87.見立て 一

 小湊さんと二人並んで歩く。ひとまず千佳に促された通り、小湊さんを連れて境内を下りていく。ここ上層では社殿と社務所、倉庫があるが、中層はがらんどうとした更地になっている。

 今は影も形もないが、当日はここに大型のテントを張りゴザを敷き、フードコートのような使い方をすることになっている。下層の屋台村で購入した飲食をこの中層で食べる形だ。参道の脇に積まれた資材はきっとそのテントの材料で、これを明日組み立てるという話なのだろう。

 中層を通り抜け、屋台の設営を始めている下層に降りる。

 歩きながら、小湊さんにこれまでのことを話した。駅舎で聞いてもらったあの日から今日までのこと……。ゲンジさんと話をし、あの夢の真相を見つけたことからフェスで千佳の素の表情が見れたことまで包み隠さずに話した。


「うん、べつにアンタたちの惚気のろけはいらないから。そんなことより結局、アタシの読みは間違ってたわけ?」


「あー……」


 どういえばいいのだろうか。そうこう言い悩んでいるうちになにかを察した小湊さんは表情を変えた。


「あっちゃー。ごめんね、変なこと言っちゃったみたいで」


 しまった、と額に手を当てる小湊さんに、気にしなくていいと手を振って否定する。


「いや、あながち間違いってワケでもなかったから! それに小湊さんがあぁ言ってくれたから一歩前進できたというか」


「そうなの?」


「すごく助かった」


 小湊さんは、千佳が告白をなかったことにした理由を対等な関係じゃないからだと読んだ。俺が千佳に負い目を抱えているうちは、千佳が本当に望む関係にはなれない。だから千佳は、俺のトラウマを取り除こうとヒーローになろうとしている、と深いところまで読んでいた。

 それが単に正解かどうかと聞かれたら間違いとはなるけれど。本質的なところではまさに核心をついていた。


「そっか。あれからどうなったのか聞くタイミングもなかったし……。実のところ、アンタがなんにも言ってこないからどうしようかな~と思ってたのよ。ま、それならそれでよかったかな。それで? 今日の話はなに?」

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