第9話R

 続きを読んでいくと僕と四天王との激闘が書かれてあり、何度もページをめくっても終わりの見えないストーリーが永遠に繰り広げられていた。


「…なるほど……」

 細かい点は違うみたいだけど、どうやら直近の分岐点は大きく分けて三通りあるみたいだ。


〈ルートⅠ〉 このままエルフの国に行く。そして、僕のせいで四天王の一人に目を付けられたこの村がなくなった事を知る。

〈ルートⅡ〉 近くのギルドに行った後に四天王の攻撃により、この村がなくなった事を知る。

〈ルートⅢ〉 この村に滞在していた僕と四天王が戦う。そして…為す術もなく僕が死ぬ……。


「…ったく……。ろくでもないな…」

 僕は立てかけてあった剣を手に取り、強く握りしめながら少しだけ抜いた。鞘からキラリと光る剣に写っていた情けない顔と見合わせながら、しばらく考えた後、僕はゴブリンを倒した地に向かうことを決意したのであった。

 



「……」

 あれか…。ヤバそうな雰囲気だな…。

 草陰に隠れ、息を殺しながら辺りの様子を観察していると、そこには見るだけで気分が悪くなる様な重い空気を解き放っている黒騎士が突如として歪んだ空間から現れた。ステータス画面のマリシアウルネクストも高速で点滅している。こいつが四天王の一人だろう。

「……」

 仲間は他にいないようだな…。

 黒騎士は特に何をするわけでもなく、ゴブリン達を葬った場所で立ち尽くしている。もしかすると、魔法で犯人の行先でも調べてるのだとしたら、かなりまずいことになるな…。……だとしたら……。

「……」

 やるなら今か…。

 僕はゴブリンを倒した地で四天王の一人と戦うことになった。僕は数々の魔法を駆使し、目にも止まらぬはやわざで数々の剣技を……。……なんてすると思うか? 

 あいつの本体は実はあの剣らしい。バリアブルブックに書いてあった弱点の雷魔法の不意打ちでたたく。情報とは使われるのではなく使うんだよ!

「…くらえ!」

 僕は水の魔法も同時に使い導体として利用し、紫色に光る雷魔法を魔力がなくなるまで叩き込んだ。しばらくすると土煙が薄らいでいき、同時にステータス画面にメロディーが流れた。どうやらレベルが上がったみたいだ。


「…倒したみたいだな。でも…」

 妙だな…。あまりにも弱すぎる…。…本当に倒したのか? ……確認してみるか…。

 僕は恐る恐る立ち尽くしている黒騎士に剣を抜いて近づいていくと、ガタッと鎧が動いた。僕はヒビッて反射的に後ろにジャンプしたが、それ以上は黒騎士は動かない。風か何かに揺られて動いたんだろう。

「……びっくりさせやがって…」

「……れよ」

「…え?」

「喋った…!? ……ん?」

 黒騎士が急に喋ったかと思うと鎧は砂のように崩れ落ち、僕の胸の辺りに吸い込まれた。夜のように黒い不気味な黒騎士の本体である大剣も、耳鳴りのような高い音が聴こえると同時に吸い込まれた。しかし、不思議なことに紫色の結晶は僕の胸ではなく、僕が持っている銀色に輝く剣に吸い込まれた。それにあいつが言った最後の言葉…。どういう意味だったんだろう。


「まぁ…いいか…。倒したことだし…。それよりも…」

 僕は剣を鞘にしまった後、ステータス画面を開いてバリアブルブックを発動した。そう…未来を確認する為だ。だが、おかしな事が起きていた。

「……ない…。このページもだ…」

 村が消される未来も…。僕が死ぬ未来もそこにはなかった。未来の事が書いてあった箇所には、子供が落書きしたようなグニャグニャとした線がいくつもひかれ文字のようなものは見えなかった。もしかすると、本来書かれてあったこととは違う事をしてしまったからかもしれない。

「……まっ…チュートリアルってことか…」

 黒騎士を倒す直前まではどういう形であれルート通りだった。でも、ここからは自分で考えなきゃいけない…。当たり前のことだ。

でも、忘れているわけじゃない。結局…あと三体の四天王と魔王を倒さない限りこの村の脅威はきえない。…だからこそ、今ここで待つ必要がある。




「……」

 …あれは……。

 僕は草むらに隠れてしばらく待っていると、辺り一帯が黒い雲に覆われて小さな赤い魔法陣が上空に刻まれた。

「……」

 …何だ……? …攻撃か? …違う。なにか…現れた。

 さっきの黒騎士と負けず劣らず、大きな黒いオーラは近づかなくてもわかる禍々しさだ。恐らく四天王の一人だろう。

「……」

 …こいつもかなりヤバそうだ。不意打ちくらいならいけるか…。

「…お前がやったのか?」

「…え?」

 急に声をかけられ振り向くと、キラリと光る短剣を太ももに巻きつけた二本の小さい角が生えている褐色の女魔人がどこからともなく現れた。さっきの黒騎士と同様に強烈無慈悲な黒いオーラを纏っている。…ってことは、やっぱり四天王だ。

