第268話

「やるじゃないか…。隠し剣とはな…」

「ゼロ…!?」

 ゼロの右腕は凍りついて床に落ち、胸には氷の短剣が深く刺さり、その部分から体が凍りついていた。

「……私の負けだな…」

「……シッ、シオンさん…! 早くゼロにかかった魔法を解くんだ!」

「…ダメだ……」

「なんでだよ…。これじゃ…ゼロが死んじゃうじゃないか!」

「……奴は死なない…」

「…えっ?」

 背後から異音がしたので振り返ると、ゼロにとんでもないことが起きていた。リカバリーもかけていないのに、新しい腕が生えてきていたのだ。僕はその新しい腕が、凍りつくのを見ていた。

「みろ…。これがヘイズルーンのスキル…死なない体さ…」

「ゼロ……。なんなんだよ…。それ……」

「見ての通りだ…。ただ…今は氷に属性変化しているから、魔法は使えない…。………あとは…もう……わかるな?」

 僕はゼロの行動に疑問を持っていたが、今の言葉でわかった。ゼロは自分を倒す方法を探していたのだ。

「……いやだ…。俺は絶対にしない…」

「…なら、次に目覚めたとき…お前達を殺すだけだ……。今からくるやつも含めてな…。…それでもいいのか?」

「…それもさせない……」

「…私を倒さなければ、あの扉は開かない……。…それでもいいのか!?」

「…いい……。俺は…ゼロも含めて…皆を…。…ぐっ! なにするんだ!」

 僕はゼロに凍ってない腕で思いっきり殴られた後に胸ぐらを掴まれた。

「…やれ!」

「…やらない!」

「…やれっていうのがわからないのか!」

「…わからない! わからない…。そんなの……」

 ゼロは僕の胸ぐらを更に強く掴んで引き寄せた。そして、歯を食いしばった後に僕の顔をジッと見た。僕はもう一発殴られるのかと思っていたが、そうではなかった。ゼロは諦めた様にため息をついた。

「…はぁ……。……くそっ! ……言う気はなかったんだかな…」

「……」

「…少し前…お前に会いに行ったときの事を覚えてるか?」

「…ああ……」

「…あの時…私は死ぬつもりだった……。私は死に場所を探していたんだ…。だけどな…お前のせいで…また生きたくなった…」

「なにいってんだよ…。それでいいじゃないか…」

 胸ぐらを掴むゼロの力が弱まるのを感じた。僕は凍り付こうとしているゼロに近づこうとしたが、魔法がかかったように動けなかった。

「私は復活する度に自分を失ってる…。あと、ニ、三回したら、ただの化物になってるだろう…。お前が思ってるより、自体は最悪だ…」

「……でも…!」

「ただ…嫌な思い出の方が先に消えてよかったよ…。…お前の事を覚えていたのは不思議だったけどな…」

「……」

「ふっ…。なんだ…そのバカみたいな顔は…」

 よほどひどい顔だったのだろう。ゼロは僕の歪んだ表情をみて笑っていた。

「…ゼロ……」

「そろそろ時間みたいだな……。……お前がくれたクソみたいな夢は案外悪くなかった…。叶うなら…お前と…もう少しだけ見ていたかったよ…。……じゃあな………」

 ゼロの体は完全に凍りつき、僕はそれを見ることしかできかなった。

「……うわぁああああああ!」

 僕の悲鳴と共に鎖が解き放たれ、体からオレンジ色のオーラが吹き出した。まるで、悲しさや憎しみ…そんな負の感情に反応しているようだった。

「…アルのせいじゃない……。…私が倒したんだ……。気にすることじゃない……」

「違う…。俺のせいだ…。俺が…もっと…もっと…早く気付いてれば……!」

「…アル…こんなときに悪いんだが、君のオーラでゼロの氷が解け始めてる…。この溶け方はまずい…。あれは…!? …くっ!」

「シオンさん!?」

 ゼロの周辺にできた水たまりから魔法が発動して巨大な腕が僕をつかもうとした。シオンさんは剣にまとわせた氷の魔法でそれをなんとか凍らせた。

「私が時間を稼ぐ…。…一気に消し去るんだ…!」

「わかった…!」

 くそっ…。こんなときに限って…魔法がうまく発動できる…。

 僕はルアの短剣を抜いてオーラをチャージし始めると、似つかわしくないほどの大きな赤黒いオーラが短剣に覆った。僕はゼロの体が溶けていく様子を見て後悔した。こんな選択しかできなかったことを…。

 

「…アル! そろそろ限界だ…!」

「準備はできたよ…。シオンさん…」

「…そうか……。なら…私が氷魔法を最大出力でかけたあとに…! 任せたぞ…!」

 シオンさんが氷の大剣をゼロにぶつけたあと、僕は心の中で剣に語りかけた。

 ルア…ゼロに伝えてくれ…。お前のクソみたいな夢は俺が絶対に消させやしない…ってな…。

「……はぁあああああ!」

 

 衝撃と共に光の中でゼロの体が崩れ落ちて消えていくのを見た。僕が剣を床に落として膝をついた時、後ろから声が聞こえた気がした。

「……」

「…大丈夫か?」

「…えっ?」

「…どうした?」

「いま…声が…」

 …気のせいか? いや、気のせいじゃない…。確かに聞こえた…。

「…声?」

「ううん…。なんでもない…。…多分、大丈夫だよ……」

「…そうか……」

「…っていうか、とんでもないケガしてるじゃないですか!?」

「回復してくれると…助かる…」

 僕は今すぐに扉の奥に行きたい気持ちを押し殺して、ボロボロになったシオンさんを回復しながら皆の到着を待った。

 

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