40.思いつき 四

「……ごちそうさまでした」


 空になった弁当箱を前に手を合わせた。千佳は上機嫌でにんまりとこちらを見続けていた。


「ふふ、お粗末さまでした」


「……」


 千佳にとっては本日のメインだったのかも知れないが、俺にとっては無言でじぃ~っと食べてるとこを見られるという、ただただ気まずいだけの昼食だった。


「お茶飲まれますか?」


「……そうだな、一杯だけ」


「はい」


 口をつけている間に千佳は、保健室と暖簾で繋がっている給湯室のシンクに弁当箱を置いた。台拭きを手に戻ってくると、テーブルを綺麗に拭いていく。


「? どうしました?」


「なんでもない」


「そうですか」


 ……至れり尽くせり、なんだけどな。でもそれは全部罪悪感からで……素直に喜べないんだよな。


「さ、祐司さんは先に皆さんのところへお戻りください。私は綺麗にしてから戻りますので」


 千佳は空になったコップを俺の手からひょいっと取りあげた。ここで洗い物まで済ましてしまうつもりだろう。

 休憩時間はまだまだあって、このまま休んでいてもなんら問題はない。けれどここは千佳の言う通りにしよう。正直、今のこのぬるい空気感がムズムズして仕方ない。


「分かった、それじゃ先に戻ってる」


「はい、いってらっしゃい」


「あぁ」


 洗い物を始めた千佳を残して体育館に戻る。と、さっきまでレクチャーを受けていた須藤達が動きを止めていた。手ほどきを受けているわけでもなく、なにやら話し合いをしているようだ。


「お、祐坊! ……美味うまかったか?」


「まぁまぁ?」


 美味おいしいと言えば美味しかったが、何が違ったと言われたら分からない。そもそもあんなに見られてるなかで、味わって食べる余裕なんてなかったしな。千佳の弁当のことだ。


「まぁまぁってこたぁ、そりゃぁ美味かったに違いにねぇ」


 ゲンジさんは白い歯を見せニカっと笑う。


「それでなんの話をしてたんですか?」


「おうそうだった、実はな、ちぃとばっかしこの子らに頼みてぇことがあってよぉ…………、屋台やらねぇか?」


 ……太鼓じゃなくて? 一体、なんの話をしてたんだ?

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