【コラボ企画第一弾】『きみと桜の木の下で』×『魔法使いは約束を忘れない』

細木あすか

そのプレゼントの名前は【上】




 桜木風花さくらぎふうかは、「心のしずく」を探すべく異世界をさまよっていた。



 「心のしずく」とは、彼女の感情や遠い昔の記憶が込められているもの。とある戦争で砕かれてしまったそれは、さまざまな世界に飛び散ってしまう……。

 

 それを、彼女は自身の足を使って探しているのだ。




「……?」


 風花が降り立った場所は、いつもと違う魔力を感じる不思議な空間だった。


 自身に宿す魔力は普通に使える。それを確認するも、周囲に浮かび上がっている魔力は自身の中にないもの……。その事実に、首をかしげるしかない。



 そこは、見渡す限り森だった。太陽の光が木々の間から差し込み風花を優しく照らす……。


 その森の中には、今まで見たことがないようなカラフルな鳥が複数飛び交っている。

 元々表情を表に出しにくい彼女にすら、その光景は眉をひそめてしまうものになった……。


「……早く回収して戻らないと」


 しかも、それに拍車をかけるような寒さが襲ってくる。

 こんな寒い季節を彼女は知らなかった。きっと、周囲の温度はマイナス10°を軽く超えている。吐く息が白いだけでなく、魔法を唱えて常に防御していないと喉を痛めそうだ。


「……こっちね」


 近くに「心のしずく」があることはわかっている。すぐに回収できるだろう。



 しかし、その考えが甘かったと反省することになるとは、今の彼女には想像もつかなかった。





 ***





「……なにここ」


 森を抜けると、……いや、その先も森だったのだが……街らしい場所に出た。


 そこにも、相変わらずカラフルな鳥が飛び回っている。その鳥たちは、街中のあちこちにとまって休憩するように羽根を伸ばしていた。住民らしき人たちが気にしていない様子を見ると、それが日常なのだろう。


「鳩……ではなさそうだし」


 他に特徴と言えば、赤と緑色を中心にデザインされた店が多いこと、昼間なのにも関わらずイルミネーションが一律に輝いていることだろうか。


「……?」


 街中を恐る恐る歩いてはみるものの、その不思議な感覚が拭えず、身体が緊張してしまってうまく足を動かせているか怪しい。


 ただ、話している人の言葉を聞くと自身の知っているものだったのでそこには一安心。これで、言語が異なっていたらパニックになっていたに違いない。

 と、その時。


「……?」


 その街に入るまでは感じていた「心のしずく」の気配が、いつの間にか薄くなっていることに気づく。

 遠くに来てしまったのだろうか、全く気づかなかった。こんなこと、今までなかったのに……。



「……早く戻らないと」


 今日は、同級生の相原翼と魔法の練習をする約束をしていた。しかし、翼が直前に先生に呼ばれたために、時間が空いてしまったのだ。


 その時間を使って心のしずくを追ってきたのだが、時間がかかりそうな予感しかしない。あのまま、退屈になりながらも昇降口で待っているべきだった……。今、それを後悔しても遅い。

 風花は、その焦りを隠すように同じ言葉を繰り返した。



 なぜここまで焦るのかというと、この空間から抜け出す術がないことに気づいているから。

 原理はわからないのだが、何かのシールドが張り巡らされているのだろう。移動しようとすると、身体が拒否反応を起こしたかのように魔力の消費を拒絶するのだ。魔力を消費しないと、魔法は使えない……。




「……どうしたの?」




 キョロキョロと周囲にあるお店を見渡していると、後ろから心地よいアルト声が聞こえてきた。


「……」


 声をかけられるまで、全く気配を感じなかった。風花は、その「敵意」に似た鋭い視線を確認すべく、素早く後ろを向く。すると……。


「……」


 目の前には、少し年上だろうか、美羽と並んだら絶対に視聴率が取れそうと風花ですらわかるくらい整った顔立ちの青年がいた。にっこりと笑ってはいるが、その奥にある瞳は笑っていない。


