第234話

 なんとかしろって…。くそっ…。考える時間がほしい…。

「ステータス! 限界までラタトスクの出力をあげる! 手伝ってくれ!」

「了解しました」

 僕は頭にラタトスクの電撃を限界まで流し込み、体感時間を停止した。


 はぁ…はぁ…。止まった…。しかし、すごい光景だな…。この剣と槍の嵐…。僕がゲームのキャラだったら、一時停止されて絶望するレベルだ…。…って、そんなこと考えてる場合じゃない…。このモードは長くやりすぎると、とんでもない睡魔が襲ってくるからな…。早く考えないと…。

「どういった作戦でいきますか?」

 作戦か…。作戦なんてものはないけど、リカバリー…。あれをなんとかしないと勝てない…。

「…リカバリーの対処方法としては、回復できない状態まで持ち込むしかありません」

 わかってるよ…。そんなこと…。はぁ…。問題はどうやって攻撃を当てるかってとこか…。透明化は…ダメ…だよな…。仮に透明化して攻撃を当てても一回がいいとこだ…。分身されて逃げられたんじゃ対策しようがない…。瞬間移動もあるし…。

「そうですね…」

 なら、こっちも瞬間移動で…。いや、これもダメか…。ルアは土の中に潜れたはずだ…。土の中まではいけない…。瞬間移動はどちらかというと攻撃というより防御だ…。防御というより避難か…。なら、フレースヴェルグで捕縛…。…しきれるのか? 泥のように消えられたら終わりだ…。……泥?

 僕はコビットの国で戦った四体の黒い魔物のことを思い出していた。

「…どうされましたか?」

「……」

 ……なんで、黒い魔物は逃げなかったんだ? 外に分身を作って…。まあ、単純に僕の使ってる魔法と違う可能性はある…。…でも、こういう考え方はできないか? あの時、勝手に発動した風の球体…。あの外に魔法を発動することができない…。そんな考えは…。

「……少しお話があります」

 …話なら後で聞くよ。それよりも…。

「聞いてください!」

 なっ!?

 僕はステータスが初めて…。いや、初めてということよりも、まるで人間のように反抗してきたことに驚いた。驚いたといっても、表情なんて全く変わらないが…。

「…私はもう時期、貴方と接触ができなくなります」

 おっ、おい! なんの話だ!?

「…ヴェズルフェルニルをストック側に変更して、鎖を外すつもりですよね?」

 ああ…。でも、それぐらいしないと、あいつには…。

「…わかりました。再計算を行います…」

 あっ、ああ…。…なんの計算だ?

 僕はステータスの再計算という言葉に引っ掛かったが、ステータスが答えるまでしばらく待ち続けた。ステータス画面には高速で読めない文字が流れていき、ピタッと全ての文字が消えると、ステータスは自身の状態について説明を始めた。


「計算完了しました…。やはり、私はあるスキルにより自身の構造が変化していっています。少しの間ですが、貴方と接触することができません」

 …あるスキル? …奴が鎖に当てたスキルの事? なんだっけ…。ハティ…。

「いえ、それは要因になっただけです。私が言っているのは貴方のスキル…。ディナイアルグローリーの事です…。恐ろしいほど大きな否定する力…。間違えないでください…。貴方が強く望めば、これは完全に発動してしまいます。…例えるなら、願いを叶えるスキルです」

 …なんか矛盾してないか? 願いを叶えるのに否定するって…。…俺がなにを望むっていうんだ?

「…私が説明できるのはここまでです。…準備も整ったので、ラタトスクを解除します。…よろしいですか?」

 答えはなしか…。…それとも、今は聞かないほうがいいってことなのか? …まっ、今は戦いに集中しよう。フレースヴェルグをストック側に変更…。恐らく短期決戦だ。…ステータス、勝つぞ! 

「了解しました」

 

 僕は時が動き出したのと同時に鎖を解いて、空高く舞い上がった。自身に取り巻く風が更に強く可憐に吹き荒れた。僕は風の球体を発動して、奴を捕縛し捕まえることに成功した。

「…あっさり、捕まったな」

「ふっ…。流石に打ち合いには飽きてきたからな…。ここにいれば、あの小娘も手をだせまい…。はははははっ…。さて、次はどうやって楽しませてくれ…。なっ、消えっ!?」

 鈍い金属音が辺りに響いた。

「…俺が消えるのが予想外だったか?」

「そうか…。そうだな…。これはお前の分身…。お前にも同じことができて当然だ…。だが、くだらんな…。次はない。…なにっ!?」

 また、鈍い金属音が辺りに響いた。

「…次はないんじゃなかったのか?」

「…くっははははは! 面白い…。いいだろう…。そろそろ殺してやる…」

「……」

 …さぁ、どうくる? 

 奴は分身した後、高速で瞬間移動を連発して僕の方へ徐々に近づいてきた。そして、僕の下腹部めがけて剣を突き刺した。

「おいおい…。いくら本気をだしたからって、早すぎるだろ?」

 僕はリカバリーを辺りに広げて、分身を一瞬にして切り刻んだ。

「うっ…。…なんてな。残像だよ」

「バカな!?」

 

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