第227話

「アル、上だ!」

 シオンさんの声を聞いて空を見上げると、太陽と見間違えるほど眩い光を纏ったものが高速で接近して目の前まできていた。僕は咄嗟に右手をあげてガードした。それが限界だった。

「…ぐはぁっ!」

「…大丈夫か!? アル!」

 僕は体の状態を確認し、すぐにリカバリーをかけようとした。しかし、確認しても特に異変はなかった。そこまではダメージを食らってない…。というか、少し腕に衝撃が走っただけだった。

「…っ! …ん? あっ、ああ、大丈夫…。それより奴は!?」

 僕は体を起こして奴を探した。だが、相変わらず奴は姿を見せず、声だけが聞こえた。

「…君にスキルを与えた。気に入ってくれると嬉しいよ」

 僕はふと右手をみると、鎖にヒビが入っていた。僕はどこにいるかもわからない相手に向かって大声で叫んだ

「…スキルだと? 俺になにをしたんだ!?」

「はははっ…。怯えなくてもいい…。スキル…ハティスコール…。スネークロードスネークスと効果は同じだよ…。それで、せいぜい強くなるといい…」

「なんで、お前がそれを!?」

 …まさか、俺が話したのか!? 

「ふっ…。僕は君のことならなんでも知ってる。君の知らない事までね…。…なんでか知りたいかい?」

「……」

 …俺の知らない事まで? …なら、奴のスキルか!

「そう…。答えはスキル…全知全能…ではなくてね…。シャドウを取り込んだんだよ。…いや、シャドウを取り込んだものを取り込んでいるといったほうが正解かな」

「…なに!?」

 あれを取り込んだだと!? なら、こいつはあの空間に…!?

「…理解したかい? 僕を止めたければ、太陽と月が消えるまでにおいで…。…それじゃ始めよう。…ゲームスタートだ! くっはははははっ…」

 高笑いは次第に小さくなっていった。どうやら奴は消えたようだったが、どうしょうもない事態に僕は途方にくれていた。

 

「……」

 どうすればいい…。俺は…。

「…ん? なんか暗く…。アッ、アル!? あれみて!」

 アリスはただ事ではない表情をしていた。僕は急いで上を向くと、そこにはとんでもないものがいた。

「なんだ…あれ……」

 まさか…。あれが…神…なのか…。

 それは太陽の中心に存在していた。六つの神々しい羽は太陽の光を吸収し、崩れた巨大な体をゆっくりと修復していた。僕はじっと見つめていると、それと目があった。

「なっ、なによ…。あれ…」

「……」

 顔が崩れているせいで表情こそわからないが、嘲笑うかのようにそれは僕を見下ろしていた。

「…悪い夢でもみてるみたいだな……」

 リアヌスはボソッと一言つぶやいた。僕は皆を精一杯励まそうとした。なんの確証もないことを言いながら…。

「…ここで負けちゃダメだ。きっとあれはまだ動かない…。…動かせるなら動かしてるはずだ。だから、今のうちに…」

 まてよ…。なんであいつは自分の居場所をバラすような事をいったんだ? 

「…どうしたの? …アル?」

「…みんな早く戻るんだ! …ノスク! 空間移動できるか!?」

「今ならできると思うけど…」

「なら、俺とシオンさんとシルフィーを猫の国に!」

「わっ、わかったよ! でも、どうして戻るんだにゃ? あいつを倒しにいくんじゃないの?」

「あいつは国を壊す気だ!」

「なっ、なんだって!?」

 僕の思い過ごしならそれでいい…。でも、僕がラスボスならきっとそうする…。十分すぎるほど時間があるんだ。

「ノスク、早く!」

「うっ、うん!」

  

 僕は急いでノスクと共に空間を飛び越えた。しかし、猫の国は相変わらず平和そうで猫達がのんびり暮らしていた。

「大丈夫みたいだな…」

 …俺の思い過ごしか?

 僕が辺りを見ていると、シルフィーを背負ったシオンさんは話しだした。

「猫ちゃん、シルフィー様をどこか休めるとこに連れていきたいんだが…」

「猫ちゃんじゃなくて、ノスクだよ! わかったよ…。ちょっと待ってて…」

 ノスクは近くの猫達に声をかけて、シルフィーを宿屋に連れていってくれるようだった。

 

「ごめん…。俺の勘違いだったみたいだ…」

「いや、そうでもない…。妙な気配を感じる…」

「…妙な気配?」

 シオンさんは急に右目を抑え、不思議な事を言い出した。

「ここではないが…。まるで…。世界に色がついたみたいだ…」

 …世界に色が?

「…どういう意味?」

「いや、自分で言ってても説明し辛いんたが…。アルには見えないのか? この景色?」

「見えないけど…」

「なら、あれのせいか…。まあいい…。使わせてもらうか…。…ん? …通信機がなってる?」

「たっ、大変よ! とんでもなく強い魔物が…!」

 シオンさんは通信機を起動すると、アリスの声が聞こえてきたので無線機に話しかけた。

「どうしたんだ!? …おい、アリス!」

「……」

 僕が応答してもアリスの声はそれから一切聞こえなかった。そのかわりシャルの声が聞こえてきた。

「アル、大変なんだよ! ルッ、ルアが!」

「なんでルアがそこに!? …おっ、おい! シャル、聞こえてるか!?」

「……」

 アリスと同じようにシャルの声は聞こえなくなった。すると、ノスクがちょうど帰ってきた。

「さっきの人、送ってきたにゃ。…ん? …どうしたの? 深刻そうな顔して…。…ん? エリックの声が聞こえるにゃ?」

「おっ、おい! 早く助けにきてくれ! 俺一人じゃ…」

「どうした!? おい、エリック!?」

 エリックの声も少し聞こえただけで、途切れてしまった。そして、今度はリアヌスの声が聞こえてきた。

「…聞こえるか、アル?」

「ああ…」

「…フォーが生き返った」

「なんだって!? あいつは俺が…!」

「ああ…。間違いなく倒した。だが、竜の国にとてつもない攻撃を仕掛けた後にどこかへ消えた。どうも様子がおかしい…。早く君も…」

「…リアヌス? リアヌス!? すぐいくからな!? おっ、おい!」

 そうして、リアヌスの声も聞こえなくなった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る