第174話

「おい、ゼロ…。ちょっ…。ぐへっ…」

 ゼロは振り向きざまに僕に向かって裏拳を発動した。

「…ん? なにか当たった気がしたが…。おい! …あいつ、どこに行ったんだ?」

「ゼロ…。踏まないで…」

「…ん? 声がする…。まっ、まさか、あいつ…幽霊…」

「…違うって! いいから足をどけてよ…」

 ゼロは僕の腹の辺をふんでいた。僕はゼロの足をのけて立ち上がった。

「足が勝手に…。…そこにいるのか?」

「近いって…。ちょっ、ちょっと待って…」

 僕はゼロの肩を持ち引き離した。ゼロは驚いているようだったが、そのまま話しかけた。

「…なっ!」

「ゼロ…。今は魔法みたいなもので透明になってるんだ」

「そっ、そういうことは先にいえ!」

「ゼロの様子だとうまくなってるみたいだね…。でも、ゼロって実は幽霊が…」

「それ以上いうと叩ききるぞ…」

「ごっ、ごめん…。さて、あとはこの部屋からでるだけだな…」

 僕は剣を抜き牢屋の鍵を叩き切ろうとしたが、手を止めた。

 待てよ…。ここで牢屋を壊したりしたらゼロが疑われるんじゃないのか? いや、魔法で直せば…。いっ、いや、ダメだ…。もし、これとチョーカーが連動していれば…。

「…どうした? 部屋からでないのか?」

「…ゼロ、少しそこに座ってくれないか? チョーカーを調べたいんだ」

「調べてもいいが…。ちっ…。あまり首元に触れるなよ…」

「わかった…」

 僕はしゃがみこんでステータス画面に質問した。

「ステータス…。このチョーカー、取れないのかな?」

「解析を始めます。少し触れてください…」

「ゼッ、ゼロ、ちょっと首元のチョーカー触らせてくれないか?」

 ゼロは少し嫌そうな顔をしていたが、渋々了承してくれたようだった。

「ちっ…。サッサッとやれ…」

「解析中…。解析完了…。方法は二つあります」

「一つは正規の手段で指定された魔力を注入しながら解除…。もうひとつは無理やり爆発させ取りだす方法です」

「ばっ、爆発させるって…。死んじゃうじゃないか…」

「即座にリカバリーを発動させれば、問題ありません」

 即座にって…。リカバリーツー…。いや、リカバリースリーを使えってことか?

「むっ、無理だよ…。最初の方法で…。指定された魔力を注入する方法で…。どうすればいいの?」

「首元に手を当ててください」

「…こう?」

「はい…。解除成功…」

「…えっ?」

 カチっと音がなるとチョーカーはポロッと首元から落ちた。ゼロはそれを見てとても驚いていた。

「…なっ!?」

 僕はとりあえずチョーカーを手に持ち部屋の隅に置いて離れたあとステータスに小声で話しかけた。

「あんなに簡単に外れるんならサッサッといえよ!」

「聞かれませんでしたので…」

「他にデメリットになりそうな事とかないよな?」

「解析した結果、外す事は可能ですが爆発機能までは無効化することができませんでした」

「まぁ、それは…仕方ない…。…他には?」

「また、外した事によりセンサーが発動しています」

「センサー?」

 …どういう意味だ?

「恐らく外した時に管理者に通知する機能です」

「なっ、なんでそんな大事な事をいわないんだ!? 敵がくるってことか!?」

「すみません。以後、気をつけます」

 まずい…。まずいぞ…。とりあえず…。

「ゼッ、ゼロ、早くあそこに置いてある服を着て!」

「どうしてだ?」

「いいから早く!」

「わっ、わかった…」

 ゼロは透明化する服を着始めたのを見ると、僕はステータス画面に向かって話しかけた。

「おい、ステータス! なにか誤魔化す方法はないのか!?」

「…先程のチョーカーを持ってきてください」

 僕は急いで部屋の隅に置いたチョーカーを手に取ると、確かになにかおかしな気配がした。

「取ったぞ!」

「そのまま先程の手枷があるとこまで移動して壁に触れてください」

 僕は言われた通り、ゼロが拘束されていた箇所に行き壁に触れた。

「それでどうすればいい!?」

 僕が問いかけたと同時に、どこからか扉の開く音が聞こえ足音が近づいてきた。

「準備中…。変換…。ドゥラスロールスリー発動!」

 ドゥラスロールスリー? なにを作る気だ?

「こっ、これは…」

 驚いた事に出来上がったものは傷だらけの状態のゼロだった。見れば見るほど精密に作られていたそれは、まるで時が巻き戻ったかのように僕を錯覚させた。

「完了…。チョーカーを取り付けてください」

 驚いている場合じゃない…。早く取りつけないと…。

 僕はチョーカーを急いで取り付けた。

「……」

 …よし。…これでいいのか? …そういえば、ゼロは?

 振り向くと、ぼやけた姿でゼロは目の前に立っていた。驚いて声をだすとこだったが、ゼロは僕の口元を塞いだあともう片方の手で黙ったまま指を差した。そこにはゴブリンのような兵士達が牢屋の中を見回っていた。

「このへんだったが…。反応が消えたな…。特に問題はないようだし…。…故障か? そっちはどうだった?」

「こっちも問題なしだ…。…どうする? …帰るか?」

「ああ…。そうだな…」

 ゴブリン達は辺りをしばらく見渡すと帰っていった。

 


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