第113話

 僕が探していると、プツンと音がなり目の前に映像が流れ始めた。

「…寝てるのか?」

「みたいだね…」

 テレビの中の僕は苦しそうにして船の中ソファーに寝かされていた。話を聞くと、どうやらウィンディーネが全員を転送させたようだ。

「これが今の君の状態…。まあそうだね…。なにもしなければ、あと一時間で君は死ぬんじゃないかな?」

「すごい他人事だな…」

「客観的にものをみてるって言ってほしいね。まあいいか…。それでね…。今の君はウイルスに感染してるんだ」

「…ウイルス?」

 テレビにはウイルスのようなものが、僕の体を蝕んでいるような簡易的な映像が流れた。

「そう…。ウイルスだよ…。君の世界にもあっただろ? えっと…コンピュータウイルス…。イメージはあれに近いよ…」

「全然、わからないんだけど…」

「つまりね…。君が悪魔になりかけているから、別の悪魔に侵入されたんだ…」

 そうか…。裏スキルのせいで強くなったけど、そんなデメリットも…。セキュリティに穴が空いたってことか…。

「今回の敵、今までとは異質だな…」

「まあ、これしかなかったというべきなのかもしれないね。でもね、これはチャンスでもあるんだ…」

「…こっちからもいけるってことか?」

「そうだね…。…ってことで捕まえといたよ」

「はっ、はやっ…」

 目の前のテレビ画面の前にボトッと尻尾が置かれた。目の前の尻尾は弱っているみたいだが、ウニョウニョと動いている。

「…さぁ、食べるんだ」

「たっ、食べるってこれをか!?」

「こんなところでやめたくないだろ?」

「いや、まあそうだけど…」

「君の言いたいことはわかるよ。マヨネーズ、ケチャップ、醤油、好きなもの使うといい…。ポン酢も用意しよう…」

 ガシャっと音がなると目の前に次々と見慣れた調味料が現れた。

「じゃあ、醤油マヨにって…違う! …こんなもの食べても大丈夫なのか?」

「ワクチンだよ…。食べなきゃ…君、死ぬよ?」

 仕方ない…。たっ、食べるか…。

「…うっ……」

 口の中で、もぞもぞと動いて気持ちが悪いな…。いや…でも…なかなかおいしい?

 初めはその姿に抵抗があったが、一口食べるごとに抵抗はなくなっていった。僕は微妙な気分になりながらも、調味料を変えていき食べ比べをした。


「ごちそうさまでした…」

 僕は手を合わせると、調味料はスッと消えた。

「食べ終わったみたいだね…。ほら、テレビを見てみなよ…」

「やはり安定の醤油マヨだったな…。ポン酢もなかなかよかったけど…。…テレビ?」

 テレビを見ると右腕の侵食が少しずつ引いていった。どうやら治っているみたいだ。

「全く優秀なステータスだね…。ふっははは…」

「…笑うとこあったか?」

 そいつはなんの前触れもなく唐突に笑いだした。僕は振り返って探してみたが、そいつの姿はどこにも見えず、声だけがどこからか聞こえてきた。

「ああ、ごめんごめん…。君の優秀なステータスの事を思いだしてね…」

「…なんの話だ?」

「スキルが使えなかったろ?」

「ああ…」

「それはね…。感染に気付いたステータスが、上空三千メートルで全てのスキルを遮断したんだ。まあ仕方ないとはいえね…」

 なるほど…。それで使えなかったのか…。

「その後の君の必死な顔…。なかなかよかったよ…。パラシュートつけてるのに…。この顔…。くっははははっ…」

 テレビ画面には僕が大きな口を開けて、バカみたいに焦っていた。僕はそれを見て少しだけ情けなくなった。

「ひっ、必死だったんだぞ…」

「まあ、なかなかよかったよ…。ここまでの君のプレイ…。どんなゲームよりも面白い…。最高の主人公だよ…」

「そりゃどうも…」

「さて、残すは肉体のみだ…。…準備はいいかい?」

「ああ、戻してくれ…」

 僕が立ち上がると辺りが光り輝き、僕はまたあの世界に戻っていた。


「…ん?」

 どうやら戻ってきたみたいだけど皆の様子が変だな…。まさか…まだ戻ってないのか? …特に問題なさそうだけど?

 僕は起き上がって自分の体の状態を見ていると、ウィンディーネがオバケでも見るような顔で話しかけてきた。

「あっ、あなた…。今、死にかけてたのにどうやって…。…まさか、契約したの!?」

「…契約? 契約っていうか食べたんだよ。悪魔の精神を…。…あれ? 精神は精霊だから、一体なに食べたんだ?」

 僕はお腹の辺りをスリスリと触った。

「…寝ぼけてるの? でも、確かに契約してる感じもないし…。不思議な人間ね…」

 …契約? なんの話だ…?

 困惑していると誰かが大きな声をあげて後ろから抱きついてきた。

「アッ、アルー! 心配したんだよー!」

「シャッ、シャル、抱きつくなって…。っていうか、きっ、汚いぞ…」

 シャルは鼻水を垂らしながら僕の服を汚していた。

「だっ、だってー…」

「心配かけて悪かったな…。そういえば、ドワーフの国はどうなったんだ!?」

 僕が尋ねると操縦席にいるアリスが振り返らずに答えた。

「最悪ね…。アル、モニターを見てみて…」

 モニターを見ると、大地が黒くなり段々と広がっていた。

「なんだこれ…。…なんで、黒いんだ? まっ、まさか!? しっ、尻尾なのか!?」

「みたいね…」

 アリスは画面を拡大すると、それはまさしくあのネズミの王の尻尾だった。

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