第16話
プレゼント配達と時折戦闘を繰り返しながら、二人は東京の空を飛び回る。
気付かないうちに、雪は次第に強くなっていった。既に少し積もり始めており、このまま降り続ければ配達の難易度はますます高まることが予測される。
「こいつは急いだ方がいいな」
「あのー隊長」
「どうした?」
「悪い子のところには黒いサンタさんが来るなんてこと、ありませんよね?」
「何だ藪から棒に。そんなものは人間が作った迷信だ」
「ですよね。でもそれならあれ、何なんでしょう?」
真琴は東の空を指差す。修二はそれを拡大して見た。
夜の闇に紛れて空を飛ぶ、四機の黒いサンタロボ。しかも橇に乗っておらず、自身のスラスターで飛行している。その上手にしている物は、どう見てもバトルロボ用のビームガンだ。
修二の目つきが鋭くなる。あれは明らかにこの場で異質な機体であった。
「天宮、お前はこの場に待機し梶村と坂本を呼べ。俺はあれに対応する」
修二はそう言うと、橇のブースターを噴かせて黒いサンタの方へとスピードを速めた。
黒いサンタが飛んでいる位置は東東京支部の担当地区であり、西側のパイロットは原則として無許可で侵入することはできない。しかし不審な機体の発見という緊急事態とあっては、軍人として放置するわけにはいかなかった。
「そこの機体、何者だ! 所属と名前を言え! サンタロボは本物のサンタクロースに則り、ボディカラーは赤と定められている。機体を黒く塗っている理由も答えてもらおう。もしも返答が無くばテロリストと認定する!」
修二は不審な機体に通信を試みる。サンタロボに偽装したテロリストなんてものが東京に出現したことは、少なくとも修二が知る限りでは前例が無い。だがもしも何者かがそんな恐ろしいことを考えたとしたら一大事だ。
この時点で、修二は既に内心では相手をテロリストだと断定していた。まともに話のできる相手ではないだろうし、確実に戦闘になる。
だがその予想に反し、不審機のパイロットはこちらに通信を返してきた。
「こちらサンタクロース協会東東京支部所属、久瀬辰則少佐だ」
「久瀬!? 久瀬だと!?」
返ってきたのは、修二のよく知る名前と声。かつて軍学校で首席の座を競い合った久瀬辰則である。
「どういうつもりだ久瀬少佐。何故お前がそんな機体に乗っている」
「この機体はサンタロボではない。サンタロボの支援を目的として設計された新型機、ブラックサンタだ」
「ならばそのビームガンは何だ。一体それを何に使うつもりだ」
「ビームガンの使い道だと? そんなものは決まっている」
久瀬の乗るブラックサンタは、銃口を地面に向ける。その先にいるのは、道路からじっと修二達の方を見上げている男だった。その手にはモデルガンが握られている。
「まさかお前……!」
修二が止めに入るより先に、真琴が飛び出した。橇のジェットを全力にして突っ込み、橇を踏み台にしてジャンプしビームガンを奪い取る。
「ダメです! サンタさんがこんなもの持っちゃ!」
「な……!」
久瀬が呆気に取られている隙に、真琴は得意の空中スラスター操作で再び橇に着地。更にそこから大ジャンプで、二機目のビームガンをハンマーで叩き落した。落下したビームガンは丁度真下に来た橇の上に落ちる。その橇に真琴機も着地した。
「葉山! 福田! さっさと撃て!」
久瀬が慌てて指示を出すと、まだビームガンを奪われていない二機が構えた。だがそれを読んでいた修二は速攻で二機からビームガンを奪取。
「こんな街中でビームガンを撃つ奴があるか! お前達一体どうした!?」
「てめー! 俺のビームガン返せ!」
福田が叫ぶも、久瀬が静止する。
「我々はサンタ狩りを傷付けずに無力化することを止め、抹殺する方針に変えた。それがサンタロボが活動する上で最善の方法なのだ!」
久瀬はそう言うと、部下三人と共に急速降下。それと共にビームソードを抜く。
「ちっ、奴ら地上に降りて直接サンタ狩りを攻撃するつもりだ!」