「…聞こえてるのか?」

「…だっ、誰だ!?」

 僕は体勢を崩すふりをしながら、チラリとさっきの魔法陣があった箇所を見ると何事もなかったように何もなく青い空が広がっていた。

 …ってことはさっきまで空中にいたやつが僕の背後に一瞬で回ったってことか……。まずい…。逃げの選択は消えたぞ…。もしかして…やっぱり四天王じゃない可能性も……。

「…私? 私はアーデル……。…魔族の国の四天王って言えばわかる?」

 終わった…。

 彼女は一歩一歩近づいてきている。だが、あまりにもいきなり過ぎて、僕は身動きを取れずに固まっていた。

「……それでそんなやつが、なんのようだ?」

 彼女は目の前に座り込み、僕の首筋を撫でた。死神の鎌で撫でられているような気分だ。

「この辺で黒騎士の気配が消えたらしいのよね。面倒なんだけど…その原因を探りに来たってわけ…」

「…黒騎士? 何なんだそいつは…。…っ!?」

 首筋が急に冷たくなった。呼吸も苦しい。

「私の質問に余計なこと以外言わずに正直に答える事…。…それが長生きの秘訣よ?」

「…わかった」

「…あんたがやったの?」

「…ちっ、ちがう。俺じゃない」

「ふーん…。レベルは2…。ゴミね…。…あんたはここで何をしてるの?」

「……えっ?」

 こいつ、ステータスが見えるのか!? …でも、嘘はバレてないみたいだ。だったら…。

 僕は四天王達が続々とやってくるループを断ち切る為に演じる事にした。彼女は汚いものを見るような目で僕の方をみた。選択を間違えると首と胴がバイバイするだろう。

「…聞こえてる?」

「俺は商人だ…」

「商人? ……何も持ってないみたいだけど?」

「薬草を探しに来たんだ……。そしたら…上空から変なドラゴンがやってきて…雷を黒い鎧を着た騎士に叩き込んだんだ。信じてくれ! …おっ、俺は腰が抜けて動けないんだ!」

「そう…。…どんなドラゴンだった?」

 …どっ、どんなドラゴン!?

「…上空にいたからよく見えなかったけど、なんか赤くて…羽が四つか六つ生えているように見えた。倒した後はすぐにどこかにいったみたいなんだけど…」

 ……もうダメか…。

 僕は半分あきらめて適当に誤魔化すと、予想と反して彼女の態度は一変した。

「羽が複数…? 金色の羽のようなものは見えた!?」

「えっ!? ああ、そうだ!」

 なんのことかわからないが僕は即答した。

「なるほど、やつならやりかねない…。だとしたら…こんなところにまで……」

「……」

 …よくわからないけど、納得してくれたみたいだ。…でも、村の中を見る限りではゲームにでてくるバハムートみたいな羽の生えたドラゴンなんていなかったんだけどな。どっちかというとトカゲ人間というか…。

「まあいいか…。目障りなやつをやってくれて助かったわ。次の四天王には私の部下を推薦しようかしら…。…ん?」

 妙なことに彼女は僕の匂いを嗅ぎ始めた。一歩間違えば死ぬって時に本当はおかしいんだろうけど、妙にドキドキとしていた。

「……本当は消そうかと思ったけど…。面白い匂いがしたから消さないであげるわ」

「……」

「じゃあね…。また会いましょう…」

 女は立ち上がると、不敵な笑みを浮かべて上空へ消えてしまった。僕はしばらく腰が抜けたふりをした後、宿屋に帰ることにした。





「あっ、どこにいってたのよ!」

 宿屋の入口にはアリスが怒って立っていたが、僕は完全に腰が抜けてベットに顔を埋もらせた。

「…ごめん」

 ……心を読まれていたら、完全にやられていた…。

「…どっ、どうしたの?」

 僕は呼吸をする為に絶望した顔で横を向いた。アリスは不思議そうにこちらを見ていた。

「……俺も急にトイレに行きたくなってさ…。トイレを探し回ってたんだよ。それで……」

「…まさか…その顔……間に合わなかったの?」

「…間に合ったよ……! 間に合ったけど…」

「そう…。それじゃあ、仕方ないわね……」

 きっと妙な誤解をしている顔だったが、四天王の事を言うわけにもいかなかったので僕はさっさと話を流す事にした。

「…そういえば、ステータスってギルドにいかないと見れないんだよね?」

「ええ、まあ…体力測定みたいなもんだし…。あっ、でも中にはそういうスキルや魔法もあるのかもしれないわね。あんまり、聞いたことないけど…」

「そっ、そうなのか?」

 …ということは、ステータス画面自体もまさかスキルの一つなのか?

「…まるで冒険の初心者みたいね? 本当にあのゴ…」

 僕は急いで彼女の口をふさいだ。もしかしたらまだ監視されているかもしれない。

「…落ち着いて聞いてくれ」

「なにすふのよ!? 急に!?」

「幽霊が怒ってる」

「えっ!?」

「どうも冒険話が嫌いらしい。君に取りつこうとしている。静かにしてるんだ」

「……」

 涙目になった彼女は僕に抱きつき、無言で素早く何度もうなずいた。




 その後、支度が終わり宿からでると、僕はアリスに出発する前に店へアイテムを買いに行くと嘘をつき、いったん別れて人がいない路地裏でステータス画面を確認した。

「ステータス! …さて、どうなってるのかなっと……」

 レベル2…HP200…MP200…なるほど少しは戦いやすくなった。…ん? スキルのタグが点滅しているな…。

 スキルを開くとメッセージが表示された。僕はどうせろくでもない事が書かれているから読み飛ばしてやろうかと思っていたけど一応読むことにした。

「なになに…。スキルポイントが余っています。振り分け、または新しいスキルを習得できます。使用しますか…だと!?」

 …はっきりいって振り分ける事ができるスキルなんてあるのか? いや、何個かはあるかもしれない。


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