「あなたは……?」

「俺?俺は、……ユキ。君は?」

「……私は」


 なんて説明すれば良いのだろうか?素直に言うべき?でも、言ったところで目の前にいる人が信じる確証はない。むしろ、怪しまれてなにをされるかわからない。


「私は……」


 そうだ、この薄い殺気は京也のものとよく似ている。と言うことは、敵意なのだろうか?それなら、やることはひとつだ。


 風花が構えを取ると、目の前に居た彼は、


「……で、後ろにいるのが風音先生って言うんだ。先生、防御よろしくね」


 と、風花の後ろに向かって言葉を発した。


「!?」


 振り向くと、真後ろにはガスマスクで顔を隠した男性が無言で立っている。こんな存在感のある人なのに、やはり全く気づかなかった。

 風花は、囲まれていることに気づくと素早く懐に隠し持っていた杖を出し、


「wind shot!」


 と、殺気を放つ方の青年に向けて素早く呪文を唱えた。


「交戦区域、フィールド展開」


 後ろにいるガスマスクの男性が同時に魔法らしき言葉をつぶやくと、周囲に大きなシールドのような空間ができあがる。が、周囲は特に変わらず、店が先程と変わらずそこら中に立ち並んでいる。この魔法は、何のためにあるのだろうか……。



 風花の放った風魔法が、目の前にいる青年へ一直線に飛んでいく。が、


「……へえ、見たことない魔法だ」


 と、言葉とは裏腹に余裕そうな顔をする彼。特に防御することなく、向かってくるものを興味深く観察していた。


「……!?」


 そして、身体にぶち当たるギリギリのところでその魔法が握りつぶされる。特に、何かのモーションがあったわけではない。風花は、驚きで目を見開きながらも首をかしげる。


「先生、サンキュ」


 どうやら、後ろにいるのは目の前にいる彼の「先生」らしい。その「先生」が防御をしたのだろう。

 この2人は、どんな関係なのだろうか?先生と生徒には見えない……。


「っ……wind shot!」


 再度呪文を唱えると、


「ほうほう、こうやるのね。wind shot」


 目の前の青年が、杖を使わず自身と同じ魔法を唱えてきた。


「……!?」


 互いの魔法が、目の前でぶつかり合って小爆発を起こした。それによって発生した砂埃で、視界が遮られる。風花は、目をつぶってはいけないとわかっていながらやはり目に入る砂を避けるように閉じてしまった。



「大丈夫?」



 すると、かなり近距離から先ほど「先生」と呼ばれた男性の声がした。その声に反応するように瞼を開くと、ガスマスクを取った彼と目が合う……。


「……!!」


 捕まる!そう思った瞬間、風花はなにが起きたのか理解できないまま、意識を手放した。





 ***





「あーあ、先生。初っ端から飛ばしすぎじゃないの?」


 天野ユキは、倒れた少女を瞬時に片腕で抱きかかえ、フィールド解除をしている風音ユウトに向かって発言した。


「……いや、傷つけたくなかったから」

「先生は紳士だなあ」


 そう言った風音は、自身の魔法によって気絶した彼女を覗きながら、ガスマスクを顔に戻した。



 ここは、ザンカンの街中。目の前で気絶している「不思議な雰囲気の子」にいち早く気づいたマナが、2人に確保するよう任務を言い渡したのだ。それで、2人が彼女と接触した、というわけである。


「怪しい子だけど、敵意はなかったし」

「まあね。でも、何だろうこの感じ。魔法界で初めて見るよ、こんな魔力」


 そういって、ユキは彼女を優しく抱き直す。

 見たことがない服装だった。どこかの受付などの制服を連想させるそれは、清潔感が漂う。首元には、ネクタイが綺麗に巻かれていた。彼女は几帳面な性格なのだろう。シワがないワイシャツからも、それがうかがえる。


「オレも。そういう血族いたっけ?」

「聞いたことないけど。マナなら知ってるかも」

「……元々、この子の存在察知したのマナだからな。とりあえず連れて行くか」

「はーい。俺持つよ、先生だと変なところ触りそうだし」

「触らない!」

「って本人は言ってるけどね」

「……はあ。行くぞ」

「はーい」



 とまあ、いつも通りの会話をしながらザンカン皇帝の城を目指す。




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