第220話
「…もう〜いやだー!」
僕は机にバタッと倒れた。僕は横目で書類の束を見た。
毎日、毎日…。仕事ばかり…。なんか嫌になってきたな…。人手が足りなさすぎる…。たまには休みたい…。
そんなことを思っていると部屋の扉があいた。
「…アニキー!」
そして、鬱陶しいぐらい元気よく僕を呼ぶ声が聞こえた。僕は机に顔をつけたまま返事をした。
「…なんだ?」
「…失礼しやす! アニキにお客さんです!」
「はぁ…。…また、野盗? これで何人目だ…。お前たちでなんとかしろよ…。…仲間なんだろ?」
このチンピラ風の男は先日退治した野盗の一人だ。僕が必死にこの国を助けたいという思いを伝えると、妙に気に入られてしまった。まぁ、そこまで悪いこともしていなかったので、僕は野盗達を許す代わりに徹底的にこき使うことにしたのだが…。
「おっ、俺達はもうやめましたよ! アッ、アニキの…。アツいご指導によって…」
なぜかガラの悪いその男は頬を赤らめた。
「気持ち悪い言い方をするな…。それで誰なの? シオンさん?」
僕は机から顔をあげた。
「いっ、いやっ…。少し違うようで…。双子ですかねぇ……。げっ! きっ、きやした…。俺は逃げますから!」
双子…?
チンピラ一号は走って部屋を出ていった。その後、壁が壊れたようなものすごい音がしたが…。
「久しぶりだな…。いつから、野盗共の親分になったんだ?」
「ゼロ、久しぶり…。っていうか…。こっ、殺してないよね?」
「ああ…。私をどこかのバカと一緒にしたからな…。あいつらは程よくのびてるよ」
ゼロはソファーに深く腰掛けた。
「ごめん…。かなり忙しくって…。おもてなしできそうにないよ。近くの村にいってもらったら、ご飯くらいだしてもらえるけど…」
「別にそんなものいらん…。お前がアタフタしてる様子を笑いにきただけだ…」
「ひっ、ひどい…。シオンさんのほうがよかった…」
「なっ、なんだと!? …ちっ……」
ゼロは一瞬立ち上がろうとしたが、勢いよく再度ソファーに座った。
でも、なにしに来たんだろう……。遊びにきたって、感じでもないよな…。なにも用件話さないし…。もっ、もしかして…。
「もしかして…手伝いにきてくれたの?」
僕はすぐに椅子から立ち上がり、ゼロの横に座った。ゼロは少し黙った後、余所見しながら答えた。
「……笑いにきただけだ」
「……ほんとは?」
「不甲斐なさそうなら、少し手伝ってやろうと思っただけだ…。まっ、シオンの方がよかったみたいだからな…。…帰る」
僕はゼロに思いっきり抱きついた。
「おっ、お願いだから、帰らないで!」
「はっ、離せ! どこ掴んでる!?」
僕は放されそうになったので、更に必死にしがみついた。
「ゼロがいいんだよ! お願いだから!」
「……シオンよりもか?」
「……うん」
「いま…少し間がなかったか?」
「ないないない! ゼロがいいよ!」
「なっ、なら…。少しだけ手伝ってやろうかな…。…なにをすればいい?」
ゼロは少し気分をよくしたようだった。僕は書類の束を持ってきた。
「書類整理…。野盗の討伐…。後、農作物を元野盗達に作らしてるから…。あとは漁船を作って海に魚を取りにいってもらってる…」
「なるほど…。討伐なら任せておけ…。きっちりと教育して再利用してやる。…書類整理は無理だがな……」
「そっ、そんな事言わずに…。目だけでも通してくれよ…。わからないことがあったら、これで電話して…。あと、印鑑あげるからっ…。じゃ、じゃあ、僕はいくね!」
僕は立ち上がり、そっーと部屋をでようとした。
「おい…。お前はどこに行くつもりだ?」
「どっ、どこって…。がっ、外交だよ。遊びに行くわけじゃないんだよ?」
「…私に面倒な仕事を押し付けて逃げる気か?」
僕はゼロの肩をガシッと掴んだ。
「…三十連勤……。錬金術の一つ…。ではない…。三十日休みなしで働くんだ…」
「あっ、ああ…」
「少し…。少しだけでいいから、気分転換がしたいんだ! たのむよ〜。ゼロ〜」
僕はゼロに泣きながら、再び抱きついた。
「わっ、わかったから…。抱きつくな! はぁ…。好きなだけ、いってこい…。お前には迷惑をかけたからな…」
「ありがとう、ゼロ! 帰りにルアのやつも連れてくるよ!」
「なっ、なんで、あいつが関係あるんだ!? さっさといけ!」
僕は思いっきり蹴られ、部屋の外に出された。僕が下に降りると、ちょうどシオンさんがやってきた。
「野盗達がのびてるが…。また、悪さでもしたのか?」
僕は小声で話しながら手を掴んだ。
「…ゼロがきてるんだ。話は後でするから、早く飛空艇にいこう!」
「あっ、ああ…」
万が一でもシオンさんとケンカされたら困る。見つかる前に急いで僕はシオンさんと飛空艇に乗った。
「久しぶりだな…」
僕は一ヶ月ぶりに見る飛空艇を懐かしんだ。
「…でも、ゼロに任せて大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。なにかあったら電話してくれっていってあるし…」
シオンさんはため息をつきながら操縦席に座った。
「私がいいたいのはそういうことじゃなくてだな…。はぁ…。…それで、どこにいくんだ?」
「まず、竜王国にいってほしいんだ…」
「竜王国に?」
僕はリアヌスからの手紙に書いてあった…とある場所に行きたくて仕方なかった。僕はその場所を想像すると、つい…にやけてしまった。
「実は…ちょっといきたいところがあって…。えへへ…」
「…いえないところなのか?」
シオンさんは少し軽蔑するような目で見てきた。僕は即座に反論した。
「ちっ、違うよ!」
「どうだかな…。一ヶ月前に女の子達に囲まれたときの顔とそっくりだ…。そういえば、あの時…。私のこと見捨てたよな…」
シオンさんは完全に怪しんでいたようだった。そして、思い出さなくてもいいことを思い出した。
「あっ、あれは…。その…ごめん…」
「正直に答えたら許してやる」
「その…温泉に少し入りたいんだ?」
「…温泉? …混浴か?」
「ちっ、違うよ! そこまでは書いてなかったけど…。癒やされたいんだ…」
「…そういうことね。なら、部屋で寝ておくといい…。ついたら起こしてあげるよ」
シオンさんは飛空艇を浮上させていった。僕はお言葉に甘えて少し寝ることにした。
「おやすみ…」
「混浴か…。アリス姫に報告だな…」
「だから、ちがうって!」
「はははっ…。冗談だよ。おやすみ…」
「おっ、おやすみ…」
僕は部屋に入って、ベッドに寝転がった。僕は久しぶりにぐっすり寝ることができた。
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