第245話

「エリック、シオンさんは本物だったよ」

「そうか…。悪かったな…。疑って…」

「いや、エリックみたいに中立に判断できないと、こういうパーティーはすぐに崩壊する…。損な役割させてすまないな…」

「ちっ…。ああっ…もう…。はぁ…。文句の一つくらいいえよ…。調子狂うな…。それで大将はこれからどこにいくつもりなんだ?」

 エリックは頭をかきむしると、操縦席をクルリと回し操作盤を触っていた。

「うん…。シオンさんと話し合ったんだけど、竜の王国にいこうと思うんだ。今は反応がないらしいんだけど…」

「了解だ…。でも、竜の国か…。…すぐにいくなら、ノスクに頼むか?」

 カチャカチャとキーボードを叩いていたが、エリックはピタッと手を止めてこちらを向いた。

「いや、さっきリアヌスの様子をみにいった時にノスクに聞いたんだけど、船ごとは厳しいらしい…。流石に状況もわからないのに、このままいくのは危険だ…」

「まぁ、それはわかるんだけどよ…。でも、他の国もやばいんじゃないのか? このペースで行けば、数時間ってとこか…。まあ、それでも充分早いけどよ…」

 飛空艇は少し揺れて動き出した。エリックはクルッと椅子をこちらに向けた。

「多分、大丈夫だよ…。シオンさんが力を感じないって言ってたって事は、今はそんなに力を使ってないんじゃないのかな…」

「それ…信用していいのか?」

「…仮に違ってたとしても、精神的にもう限界だ…。リカバリーだけじゃ、限界がある…。そろそろ休憩を取ろう…」

 僕は疲弊した皆の顔を思い出していた。

「確かにそうだな…。俺も少し眺めたらオートに切り替えて寝るとするか…」

「シオンさんも部屋で休憩してね…」

「ああ…」

 僕は部屋に戻ると、ドアを叩く音が聞こえた。シャルが非常食を持ってきたようだった。


「ご飯、持ってきたよ。あと、コーラも…」

「ありがと…。シャルも食べたら休んでね…。…そうだ! 完全に忘れてた…。シャル、俺のステータスってどうなってる? なんかこう強くなってる…とか、そんなことない?」

「ステータス? うーん…。なにも見えないけど…。少し、変わったような気もする…」

「…少し変わった?」

「なにかが生まれる前みたいな…。なんだろう…。やっぱり、よくわかんないよ…」

「そっか…。わかったよ…。おやすみ…」

「うん…。無理しないでね…」

「わかってるって…」

 シャルは心配そうな顔をしながら、部屋を出て行った。僕は精一杯元気なふりをして、シャルを見送った。

 

「はぁ…」

 僕は奴から与えられたハティスコールというスキルが気になっていた。僕はヒビの入った鎖を手で触った。また、亀裂が大きくなっていた。

 シャルでもわからないか…。まあ、今のところ悪影響はなさそうだけど…。

「うーん…。悩みどころだな…」

 実質の解除時間も短いし、大丈夫か…。あそこにいくついでに聞いてみよう…。

 

「…あれ? 誰もいない…。どこかにいってるのかな…」

 大理石のフィールドを見渡す限り、誰もいなかった。静かな空間に僕の靴の音が反響した。

「うーん…。仕方ない…。ねるか…」

 僕は大の字になり、硬い床に寝そべった。少し頭が痛かったが、僕はすぐに眠りに落ちた。ここにきたもう一つの理由である。ここで精神力を回復させるのだ。

 

「ぐぅ…ぐぅ…。ちょっと、ダメだって…。そんな…。…ん?」

 なんか温かい…。モフモフしてるし…。ペロペロ舐められてるし…。

「ワンッ!」

「なんだ…。この犬…」

 僕が起き上がると、二匹の白い子犬が僕の周りで尻尾を振っていた。一匹は元気そうな感じで、もう一方はおとなしそうな犬だった。首には太陽と月の首輪をそれぞれしていた。

「スキル…ハティスコールだ…」

「その声はシャドウか…。…って、邪魔だって! ごめん、ごめん…。そんなに落ち込むなよ…」

 僕は白い元気な子犬を抱きかかえると、もう一匹も僕の肩によじ登ってきた。

「予想外だな…。そこまで懐くとは…」

「いてっ…。この子犬、ちっちゃい角が生えてるな…。まあ、いいか…。それで、これがハティスコールってどういうことなんだ?」

 僕は角を避けながら子犬を撫で回すと、シャドウの声だけがどこからか聞こえてきた。

「無害化したんだよ…。可能な限りね…。さっきまで、別の場所で死闘を繰り広げていたんだ…」

「それで、僕の姿が変わってなかったのか…。でも、可能な限りってことは、少し効力が残ってるってことなの?」

「少しどころじゃない…。なにかはわからないが…強力な力の一部を残してこいつらは存在している…。破壊できなかったのが、いい証拠だ…。ただ、今となってはやる必要があったのかさえも怪しくはなってきた…。やはり、私が干渉するのは危険だな…」

「……」

 でも、こんな可愛い子犬と死闘か…。

 僕は白い子犬達に頭と手を甘噛みされていた。

「君は今…すごい失礼なことを考えてるだろ? さっきまで、巨大な狼だったんだよ。…戻そうか?」

「狼!? いっ、いや、いいよ…。ご苦労さま…」

「…わかればいい。ただ、かなり力を使った…。これが狙いだったのかもしれないな…。だとすると、やはり私の干渉は悪影響を及ぼしたのかもしれない…」

 僕は頭の上に乗っている子犬を優しく地面におろした。

「そんなことないって…。姿が変わらないだけでも、助かったよ」

「そうか…」

「それで、狙いってなんなの?」

「……」

 僕は明るく答えると、シャドウは言葉を詰まらせた。

「…どうした?」

「…恐らく私が消えるのも時間の問題だ」

「おっ、おい!」

「だが、もう一つだけ…君にプレゼントを渡そうと思う…。最後のプレゼントだ…。これなら問題ないだろう…。もう一つか二つ片付いたらくるといい…」

「シャドウ、もう力を使うな! そんなことしたら、お前!?」

 僕は大きな声を上げた。子犬たちは少し離れて怖がっていた。

「前にいったはずだ…。今の私はただの力だと…。本体は消えはしない…。君が負けなければね…」

「それはそうだけど…。でも…」

「さあ、話はここまでだ…。…充分休んだだろ? 君は元の世界に戻れ…」

「おい、話がまだっ…」

 僕は突如現れた黒い闇に吸いこまれ、元の世界に戻った。


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