第180話

「…っ! はっ、計り知れないって…」

 やばい…。つい、でかい声が…。きっ、気をつけよう…。ステータス…計り知れないって、とんでもなくあるってこと!?

〈いえ、そうではなく…わからないという意味です。そうなるかもしれませんが…〉

「なるほど…。そういう意味ね…。でも…」

 これ以上、めんどくさいことになったら困るし…。お試しでできるならまだしも、そんなわけにはいかないだろうしな…。やめとくか…。…ん?

 僕が悩んでいるとステータスにメッセージが浮かび上がった。

〈意図的にではないですが、すでに一度権限なしで行っています〉

「えっ!?」

「…どうしたんだ?」

「いや、エリック…。ごっ、ごめん…。ちょっと、外を見張っていてくれないか?」

「わかった…」

 エリックに見張りを頼んだ後で、僕は心の中でステータスに問いかけた。

「……」

 …どういうこと? 

〈…先程、右手の制御機構を外した際に力の暴走による侵食を確認しました。緊急事態だった為、承認の必要はなしと判断…〉

「…ん? …制御機構? ちょっ、ちょっと、まって!?」

 …制御機構って、この鎖の事?

〈はい〉

「……」

 ごめん…。目というか…色々と疲れた…。音声も出力して…。

「了解しました。音声も出力して説明を開始します」

「はぁ…」

 それで、どういうことなの?

「はい…。先程、その制御機構の再生だけでなく、更に暴走した力を抑え込む為に通常では操作しない様々なコントロールを実施しました」

「……」

 なるほど…。だから、あの時にステータス画面が…。そうか…助けてくれたんだな…。ありがとう…。

「……」

「…ん?」

 …どうしたんだ? 急に無言になって?

「…本当に救うことができたのでしょうか?」

「おっ、おいおい、物騒な事いうなよ…。現に…」

 僕が現に助かってるじゃないかと言おうとすると、ステータス画面に気になる事をいった。

「…あの時、妙な現象が起きていました」

「…妙な現象?」

 そういえば、歌みたいなものが聞こえてきたけど…。

「それだけではありません…。説明はできませんが、説明のできない事象がいくつも起きていました」

「説明のできない事象…か…」

 …ちなみに、暴走してたらどうなるの?

「推測の話にはなりますが、永遠に闇の中をさまよっていたのではないでしょうか? もしくは、暴走した力により自我の崩壊…。もしくは…」

「……」

 …いや、もういい。とんでもなくヤバいことになるのは、わかったよ…。

「…いかがしましょうか?」

「…権限を与える。…これでいいのか? ステータス、頼むよ…」

 制御できない力を持っていても仕方がない…。むしろ、話を聞く限りではメリットの方がありそうだ…。

「了解しました。少し、時間がかかります。お待ちください…」

「わかったよ…」

 僕が返事をして地面に座ると、ステータス画面に見たこともない妙な画面が表示された。そして、その画面に高速で文字列が浮かび上がり再びあの妙な歌が流れ始めた。

「でもなんか、いい歌だよな…。歌詞はわからないけど…。心が落ち着くっていうか…」

「私もそうおもいます。私に心があるのかはわかりませんが…」

「うーん…。…あるんじゃないかな?」

「…そうでしょうか? …なぜ、そう思われるのでしょうか?〉

「なぜ…か…」

 うーん…。難しいけど…。俺は、さぁ…元の世界ではゲームを作る仕事してたんだ…。

「…ゲーム?」

 まぁ、綺麗な音楽が流れて…。後はカッコいい感情豊かなキャククターが冒険したり、泣いたり、笑ったり…。まぁ、創作っていえばいいのか?

「…所詮、作り物なのではないでしょうか?」

「なっ、なかなか冷たいこというな…」

「すみません…」

「確かにそうなんだけどさ…。でも…」

 きっとそれには人の心が宿ってると思うんだ…。まぁ、俺の仕事は裏方みたいな仕事なんだけど、時々人が作ったコードをボッーと見てるとそう思うよ…。

「ですが、それは意志の集合体であって心ではないのではないでしょうか? 街中で売ってある本には全て心が宿ってるというのですか?」

「俺はあると思うよ…。わからないだけでさ…」

「わからないと言う事は存在しないのではないでしょうか?」

「うーん…」

 …でも、わからないって事は存在しているかもしれないだろ? 誰にも心なんて証明できないさ…。神様にだってね…。

「…希望的観測ということですか?」

「まっ、まぁそうだね…」

 …あっ! でもさ、こう考えられないかな? さっきの言葉は訂正するよ。誰にもじゃなくて、自分以外は誰にもに…。

「結局、変わっていないのではないでしょうか?」

「そんな事ないさ…」

 つまり、自分自身が希望的観測を抱く事が心の証明になる…。これでどうかな?

「なるほど、面白い意見ですね…」

「…ん?」

 高速で動いていた文字がピタッと止まり、画面が閉じられた。

「完了しました」

「ありがと…」

 ねえ、ステータス…。一個、聞きたいことがあるんだけど…。

「なんでしょうか?」

「……」

 君は、もしかして神様と同じ力…創造主の力を使えるんじゃないの? あの黒い力が悪魔の力なら、それを抑え込めるのはそれしか考えられないんだ…。

「…可能性としては捨てきれませんが、むしろ、私の力を含めその力は貴方が持っているのではないでしょうか?」

「おっ、おれ!?」

 そんなことって…。でも、そうか…。それなら…。

 

 


 

 



 

 

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