第146話

「まさか、俺の力をそう使うとはねぇ…。君には恐れ入ったよ…」

「なんの話だ!」

「なるほど…。意図的に使っているわけではないのか…。まあ、君ならありえるか…」

「おい! 元の世界に返せ!」

「今回は俺がやったんじゃないよ…。いつものように目が覚めればでれるさ…。しかし、汚いねぇ…。少しは綺麗にしたらどうだい?」

「なっ!? ざっ、残業続きでそれどころじゃないんだ!」

 僕が慌てていると黒騎士は笑いながら答えた。

「はははっ、そういう意味じゃないよ…。窓から外を見てごらん…」

 僕はソファーから立ち上がり、半開きのカーテンを開け外を覗いてみた。そこは真っ暗でなにもなかった。

 …ん? …家がない!?

「…なっ、なんだ!? …この世界!?」

 僕は急いでテレビ画面の両端を持ちテレビを揺らしながら黒騎士に尋ねた。

「おっ、おい! ここはどこなんだ!」

「揺らすなって…。まあ、ここは君の心の世界ってことさ」

「…心の世界?」

「つまり、この部屋が君の心を写しているんだ…。部屋が汚いってことは…」

 …心が汚れている?

「そっ、そんなに汚れてなんかいない!」

「はははっ、妙な勘違いをしているねぇ。君の部屋が汚いのは忙しすぎて情報量が処理できていないんだよ」

「…っていうか、そんな話はどうでもいい。…黒騎士! 話がある!」

「全く君が始めたんだろ? それに俺は黒騎士じゃなくて…」

「じゃあ、一体何者なんだ!?」

 僕がテレビ画面に向かってそう叫ぶと黒騎士はゆっくりと歩き、テレビ画面に映った僕の姿と重なるくらい大きくなった。

「俺はねぇ…。君の影でもあり、世界の影でもあり、全ての影でもある…」

 …どういう意味だ?

「…なぞなぞか?」

 僕が疑問を投げかけると、黒騎士は笑いながら否定した。

「はははっ、違うよ…。全て事実さ…。まあ、近いところでいえば精霊ということになるのかな…。名前はそうだな…。シャドウとでも名乗っておこう…」

「…精霊? 精霊ってことは、悪魔の精神体ってことか?」

「そうだね…。ただ、精霊といっても君の知っている精霊達とは少し違うんだが…。まあ、時間もないし、今度は君の話をしよう」

 シャドウは少し上を向き、なにかを確認した後に画面越しに僕を指差した。

「俺の話なんかどうでもいい! 俺はあの未来をみた…。…あんな未来には絶対にしない! シャドウ、もうやめるんだ!」

 僕が殺戮を止めようと説得すると、シャドウはとんでもないことをいった。

「君はさ…悪魔の魂の持ち主なんだ」

「…はっ、はあ!?」

「…色々と混ざりあっていて、わかりづらいけど間違いない」

「…なっ、なにいってるんだ!? それは勇者のはずだろ! ウィンディーネもそういってたし…」

「それは間違ってはいない…。ただ、それは君達の世界の悪魔の魂だ…。この世界の悪魔の魂の持ち主は君なんだよ」

「なっ、なにを…。そんな馬鹿な事あるはずないだろ! そっ、そんなはず…」

「…本当に心当たりはないのかい?」

「……」

 心当たりが無いかといわれれば実はある。でも、それはあまりに信じられないことだ…。だからその先を…。いや、その前を考えるのをやめた…。

「どうやらあるようだね…」

「…つまりこういいたいのか? 悪魔のスキルは本来の力が目覚めているだけだと…」

 シャドウは震えた僕をジッと見つめていた。

「正解…。君がどの未来を見たかは知らないけれど、直近の未来の大半は君自身がなんらかの形でトリガーになってこの世界を滅ぼすんだ。そして、君も…。いや、君だけじゃない君の世界も力のバランスが崩れ全てが崩壊するだろう」

「…うっ、嘘をつくな!」

「嘘なんかじゃない。俺はね、他の精霊とは違って悪魔本体の記憶を受け継いでいる…。そして、なにより…これは見た事あるだろ?」

 画面の中の黒騎士は手をかざすと見覚えのある青い本をどこからか取り出した。

 きっ、記憶を受け継ぐだと…。それにそれは…。

「…バリアブルブック?」

「そうだ…。…そして、君はこのスキルのデメリットを勘違いしている」

「…勘違い?」

「未来が見れれば見続けてしまう? これはそんな生易しいものじゃない。この本に書かれた選択肢以外を選べば、最悪全ての世界線は滅びる…」

「なっ!?」 

 シャドウのとんでもない発言に僕は驚いて開いた口が塞がらなかった。

「あの時、君が黒騎士を倒すという未来はなかった…。つまり、それはあの時点の未来を全て否定し無くしたんだ…。とんでもない力でね…」

「なっ、なんで、そんなことお前にわかるんだよ!」

「簡単な話だ…。これに書いてあった…。また…見えなくなってしまったけどね…」

 また見えなくなってしまったって、それじゃあ…。

「そっ、そんな…。じゃあ、僕がやってきた事って…。ぜっ、全部、無駄だったっていうのか…」

 僕はショックで全身の力が抜けてソファーに寄りかかった。


 

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