巡り合わせ 第九部
有沙さんたちの声も遠くなり、俺が校門へ着くとネームホルダーを渡してくれた警備の人が出迎えてくれた。
「もういいのかな?」
「はい。これ、お返しします」
警備の人は俺のネームホルダーを受け取り、頭にかぶった帽子を取って、会釈をしてきたので、俺もそれに合わせて会釈をし、高ノ宮高校を後にした。
今日あった堀田先生。有沙さん。そして理央。この三人について思い出す。
堀田先生はこれからも綾さんのことでなにか情報を握られるかもしれない。
有沙さんも今日以外にも何か思わない情報を持っているかもしれないことがわかった。有沙さんの場合、堀田先生と違い親友でありがなら綾さんの悩みについてはわかっていななかったようだった。それは友達という考えでは少し残念だが、今はそんなことは関係ない。有沙さんが認識していないだけで、もしかしたら綾さんは有沙さんにメッセージを残しているかもしれない。
そして、この二人との関係を考えていく上である意味一番大きな人物である理央という少女。有沙さんの後輩ということでおそらくテニス部の後輩。彼女も綾さんのことを知っているようだったが、学年も違うであろうこともあって綾さんのことは詳しくは知らないそぶりだった。だから、綾さんについてのことはあま理期待できない。
しかし、彼女のことを考えずには先の二人のことを考えることもできない。どうにかしないといけない。
有沙さんについてはチャットアプリを通して行えばそこまで問題は起きないだろう。
問題があるとしたら堀田先生だ。
堀田先生ともう一度会いたいとなったら、高ノ宮高校に行くしかない。一応、学校に電話して話すことはできるだろうが、今日みたいな会話をするのであれば、電話だといささか長すぎるし、先生とてそんなことをされたら困るだろう。
先生は生徒と一心同体みたいなものだから、生徒が学校にいなかったら、先生も学校にはいない。今日みたいに、部活生がいれば、顧問の先生もいるのだろうが、結局のところ、堀田先生に会おうとすれば、理央がいる可能性も高いということだ。
(まぁ、しばらくは置いてといていいか……)
帰り道の人混みの中、空を見上げ、問題を放棄する。
堀田先生に会うまでに綾さんの最後の言葉の真意に気づくかもしれないし、それに、可能性を考えていてもしょうがない。別に理央自身は部活生。部活をするために学校にいるのだから、そう考えれば絶対に会わないといえば会わないのだ。
とりあえず、今日得た情報に満足して帰ろう。そう思って再び視線を前に移して、帰路につく。
目の前には赤色に染まる信号機。
そして、目の前をいくつもの車や、バイクが流れていく。
不思議と目的が出来てからは前みたいな死への意識はなくなっていた。
なぜか。
死のうと考えていた当時の俺には目的がなかった。
ということは、目的さえあれば人は生きていけるのか。
でも、そう考えるとおかしいことがある。
なら、なぜ綾さんは死のうとしたのか。
綾さんには今日だけでも、やること。それこそ、生きる目的というものが目に見えてあった。そして、生きていくだけの理由もあったのだ。
俺とは違いそこには明確な理由があり、その中身も実に有意義なものなのだ。ならば、この仮説は間違っていると言ってもいい。
なら、前の俺と、今の俺の違いは。
綾さんが死を意志した理由は。
そう思った時には、目の前の信号は青に変わっていたのだった。
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