94.天狗の飛びそこない 一
「「……」」
「ちょっと? なんでアンタら揃って無言なのよ、これじゃアタシが滑ったみたいじゃないっ」
微妙な空気に小湊さんが焦って詰め寄ってきたが……、
「そう言われても、なぁ?」
須藤と顔を見合わせる。
「なぁ?」
お互いなにも言い返せなかった者同士。一瞬のアイコンタクトで以心伝心できてしまった。
やっぱりか。顔を見合わせ、俺達はそう落ち着くことができたが、反対に小湊さんはそのやり取りに大きく動揺を見せた。
「な、なによ……。『もしかしてコイツ、痛すぎねぇ?』とか思ってるっ?!」
「そんなんじゃない、ただ――」
「っただ?!」
食い気味にこちらに被せてくる小湊さんの頬はすでに上気していた。
「……」
もう一度、須藤と顔を見合わせた。アイコンタクトで『ここはお前から行けよ』と伝えてみることにした。
「……っ!」
須藤は『お前からだろ』と目で返してきた。こちらも負けじと強い目で訴えかける。『男を見せろ、オとしたいんだろ!』一瞬目を地面に落とした須藤はだがしかし、『頼むからお前から言って!』と切実な目で見てきた。
「な、なに? そんなに言いづらいの? それだけイタい子になっちゃってたの……?」
今度は一転、泣きが入ってきた。鼻高々だったところからのこの急激な落差だ。
身振り手振りで『お前から行けよ』と押すが、それでも須藤は動かない。アイコンタクトの応酬が続く。『祐司から言ってくれ!』『でもこれチャンスだろ』『心の準備がいんの! 俺だってこんなタメ作られてるとこに飛び込みたくないの!』『でも』『あーそんな渋っていいの?! 協力すんの考え直しちゃおっかな~』『汚ねぇぞてめぇ!』
「っもう! アンタら見つめ合っちゃってなんなのよ?! バラなの!? そのままくっついちゃうのっ?!」
まずい、オーバーヒート寸前だ。
もうこれ以上、須藤と見つめ合っている場合じゃない。ったく、せっかくキメるチャンスだったのに仕方ない。どうせ俺の方は大した理由じゃないし、ちゃちゃっと言ってしまおう。
「安心してくれ、イタい子とか全然思ってないから……。その、なんだ。今更だけど押し付けてしまってたな、と思ってさ。いろいろ任せっきりで、バツが悪いっていううか……」
ポリポリと後ろ手に頭を掻いた。
「真面目か! へんなところで冷静になってんじゃないわよっ」
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