「そんなこと絶対許せません!」
二人は橇で追いかけるが、ブラックサンタの速度は橇にも劣らない。
先に着地したブラックサンタは、ビームソードでサンタ狩りに切りかかる。だがサンタ狩りはまるで気付いていないかのような様子で、ブラックサンタを無視して修二と真琴のサンタロボに銃口を向けていた。
修二は咄嗟の判断で空中からハンマーを投げる。ハンマーはサンタ狩りにもブラックサンタにも当たらなかったが、サンタ狩りがそれを避ける動作が結果的にビームソードも避けることとなった。
着地した修二は、再びハンマーを掴む。
「まさか、ブラックサンタは人間には見えていないのか!?」
「いかにも。こいつはサンタロボに使われる特殊な加工がされておらず、人間から視認されることはない。故に敵に気付かれることなく抹殺することが可能なのだ!」
何も知らずサンタロボに銃を撃っているサンタ狩り目掛けて、四機のブラックサンタが走り出す。修二機と真琴機はハンマーを高速回転させて盾にし銃弾を防ぎつつ、サンタ狩りを守るため駆け出した。
「サンタさんは優しいんです! 人殺しになんてさせません!」
真琴はサンタ狩りとブラックサンタの間に割って入り、まずはサンタ狩りを眠らせる。続けて、ブラックサンタをハンマーで叩いた。しかし相手はノーダメージ。当然である。催眠ハンマーは巨大な有機生命体を傷付けずに無力化することを目的として設計されたもの。機械であるブラックサンタには通じないのだ。
「フン、何故そんな奴を庇う必要がある? そいつは我々の敵だぞ!」
「ああそうだ。だが殺してはならないと命令されている」
修二はビームソードの攻撃を避けつつ、効かないとわかっていても牽制として何度もハンマーで叩く。
「だから言っただろう、東東京支部は方針を変えたのだと」
「それにここは俺達の管轄だ! お前らは自分の管轄で自分の仕事をしてろよ!」
「天宮の言うとおり、サンタクロースに人を殺させるわけにはいかない。いくらサンタ狩りといえど、一度でも人を殺せば人間達はサンタを敵として認識するぞ!」
「ブラックサンタは人間には見えない。サンタが殺したことにはならないさ」
「馬鹿を言え。サンタ狩りばかり死ねばサンタの仕業だと疑われるのは当然だ。そんなこともわからんのか」
ただでさえ二対四という状況に加えて、こちらの攻撃は一切通じない。修二達は劣勢に立たされていた。
しかも今、更に状況を悪くすることが起こっていた。サンタが地上に降りてきたのを見たサンタ狩り達が、この場所に集まってきている様子がレーダーに映っていたのだ。
池沢機と福田機の連携に対応するため真琴がマークを外したことで、葉山機が眠っているサンタ狩りに向けて飛び出した。
「くっ、させるか!」
久瀬機に対応していた修二は、葉山機への対応も迫られた。
その時、空から二機のサンタロボが降ってきた。
「お待たせ! 隊長! 真琴ちゃん!」
「なんかヤバいことになってるっスね!」
美咲機と和樹機が到着し、葉山機の進路を塞いだ。
「お前達、今までの会話は聞いていたな」
「ええ」
「勿論」
「よし、ならばとにかく奴らをどうにかするぞ」
「でもいいんスか? 一応味方同士で……」
と、そこで基地から通信が入った。
『こちら田中中将じゃ。これよりわしの独断で久瀬隊を危険思想のテロリストと認定し、荒巻隊にその鎮圧を命じる!』
「了解!」
田中将軍の素早い対応。正式に命令が出たことで、荒巻隊四人は気合を入れて身構える。
だがこれが不利な戦いであることに変わりはない。こちらの攻撃が通用しないことに加えて、サンタ狩りの存在もある。サンタ狩りは敵であると同時に護衛対象。ブラックサンタとサンタ狩りの両方と戦いつつ、ブラックサンタからサンタ狩りを守らなければならない。あまりにも無茶な高難度ミッションである。
「ブラックサンタのあのエンジン音……天下無双社の覇天じゃないかしら」
