第136話

 その言葉を言われた王様は、なにもいえずひどく落ち込んでいたようだった。

「……」

「アリス、どうしたんだ? 喧嘩なんかして?」

「アッ、アル!? もう大丈夫なの!?」

 アリスは僕に近づき心配そうに見ていた。

「大丈夫だよ…。心配かけたな…。あと、その…酷い事いって、ほんとにごめん…」

 僕は深く頭を下げると、アリスはしゃがみ込み僕の肩を持って体を起こした。

「いいのよ…。私も気にしてないから…。…って、そうじゃなくて、なんできたのよ! 早く帰りなさいよ!」

「ごっ、ごめんって!」

「ちっ、違うわよ! 怒ってるんじゃなくて…」

 アリスがなにか言おうとすると、シオンさんが言葉を遮った。

「アル、説明したほうがいいんじゃないか? …その間、私は少し風にあたってくる。メイドさん、悪いんだけど城内を案内してくれないか?」

「はっ、はい…」

 シオンさんは立ち上がり、アナスタシアさんと部屋から出て行った後、僕は全てを話した。


「…つまり、この世界を救いにきた別の世界の人間っていいたいわけ!?」

「ごっ、ごめん…。いつか、言おうと思ってんだけど…。信じてもらえないと思って黙ってたんだ…」

「そっ、そんなの急にいわれても信じられないよ!」

 アリスはそう言い残して扉も閉めず部屋を飛び出してしまった。王様は扉の方に向かい開いた扉を閉めて話しだした。

「…あの子はまだ子供なんだ。許してやってくれ…」

「…悪いのは俺なんです。全部…」

「…そんな事はないよ。君はこの世界を救いに、わざわざきてくれたんだ。感謝しているよ…。私にできる事ならなんでもしよう…」

 僕はその言葉を聞いて深々と頭を下げた。

「では、王様…無理を承知でお願いします。ここまでの会談の議事録を全てみせてもらえませんか?」

「…構わないが、なにをする気なんだ?」

 王様は髭を触りながら答えた。僕はどこまで話そうか考えてみたが、この件に関しては絶対に話すべきではないと思った。

「……王様は知らないほうがいいです。それと会談中、悪い方向に進みだしたらすぐにきってください」

「…きる? …きるというのは君をかね?」

「はい…。今からやることは下手をするとエルフの王国を巻き込みます。それだけは…嫌なんです…」

「…それが世界を救う事となにか関係があるのかね?」

 僕はその重い問いかけに自信のない声で答えた。これは僕の自己満足なのかもしれない。

「…でも、あんな未来を変えるには、きっとこれしかない気がするんです」

「わかった…。また、アリスに嫌われてしまうな…。準備させよう…。他にほしいものはあるかね?」

「ほしいものというよりは呼んできてほしい人達がいます。それは…」

 僕が言葉を発しようとすると扉を叩く音が聞こえた。扉が開くとシオンさんを筆頭にみんなが並んでいた。

「…みっ、みんな!? シオンさん、呼んできたの!?」

「いっ、いや、それが城内をうろついていたら皆に見つかってしまってね…。すっ、すまない…」

 王様は笑いながら席を立ち上がった。

「はははっ…私はお邪魔の様だ…。準備でもしてくるかね」

 王様が部屋からでていくと、皆が小さな部屋にぞろぞろと入ってきて僕はもみくちゃにされた。

「アッ、アルー!」

「心配したんだぜ!」

「アッ、アル様、ご無事でなによりです!」

「アルの旦那ー!」

「アルー寂しかったよー!」

「相棒、大丈夫か!?」

 …うっ、動けない!

「ちょっ、ちょっと、みんなっ、離れてくれ…!」

 …全然どいてくれない。

 シオンさんの方を見るとやれやれといった顔をしていた。

「みんなっ! …アルが話したいことがあるみたいなんだ。…離れてあげないか?」

 みんなは仕方なさそうな顔で僕から離れていった。ただ、シャルだけは一向に僕から離れようとしなかった。

「いやだよー! せっかく会えたのにー!」

「おっ、おい! シャル、離れてくれって…」

「まだ抱きつき足りないよー!」

「シャル様、アルが困っていますから…離れてください」

 僕が離そうとしてもシャルは中々離れなかったが、見兼ねたシオンさんが引き剥がすとあっさりと離れた。まるで、イソギンチャクのように…。

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