第10話「ブレインウォッシュの効果とは」
もうなりふり構ってられない。
「
テクニカルな動きで小箱が揺れ、無機質なメッセージが流れる。
『洗脳対象のDNA情報を入れてください』
懐かしい。七年前以来だ。
「
麗良……。
俺がいじめにあっているのも麗良が俺の話を信用しないのが悪い。俺への信用度を無理やりにでも上げさせる。慰謝料なんて絶対に払わないぞ。
麗良の髪の毛を入れる。金髪の艶やかな髪の毛が中に吸い込まれていく。
『対象を認識中……』
メッセージが流れる。
大丈夫か?
自分の爪に巻き込んでいた髪の毛だ。DNA情報が劣化していたら本人を認識できないかもしれない。
少し心配していると、
『対象を認識しました』
無機質にメッセージ音が流れた。
よし、うまくいった。
ぐっと小さくガッツボーズを出す。
そして、
『洗脳する内容をインプットして下さい』
そして、キーボードが空中に浮かび上がる。
洗脳内容……。
昔みたいに偉人の前世をインストールしたら、ややこしいことになる。仮に麗良に「田中正造」の記憶をインストールしたとしよう。田中正造は、正義の人だ。クラス内のイジメを止めてくれるかもしれない。だが、偉人の記憶は、あまりに前と性格が変わってしまう。それは、「まさし君」で確認済だ。
ある程度今の性格を維持するためにも、うってつけのものがある。
俺が執筆中の小説「ヴュルテンゲルツ王国物語」だ。本小説に登場するキャラ、レイラ・グラス・ヴュルテンゲルツの情報をインプットすればよい。何せレイラは、麗良の性格をもとに作ったのだ。洗脳しても性格はそこまで変わらないだろう。
そして、何よりレイラは、主人公ショウを絶大に信頼している。レイラの記憶をインストールすれば、ショウこと俺への信頼度ば必然的に爆上がりだ。
ふふ、思えば……。
小説を書き始めた時、無意識にこれを望んでいたのかもしれない。
空中に浮かんだキーボードを使い「小説、ヴュルテンゲルツ王国物語に登場するキャラ、レイラ・グラス・ヴュルテンゲルツの記憶」と入力する。
間をおかずして、メッセージが流れる。
『承認しました。次にヴュルテンゲルツ王国物語に関する情報をインプットして下さい』
「ヴュルテンゲルツ王国物語」の原稿をパソコンからUSBにコピーし、そのUSBを
『認識中……』
メッセージが流れる。そして、
『小説、ヴュルテンゲルツ王国物語の情報のインプットが完了しました』
これで、およそはオッケイ。後は、
『洗脳するデータ量を設定ください』
空中につまみが現れる。元の記憶と洗脳する記憶を調整する。
これくらいか……。
つまみを五割に固定する。
麗良には、今まで生きてきた人生がある。むかつく奴だが、それを無碍にするわけにもいかない。やりすぎはいけない。六割以上にしてはいけないだろう。ただ、レイラの記憶は、幼少時から即位までは絶対に必要だ。ここでショウとの絆が生まれるからだ。
洗脳する記憶量に値する小説のページを閲覧する。
五割で小説でいうドルアガギール攻略までの記憶ってところか。
どうせなら……。
つまみを少し上乗せする。
この記憶量は、帝国とのヴェルガーナ撤退戦でショウが壮絶な戦死を遂げるまでだ。厳密には、戦死ではないのだが、レイラはそう思っている。レイラがショウの生存を知るのは第二章からだ。
これなら架空とはいえ、劇的な再会が期待できる。
『これでよいですか? インストールを開始します』
メッセージが流れる。
あとは、空中に映し出されたキーボードのEnterキーを押すだけだ。これで洗脳が完了する。
ボタンを押せば、もう引き返せない。最終確認だ。
迷いはない。
草乃月財閥と小金沢グループ、天下の両財閥に敵認定されたのだ。もはや正攻法だけでは解決できない。禁断の手を使うしかないのだ。
麗良……。
イジメを黙認するだけでも腹立たしいが、麗良は「慰謝料」という形で俺も俺の家族も攻撃しようとした。俺の中での秤が「使用」に傾いた瞬間である。
やる!
Enterキーを押す。
『対象へのインストールを開始中……対象へのインストールを完了しました』
はぁ、はぁ、やってやったぜ。
これで俺の言葉も麗良の耳に届くだろう。
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