バトルロボについて詳しい美咲が、そんなことを言う。覇天の名で知られるバトルロボは、日本最強とも謳われる最新鋭機。サンタロボに劣る部分が存在しないほどのスペックを持つ機体である。
「よく気付いたな。こいつは覇天をベースに黒いサンタのガワを被せたもの。自国の最強兵器を敵に回す気分はどうだ?」
池沢が煽る。だがその瞬間、修二機が池沢機の眼前に現れた。足払いで転ばせて、ハンマーの柄で右肩の関節を突く。そして自機の左腕を支点にした梃の原理で相手の右腕を引っこ抜いた。
「何!?」
驚く池沢。相手がバトルロボである以上、人間相手には使えない戦法が使えるということだ。
ビームソードで切りかかってきた久瀬機に対し、修二は池沢機を持ち上げて盾にする。だが久瀬は部下を盾にされようが構わず剣を振る。その太刀筋は池沢機を真っ二つにする勢いであった。
修二は盾の位置を少しずらし、ビームソードの当たる位置を左肩部に変える。池沢機は左腕を切り落とされるも、パイロットは無事だ。修二は続けて、池沢機を久瀬機目掛けて投げつけた。久瀬機は腕で池沢機を払い除ける。その隙に修二機は、池沢機の落としたビームソードを拾った。
「ひえぇ……完全に戦い方がケンカっスね……」
修二の荒々しい戦い方に、和樹はドン引き。
「坂本! サンタ狩りを安全な場所へ!」
「了解!」
修二から指示を受けて、和樹はぴしっと背筋を伸ばした。美咲と二人で福田機と戦っていたが、戦闘を美咲に任せてサンタ狩りを抱え走り出す。美咲は福田機の進路を塞ぎ、和樹の行動をサポート。
少し離れた位置の歩道にサンタ狩りを寝かせると、和樹は戦場に戻る。美咲の実力では一人でブラックサンタを相手にするのは厳しいものである。
一方で葉山機は荒巻隊を無視して一機だけスラスターを吹かして空へと飛び立った。狙いは空中に固定された修二の橇に載せられた、ブラックサンタのビームガンの奪取。油断して一度は奪われたが、サンタロボにはない遠距離武器を手にすることができれば更に優位に立てる。
しかし葉山機をマークしていた真琴は、機体を葉山機にしがみ付かせて一緒に空へと飛んだ。
「げっ、何だこいつ!」
葉山は振りほどこうと機体を暴れさせるも、真琴機は全身を使ってがっしりとしがみ付く。更に暴れる腕を掴んでよじ登り、背中のビームソードを抜き取った。
「なっ……」
真琴機は更によじ登り、葉山機の頭を踏み台にジャンプ。橇に飛び乗るとプレゼント袋を回収し、ビームソードで橇ごとビームガンを刺し貫いた。橇とビームガンは共に爆発し、夜空を照らしながら粉々に砕け散る。真琴はビームサーベルのビームを仕舞うと、機体の膝で柄をへし折る。
「すいません隊長! 橇壊しちゃいました!」
「構わん。よくやった」
ビームソードで池沢機の両脚とスラスターを切り落とし、完全に行動不能にする修二。続けて合同演習の時と同様に、一番強い久瀬を一人で引き付ける。久瀬ならば話がわかると考え、戦いながらも、どうにか説得を試みた。
「お前達のやっていることはただの暴走だ。今すぐ止めろ!」
「違うな。これは東東京支部の正式な命令を受けての行動だ」
「お前は何がしたいんだ久瀬。人間と戦争でもする気か?」
「サンタ狩りを抹殺することで、隊員は安全に配達ができるようになるのだ。今回の試験運用でブラックサンタの有用性が認められれば、いずれは全支部に正式配備されることだろう」
「こんな軍規違反の代物が正式配備などされるものか!」
「今更優等生ぶるなよ荒巻。常識が無く根っから頭のいかれたクズがお前という男だろう!」
ビームソード同士で打ち合いながら、二人は問答を続ける。
「結果は過程を覆す! 今は軍規違反だろうと、最終的には我々が正しかったと証明されるのだ!!」
圧倒的なパワーで、久瀬機は修二機を押し返す。ビームを受けられるのはビームだけ故に、修二はビームソードでしっかりと受け止めた。
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