第288話

「ステータス…こっちでいいのか…?」

「はい…。このまま…まっすぐ道をそれずに歩いてください…」

「でも…想像だと…。もっとポンっと帰れるのかと思ってたよ…」

「本当のルートはそうだったのですが…ここは本来のルートとは少し違います。先程の記憶を持ち帰る為にこのルートを選択したのです。まあ…隠し通路のようなものですね…」

「なるほどな……。…ん? …なんか…変な声聞こえないか?」

 どこからかわからないが、奥の方から子供の鳴き声が聞こえた。それは前に進むたびに反響しながら聞こえてきた。

「……この場所に…。まさか…」

「……ぐすっ…ぐすっ…」

「…君は……」

 僕は潤んだその子の目をみてすぐにわかった。そして、ここがどこなのかも…。

「…どうして……」

「……」

「…どうして…みんな殺し合うの?」

「……消去します…。離れてください…」

「…大丈夫……。…この子は多分…大丈夫な気がするんだ……」

「危険です…! 離れて…」

 僕はステータスの忠告を無視してその子供に近づいて抱きしめた。すると、僕の中に彼の記憶が流れ込んできた。それは、目を疑うような…ひどい記憶ばかりだった…。常人では正気を保っているのが精一杯だろう…。それでも…彼は諦めなかった…。最後まで…必死に愛そうとした…。この星の愚かな住人達を…。

「……ぐすっ…」

「……そうか…。君は怖かったんだね…。好きなものが好きじゃなくなるのが……」

「……僕はどうすればよかったの?」

 嫌なヤツ…クズみたいなヤツ…クソみたいなヤツ…。世界は無限にでてくるモンスターみたいな奴らで満ち溢れてる…。そんな奴ら…全部…死ねばいい……。僕自身…そう…何度も思ったことはある…。

「そうだな…。全部…嫌いになればよかったのかもしれないな…」

「…嫌いになる?」

「ああ…。きっとその方が楽だったんだろうな…。……でも…できないよな…」

「…うん……」

「…なら…逃げちゃおうか……?」

 僕は自身に言い聞かせるように向き合ってその少年に笑いながら問いかけた。間違いのないように…。

「…逃げていいの?」

「……いいさ…。その為に逃げるってコマンドがあるんだぜ…?」

「…コマンド?」

「はははっ…。まあ…ヤバいときは逃げるしかないさ…。逃げて…ちょっと回復するまで…宿屋で休憩すればいい…。…色んな攻略方法があっていいんだ……。でもさ…前に進む事…それだけは逃げちゃダメだ…」

「…どうして?」

「…うーん……。そう聞かれると難しいな…。でも…モンスターのいないゲームなんてつまらないだろ?」

 少年は僕が妙な答えをすると戸惑っているようだった。僕は少年が戸惑っている中、そのまま過去の最高の思い出を次々と思い出した。

「…ゲッ、ゲーム?」

「…ああ……。強いモンスター…難しいダンジョン…そんな困難を乗り越えてレベルアップ…。…その先にはかけがえのないものがあるんだ!」

「…かけがえのないもの?」

「そこで知り合った仲間達との日々さ…。きっとピンチになったら、一緒に戦ってくれるよ……」

「なら…僕はダメだね…。僕は…悪い子だから…」

「…そんなことないさ……。俺が助ける……。きっと…俺が止めてみせる…!」

「……ほんと?」

「…ああ!」

 僕は少年の手をパシッと握った。少年は目を輝かせて立ち上がった。

「…でも…どうしよう……。…僕はどこにいけばいいのかな?」

「…そうだな…。…あっちがいいかもな……」

「…あっち? …あっちには何があるの?」

「俺の仲間がいるよ……。…実はさ…あいつもモンスターにイジメられてるんだ…。…だから…あいつの事…俺の代わりに助けてやってくれないかな?」

「……う〜ん…。…わかった! …まかせて!」

 元気よく返事をすると、少年は手を振りながら走っていった。僕は姿が見えなくなるまで、少年に手を振りながら見送った。

 

「…よかったのですか?」

「…ああ……。ごめんな…。忠告無視して……。でも…あいつにも救われてほしいんだ…」

「…優しいですね……」

「…今から俺のすることはヒドくて汚いことだから……。せめてこの世界では…ってね……。所詮、綺麗事だよ……。あいつを救うには…もう…なにもかも遅すぎた…」

「それでも…救われる人もいるのは確かです…」

「………そうだな…。…いこう!」

 

 

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