第197話

「うみゃい…」

 美味しすぎてなんだか逆に不安になる味だ。

「…だろ? いやーでも、ドワーフ達がいい感じに調理器具を作ってくれて助かったよ」

「いや、こちらこそ感謝する…。みんな、少しだけど元気がでていたよ…。ありがとう…」

「ヘヘっ…。どういたしまして! ウィンディーネも一口どうぞ…」

「わっ、私はそんなゲテモノ食べないわよ! そもそも私は食べなくても平気だし…」

「おいしいからっ!」

「…むぐっ! なっ、なにふんのよ…。こんなもの…」

「…どう?」

 むりやり少年がウィンディーネの口の中にタコ焼きを入れるとビュンビュン空中を飛びまわりだした。

「なにこれ! なかなかおいしいじゃない。ついでにこの前の黒い液体が飲みたいわね…。あんた、作りなさいよ!」

「むっ、無理だよ…。俺だって飲みたいんだから…。…ん? でも、もしかしたらいくつかストックがあるかもしれない…」

 少年はバッグの中からいくつかコーラを取りだして、品定めをしたあと私に話しかけてきた。

「シオンさん、悪いんだけど…。これ…」

「…お安い御用だ」

 私が冷やしてあげたあと、フタを取るとシュワシュワとしたものがでてきた。二人で奪い…。…仲良く飲んでいた。

 

「ところでさっきから気になっているんだが…あれはなんなんだ?」

 ドワーフの隊長らしき男はウィンディーネを見ていた。

「精霊だな…」

「…精霊? …本気でいってるのか?」

「ああ…。ウィンディーネ、ちょっときてくれないか?」

「…ん? …なにかよう?」

「色々と聞いておきたいことがある…。この空間からでるには、氷の精霊に会えばいいんだよな?」

「ええ…。まっ、絶対じゃないけど…。かなり可能性は高いわ」

「ほっ、本当か!?」

 ドワーフは驚いて立ち上がった。私はそのまま質問を続けた。

「…ウィンディーネ、その氷の精霊はどこにいるんだ?」

「うーん…。もっと…もっと奥ね…」

「具体的にどのくらいなんだ? 歩いて何日くらいのところにいる?」

「歩いて? うーん…。…数カ月?」

「すっ、数カ月!? もうなにもかも終わってるじゃないか…」

 最悪だ…。まさか…こんなことになるなんて…。

 ドワーフはウィンディーネの言葉に困惑しているようだった。

「数カ月か…。下手に動くより、ここで待機していた方が…」

「んー…。それがそうとも限んないのよね…」

「…どういうことなんだ、ウィンディーネ?」

「うーん…」

 ウィンディーネは、なぜか答えづらそうな顔をしていた。

「…どうしたんだ?」

「…後悔しない? …聞いても?」

「…ああ」

「でもな〜…。いっていいのかしら…。時の流れが遅くなってるって…」

「なんだって!?」

 …時間の流れが遅くなってる!?

「あっ…。いっちゃったわ…。まぁ、いいか…。でも、おかしいのよね…。遅くはなってるんだけど…。なんか…妙な感じで遅くなっているというか…。そんな感じがするのよね…。…ん? っていうか、なんでガキンチョがここにいるのよ?」

「俺も飲み込まれたんだよ。この蛇を異空間に落としたからさ…」

 ウィンディーネは少年の首元をしめあげていた。

「くっ、苦しい…」

「どっ、どういうことなのよ! 説明しなさい!」

「相棒の計画で、この蛇をヘルっていう異空間に落としたんだ…」

「なっ、なんですって!?」

「まさか、それが関係あるのか?」

 私が質問するとウィンディーネは考え込んでいたようだった。

「ここにきたときよりは時間の流れは格段に遅くはなってる。でも、今はそこまで変わってない気もする…。そこのドワーフ! ここでの滞在時間をいってみなさい」

「…ここで? 十日ぐらいかな…」

「…ガキンチョ、あんたは?」

「俺は数時間前なんだけど…。ほんとに十日前? …間違ってない?」

「間違ってないとは思うが…」

 少年はなにか悩んでいるようだったので、私は尋ねてみた。

「ルア君、なにか気になることでもあるのかな?」

「うーん…。俺の目の前で船が飲み込まれたんだけど、それは三日前だったんだ。もしかして、他の船だったのかな…」

「いや…他に船はでてないとは思うが…」

 ドワーフがそう答えると、ウィンディーネは少年の頭にちょこんと乗った。

「なんとなくわかってきたわ…。この空間は奥に進めば進むほど、時間の流れが遅くなってるのよ」

 私はその言葉に啞然とした。

「……」

 とんでもない空間だな…。

「でも、イマイチな作戦ね…。こいつをヘルに落とすなんて…」

「おっ、おい! 話を勝手に進めないでくれ! …今の話は本当なのか?」

 ドワーフは焦った顔をしていた。周りを見ると他のドワーフ達も集まっている。

「ええ、本当よ…。でも、どこにいても結果はおんなじよ…。応援なんて待ってても無駄…。どうやってこんな化物倒すのよ?」

「そっ、それは…」

「そもそもあれを倒したからっていって外にでれるって確証があるわけじゃないんだから…」

「……」

 私達はその後で今までの経緯を説明した。都合の悪い部分は隠しているが…。

 


 

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