30.上に立つ者 二
それが一段落したころ、ゲンジさんに呼ばれて体育館を出た。
「連れ出してすまんな、祐坊」
「大丈夫です。それに向こうは千佳が上手くするでしょう」
ゲンジが運転する軽トラックに乗り込み、田んぼ道を移動していた。全開の窓から吹き込む風が気持ちいい。
「
「そんなに心配しなくても平気ですよ。それに、今日は二人も助っ人がいるので手が回らないこともないと思います」
「それならいいが……」
喝を入れる、檄を飛ばしているゲンジさんはとても怖いが、普段は面倒見が良く慕われている。だから演者の皆さんもついて来ようと思うんだろうな。
「それで、じゃ」
「はい」
きた、おそらくこれからが本題だろう、ゲンジさんの声が一段低くなった。
「この夏祭り。あれ以来ずっと中止しとる花火を再開したいんじゃ」
「……」
あれ、というのは俺が崖から落ちた夏祭りのことだ。あの日、真っ先に駆けつけてくれたのもゲンジさんだったらしい。
「頼む」
「……いつも言ってるじゃないですか。俺たちのことなんて気にする必要はないと」
あの事故を引きずっているのは俺達だけじゃない。当時、打ち上げ花火は青年団の主導で行われていたイベントだった。
そしてその頃からすでにゲンジさんは団長として関わっており……。
「そのたびに言うが、そいつぁ無理な話だぜ。少なくとも俺の目が黒いうちはな」
事故以降、夏祭りから打ち上げ花火は姿を消した。花火自体に問題があったわけじゃない。けれど事態を重く見たゲンジさんが中止を決めたんだ。
それからというもの。復活の要望があってもすべてゲンジさんが断っていたらしい。
「と言われても、俺達には止める権利もありませんしどうすることも」
いくら俺がいいと言っても「やっぱやめだ、やめ」とこれまで中止を繰り返してきた。きっと、踏み出せない大きな心的抵抗があるんだろう。
「見てほしいものがある」
今回も平行線を辿るだろうと半ば思っていた。なのに。
「見てほしいもの?」
こんなこと言われたのは初めてだ。ゲンジさんがなにを見せたいのか、それでどうなるのかも見当がつかない。
「ついたぞ、祐坊」
ゲンジさんに連れられて着いた先、そこは祭り会場となる神社だった。
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