18.校外学習 二

 須藤は頭を抱え、忌々いまいまもだえる。

 けれどこの班のメンバーは、当然須藤だって知っていたことだ。いくらテスト終わりで気が抜けていたとしても忘れているほうがおかしい。


「いいじゃないか、小湊さんと一緒で」


「振られてなければな!」


 たしか、先生が班を作るよう指示をしたとき、小湊さんを誘ったのは須藤だった気がする。

 班決めをしたのはいつだっただろうか。テスト期間に入る前の話だから、一月ひとつき前の話か。それから今日までに須藤は振ら……れてはいないが、早とちりで玉砕したと思い込んでいる状況に変化した。

 ショックで真っ白になって頭から今日のことが飛んでいたのかもしれないが、だからといって、今日を悪いように捉えるのは早計そうけいじゃないか?


「……あれから須藤は、小湊さんとちゃんと話せてるのか? なんかギクシャクしてるように見えるけど」


 必要以上に意識しすぎてしまっている気がする。


「いやお前、気にすんなって方が無理だろ……」


 だったら余計にこの機会を逃さない手はない。


「お前だって、こんな気まずいまま夏休みに入るのは嫌じゃないか?」


「そりゃ、まぁ」


 やんわりとした同意が返ってきた。


「小湊さんだってそうだと思うぞ?」


「……そうか?」


 小湊さんと協定を結んでいる以上、ずばりそのままを伝えることはできない。けれどこれは一般論、あくまで一般論としてさとす程度なら大丈夫だろう。


「誰だってそうだよ。このまま夏休みに入ってさ、そりゃ休みの間はいいかもしれない。顔を合わせないし、ばったり会うこともないからな。でも夏休みが終わるころになってだんだん不安になってくるんだ。次、どんな顔で会えばいいのか、どういう態度をとればいいのか、ってさ」


「まぁ、同じクラスだから絶対に顔合わせることになるけどよ……」


 他のクラスだとか、先輩後輩なら同じ学校でも会おうとしなければ会うことはない。けれど小湊さんと須藤……、俺と千佳も一緒だが、同じクラスだからどうしたって教室で顔を合わせてしまう。それに今日のようなこともある。意図的かそうでないかに関わらず、このまま避け続けることは出来ないだろう。


「しかも長い休みの後だから、余計にどんな顔すりゃいいのか分からないだろ」


「たしかに……」


 須藤は神妙な顔で頷く。ここまで来たらあとはもう少し。軽く背中を押すだけだ。


「だからこそ今日、小湊さんと同じ班で良かったと思わないか? 避けられてる、って訳でもなくて、ただ距離感がはかれなくてギクシャクしてるだけなんだから。話題だってあるし、俺と千佳もいるんだから話しやすいだろ」


 話題は当然この校外学習のことだ。到着後、班ごとに雁ヶ原パークのあちこちに設定されたチェックポイントを周ることになっている。

 それはアトラクションであったり、休憩所や別れ道となる三叉路さんさろであったり様々だが、話すきっかけはどこにでもある筈だ。

 それでも難しい様子なら、俺だってパスを出すくらいならできる。千佳は俺なんかよりよほどこういうことにも慣れているだろうし、もっと上手くやるだろう。

 関係改善、あわよくば須藤の誤解まで解けて、そのままゴールしてくれると助かるけれど……。そこまで期待はできないか?


「……分かった。ちょっくら頑張ってみるわ。だから付いていてくれよ、裕司? いざとなったら頼むから」


「あぁ」


 実際、小湊さんからも関係の修復は頼まれていることだ。そちらからの歩み寄りもあるだろうし、さほど重く考えなくても大丈夫だろう。


「ところでさ、祐司。この雁ヶ原パーク? って行ったことあるか?」


「ない。どこか行こうとなっても、むしろ近すぎて候補に入らないまである」


「そっか。俺も似たようなもんだわ。小湊さんはどうなんだろうな? 俺が知ってたらリードできたんだろうけど……」


「それこそ本人に聞いてみたらどうだ?」


「そりゃそうなんだけどよぉ……。こう、まだ覚悟ってやつがな?」


「着くまでに決めといてくれよ? そうでないとこっちも困る」


「おぅ……」


 なおも不安げな須藤を乗せて、バスは快調にひた走る。移動時間はそれほどでもなく、道もいていたたためか午前九時四十分、バスは予定時刻の十分前に雁ヶ原アドベンチャーパークへと辿り着いた。

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