第218話

「…ったく…。いたいた…」

 アリスは村の前で立っていた。こちらを見ると手を振りながら駆け寄ってきた。

「…アル〜! 遅いよ〜!」

 ……あいつは説教だな。

「…それにしても……」

 キレイなとこだな…。でも…なんでこの村をみると、すごい不快な気分になるんだろう…。こんなにキレイなとこなのに…。ほんとに…ほんとに入りたくない…。

「…アル、入るよ!」

 アリスは僕の手を握って引っ張ってきたが、僕は村に入る直前で抵抗した。

「ちょっ、ちょっと、待ってくれ!」

「…どうしたの? アル?」

 僕はこの村にこれ以上一歩も入りたくないと思っていた。僕はよくわからない感情のまま、もう一度村をみた。中を見ると誰も外にいなかった。

「いっ、いやっ…。っていうか、先に行くなよ! 危ないだろ!」

「ごっ、ごめん…。つい…。そっ、そうだ! アルの事、待ってるみたいだよ?」

「……誰が?」

「誰がって…。村の人以外に誰がいるのよ?」

「…えっ? …村の人?」

 そんな当たり前の事をアリスに言われると、おばさんが荷車を引いて村から出てきた。

「おやっ、珍しい…。この辺じゃ見ない顔だね…。…って、そっちはエルフかい? …ん? エルフ…。まっ、まさか、あんたが新しい王様かい!?」

「はっ、はい…。一応…」

 おばさんは大声をあげたあと、慌てて荷車を引き出した。

「こんな若い人が…。あんた達、早く出迎えな! すいません。先に入っててもらえませんか? すぐ戻ってきますんで…。急いで、ご飯の支度しなくっちゃ…」

「えっ…。はっ、はい…」

 おばさんが声を出すと、家の中から続々と人がでてきて僕等のところに集まってきた。

「わーい! 新しい王様だー!」

「みんなー! 出迎えろ〜!」

「誰か村長を呼んでこい! 急いで宴の準備だー!」


 僕はそれを見るとさっきまでの不快感は全て消え、代わりに言葉に表すことができない妙な気持ちになった。ただ…なんだかそれはとても心地よかった…。

「……」

「アル、よかったね。皆、歓迎してくれてる…。でも、さっきはなんで村に入りたくないって…。…アッ、アル!? 泣いてるの!?」

「…えっ?」

 アリスにいわれるまで気づかなかったが、僕は止めどなく涙が溢れていた。

「なっ、なんで、涙が…」

 僕は腕で目をこすったが、そんなことをしても意味はなかった。

「アル…」

「はははっ…。ゴッ、ゴミでも入ったのかな? それとも変なもの食べたのかも…」

「わかってる…。誰だって故郷を救えたら嬉しいよね…。ほらっ! 早く、いこっ!」

 …故郷? 

「……あっ、ああ! そうだな! …って、なんか多くないか? …うわぁあああ!!?」


 気付くと、とんでもない数の人にもみくちゃにされていた。

「…だっ、誰か……」

 ふと横を見ると、アリスとシャル…。そして、シオンさんが端っこに立っていた。

「ちっ、近づけない…」

「だっ、だね…」

「だっ、大人気だな…」

「…みっ、みんな! みてないで助けてよ!」

 僕は皆に助けを求めたが、首を横に振られた。

「…ちょっ!? …だっ、誰だ!? 今、変なとこ触ったやつ!」

「…皆のもの! 道を開けよ!」

 誰かが大声をだすとスッーと皆が離れ道ができ、杖を持ったおじいさんがこちらに歩いてきた。

「はぁ…はぁ…。助かった…」

 僕は膝が崩れ両手を地面につけた。

 

「すいませんな…。みんな…あなたがくるのを心待ちにしていたんです。許してあげてください…」

「べっ、別に、大丈夫ですけど…。…あなたは?」

「…私はこの村の村長です。どうぞ、こちらに…」

 僕達は村長に一番大きな屋敷に案内された。そこは宴が始まる前に神王国の状況を村長に聞いた。

 

「…ということなのです。竜族達と魔王サーティスによって国は荒れ…。食べるものも…。ですから、あまり豪勢な料理もだせませんが…。すみません…」

「いっ、いえっ…。気にしないでください! 突然、きたのは僕達なんですから…」

 僕が頭を下げて謝ると、村長は手を叩いた。すると、たくさんの食事をもった美女達が僕の横に座った。

「頭をあげてください…。暗い話はあとにしましょう。みんな、待っていますから…」

「王様〜私の作った料理食べて〜。はい…。あ〜ん…」

「えっ…。あ〜ん…。おいしい…」

 僕はパクっとスプーンに乗った肉料理を食べると、女の子が喜びだした。

「嬉しい…。もう一口〜…。ちょっ、ちょっと、みんな、押さないでよ!」

「わっ、私のも!」

「今度は私の番よ!」

 僕は再びもみくちゃにされた。

「……」

 ふっ…。これなら、悪くな…。

 隙間から皆の様子を見るとドン引きしていた。僕はそれを見て抵抗することにした。

「ちょっ、ちょっとー。みんな、離れてー…」

 まず、シャルと目があった。

「…アル……。鼻の下…伸び過ぎだよ…。必死さがさっきと全然違うし…。…むむっ! でも…いい作戦かも!? チャンスだよ!」

 シャルは自分のところにあった食事を、スプーンで乗せだした。ふと、目線を上げるとシオンさんと目があった。

「アル、ほどほどにな…。…って、シャル様!? わっ、私は自分で食べれるから! もぐっ…。おいしい…」

「よかったです~。…って、まずいよ! シオンさまにも魔の手が!?」

 何人かの女の子は僕の方にくるのを諦めて、シオンさんの方に向かっていった。

「わっ、私は食べれるから! みっ、みんな、やめ…」

 僕はどんなことをいわれるのかと、恐る恐るアリスの目をみた。アリスは黙ったまま、こちらを向いて食事を食べていた。

「……」

 ……無言は何よりも怖かった。

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