「長男」と「舎弟」

 日本語の方言では「兄」と「弟」を言いわける言葉が豊富だ。


 ・長男


 あんか・あんまなど(金沢)


 ごで(青森)


 ちゃくし(沖縄) 


 ・弟


 しゃで(宮城など)


 しゃでー(茨城など)


 しゃてー(静岡など)


 おとんぼ(兵庫、奈良など)


 うっとぅ(沖縄)




 こうして見ると分かるが、「弟」を表す方言として西日本では標準語と同じ「弟」に準ずるもの、東日本では「舎弟」というのが使われているのが分かる。


 現在、標準語では「舎弟(しゃてい)」という言葉は弟分・子分のような意味で使われており、どちらかというとヤクザ用語的な感じだが、昔はそうではなかったようだ。


 はじめ、私は単純に舎弟というのが古語なのだろう(=方言周圏論)という考えに囚われていたが、ことはどうもそう単純ではないらしい。




 私は静岡県の出身なのだが、母の話では、自分の父(=私の祖父)が兄弟を指して「下男(げなん)」や「舎弟(しゃてい)」と呼んでいたそうだ。長男と舎弟の間には明確な力関係が存在し、逆らうことも許されなかったらしい。


 和歌山大学の澤村美幸准教授が2016年に発表した「方言伝播における社会的背景 : 「シャテー(舎弟)」を例として」によると、東日本では長子相続が多く、はじめ近畿の武士階級の言葉として使われていた「舎弟」が日常語として普及したという背景があるらしい。


 こうして見ると、ある方言の語が定着するにはこうした社会的な要因もあるようだ。

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