて、引っ張ると2メートルぐらいの伸びる。

 その流し台の後ろには窓があって、ここからホースを伸ばして外に出せばシャワーも浴びれる優れもの!

 昨日の時点で気づけばよかったなぁ。


 そしたらこんな……こんな……


「さぁタック、脱いで」

「で、でもっ。だ、誰かが見張りに立ってないとっ」

「三人でシャワーを浴びて、三人で見張っていればいいでしょ」

「そうですの。武器はここにこうして置いておけば、直ぐに手に取って戦闘もできますの」


 アーシアは剣をキャンピングカーの車体に立てかけた。ルーシアも同じように弓を立てかける。


 三人で──

 三人でシャワー浴びるのか!?


「ついでに洗濯もするんだから、もう早く脱いでよっ」

「タックさん、恥ずかしいのですか?」

「は、恥ずかしいに決まってるじゃないか」


 と僕が言うと、二人は顔を見合わせにんまりと笑う。

 その微笑みは小悪魔だ。小悪魔が二人して僕にのしかかる。


「だったらひんむいちゃえーっ」

「ふふふ。タックさんってば可愛いですのぉ」

「うひぃーっ」


 叫びつつ、僕は少しだけ喜んでいた。

 

 まずは魔術師らしくて気に入って着ているロングコートのアバターを脱がされた。

 アバターなのでこれを脱ぐと、今度は普通の装備が突然現れる。


「私たちもそうだけど、このアバターっていうのは不思議よねぇ」

「ですのぉ。服を二着重ね着しているはずなのに、見た目は一枚だけですから」

「うん。ゲームの仕様だからね。深く考えたら負けなんだよ」

「負けなのね」

「負けですのね」


 とかいいつつ、二人はテキパキと僕の装備を外していった。

 そして最後にはパンツ1枚の姿に。


「ま、待ってっ。こ、これは自分で脱ぐ。脱ぐからぁーっ」

「ふふふふふふふふ」

「えぇーいっ」

「いやぁぁーっ」


 星が瞬き始めた空に、僕の縞々パンツが舞った。



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