夏が好き

@takamatsu_a

夏 破壊 希薄な罠 指定なし(ポエム)



きっと罠だったんだと思います。

それも、かなり幼稚で低レベルな。


夏が嫌いだったんです、私。

いや失礼、この表現だとちょっと語弊がありますよね。言い方を変えましょう。

私は誰よりも夏が好きだったんです。

あら、そんなおかしな顔なさらないで?

難しい話をしようって言うんじゃないんですよ、

ほんとです。

むしろ何よりも簡単なことのはずよ。

だって、これは感覚のお話ですから。


いいですか。

夏っていうのは、絵画なんですよ。

青い空、白い海、向日葵。

もちろん飛んでいる鳥は

白いカモメでなくてはダメです。

聞こえてくるのは波の音だけ。

白くて細い腕が

真っ白のワンピースからすっと伸びて、

麦わら帽子を掴むような、そういうのじゃないと。

ほら、いまあなたの頭にできた絵画。

それはきっと紛れもなく、

ほかの何よりも夏でしょう?

私はそんな夏が誰よりも好きだった。

ええ、誰よりもです。譲りませんよ。

誰よりも好きだった。誰よりも好きだったんです。



でもねえ、嫌いになっちゃったの。

なんでって。だって、暑いじゃないですか。

夏は暑いんですよ。だから嫌いなの。

当たり前だって?おかしなことを仰るのね。

夏が暑いものだなんて

私は全然知らなかったんだもの。

私の大好きな夏には

雨なんて一滴も降らなかったのよ。

でも見てよ、この豪雨。

おかげで何もかもぐしょぐしょだわ。

白くも細くもない私の肌には、

白いワンピースはこれっぽっちも似合わなかった。

この世のどこにもなかったの。私の夏。

ふと気づいて、全部が嫌になってしまった。

夏が来るのを、

あんなに楽しみに待っていたのよ、私。

跡形もなく、壊されちゃった。

何もかもどうでも良くなったのよ。


きっと罠だったんです。

そう、1番最初に

誰かが私に偽物の夏を与えたから。

簡単なことですよ。

とっても低レベルなんです。

幼稚で、無駄で、無意味。



不幸だと思いますか?私の事。

幼稚な悪戯に騙されたままでいたら

幸せだったって


あら、私はそうは思いませんよ。

むしろ、助かったと思っているの。

だって雨の降らない夏なんて、無いのよ!

おかげで似合いもしないワンピースを

誇らしげに着るような、

恥ずかしい女にならないですんだわ。


夏なんて、大嫌いよ。

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