66.ここだけの話 三

「それでよ、そっちの方はどうなんだ?」


 それぞれの現況を仮決め地図に落とし込み、調査も終わりという頃。


「それって?」


「お前と相楽さんだよ。ほら、夏休みじゃん? こう、二人だけの過ごし方っていうのか? やっぱ気になるじゃん」


「そんなの聞いたところでつまんないから」


 小湊さんならまだしも、須藤に話したところでな……。それに今は微妙な関係過ぎて口にしづらいというのもある。


「つまんないかは俺が決める!」


 その自信はなんだよ。


「あー、特に変わらん。お前が期待してるようなことなんてない」


 いつもと同じように軽くあしらう。


「そうなのか? なんかあるだろ、なんか」


「ないよ。ってかお前はなにがあると想像してたんだ?」


「たとえば……。ほら、ドッキドキのお泊りとかあるだろ」


「ない」


 確かに須藤から見たら、状況的にそういうのもあるだろうと期待するんだろうけど。


「一度も?」


「ない」


 千佳が夜までいることはあるが、夜食が食べ終わると片付けて帰るのが流れだ。


「二人でくっつきなながら映画見たり、ゲームしたり……、その間に風呂沸かしたりしてさ、『お前、先入ってくればいいぞ』『ううん、あなたからどうぞ』なんてなんてな!」


 ……。


「ぁ、ごめん、やり過ぎた」


 一睨ひとにらみするとすごすごと引き下がった須藤は、仮決めの地図をパタパタと、団扇うちわがわりにあおぐ。


「まったく。とりあえずお前は小湊さんのことだけ見てろ」


「祐司……」


 須藤は口をぽっかりと開け、呆気にとられたようにこちらをまじまじと見てきた。


「なんだよ?」


「お前、時々すっげー恥ずかしいこと言うよな」


「っ……!」


 今からでも遅くない、小湊さんには考え直したほうがいいと口添くちぞえするか?


「っはっはっは、冗談、じょうだんだよ!」


 コイツどうしてくれようか。


「そんな顔で見んなって! お前のそういうところ、俺はすげー助かってる、ありがとな」


「……どういたしまして」


 思うところはあるが、とりあえず口添えはやめといてやろうか。なにはともあれ、選ぶのは小湊さんだしな。


「さて、それじゃ今日の分はこれで終わりだよな? 解散ってことになってるけどまだまだ時間あるし……。俺、ちょっと体育館に行ってみるわ。祐司は?」


「そうだな……。俺はちょっとこのあと用があるからここで別れよう。もしまだ千佳たちが体育館にいたら、そのまま場所決めてくれていいから」


 俺の意見は須藤から伝わるだろうし、任せて大丈夫だろう。


「あぁ、わかった。それじゃまた!」


「じゃぁな!」


 あ、そうだ。須藤、道は大丈夫だろうか? まぁ、そんなに難しい道でもないし体育館は田の真ん中だ。遠くからでも見えるし、気にするまでもないか。

 それよりも今は考えなければならないことがある。

 小湊さんに突きつけられたこと。

 俺が千佳をどうしたいか、どう思っているか、だ。

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