悪役令嬢の武器はヒール?いいえ、得物です

夢兎

プロローグ

1

剣を携え、城下町を歩く

その姿は美しく、誰もが目を奪われた

血に濡れた鎧と瞳

誰かが言った

あの鎧は血を浴びすぎた証拠だ、と

多くの者はその女を避けおぞましい、と退けるのだろう

誰かが物を投げた

だが、それは罵倒を意味するものでは無い


「シャーテ嬢!また派手にやってきたんだなぁ」

「…あぁ!これでやっと王の御前に上がれるってもんさ」


宙を舞う果実をぱしり、と手に取り、女はその頬を緩めた

それが、彼女がと示す証拠

怯える必要のないこの国を守護する戦乙女の証

果物売りの男が口火を切れば、次々に労い、感謝の声が自ずと上がる

悪魔へと成り下がっていないのなら彼女は国が誇る1人の貴族だ

勿論、はしたないと蔑む者もいるだろう

貴族というのは働く庶民を茶菓子に高価な茶を吐き捨てるものだ

彼女のように、戦果を上げ、王への謁見を得るは、まず居ないことだろう


「シャルラッテ・ストラーダ様、国王陛下がお呼びです。こちらへどうぞ、ご案内致します」


いつも出迎える、とは明らかに違う身なり

あぁ、いよいよだ、と女の胸がざわつく

━━━━━━━━━━これは、恋心などではない

だが、敵意でもない

すれ違う人々は、物珍しそうに女を見ては声を揃えて言う



それは女自身が、という訳ではない

"女"という性を授かった者が、という意味だ

大きな戸がゆっくりと開く

その瞬間に、人々の視線が女の胸を貫く

親を殺された子供のような、恨みを込めた瞳

我が子よりも先に王への謁見を許された女への妬み

一歩、一歩と王へ近づく度に、彼女の身へと刺さる視線は太さを増す


「………シャルラッテ、ドラゴンの討伐ご苦労であった」

「…ありがたきお言葉。恐悦至極に存じます」


跪き、女は深々と頭を垂れた

一言、労いの言葉をかけただけだと言うのに、周りの空気は張り詰めた

その空気を、女は肌で感じ取った

しかし、理由は知らない

女の視界を占めているのは床に広がる赤い絨毯だけで、


陛下が目前へ来ていることを目で捉えることも、耳で捉えることも、できなかったのだから


「………これ程の大義、ご苦労であった。貴殿には褒美をやろう。何が良いか、申してみよ」

「はっ…では、ひとつだけよろしいでしょうか」


ゆっくりとその頭を上げ、女は王の背後を見た

ぱち、と黄金色の瞳が重なり、その男は視線を落とした

唇を噛み、どうせ誰もが同じ事を望むのだ、と男は拳を握る

女がその望みを口にすれば陛下は快く承諾するのだろう

それだけのことを、女は成し遂げたのだから


だが、


「アイザック・スィーダ殿下の…」


女は


「弟子にしてください!!」


少し、変わっていた

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