第108話

「なんか、喋りすぎて喉乾いてきたな…」

「なんか、俺も頭がパンクしそうだ…。コーラでも…。あっ、あれ!? バックが使えるようになってる…」

 おもむろに神様からもらったバックに手を突っ込むとビンの感触を感じた。

「どうしたんだ?」

「いっ、いや、なんでもない」

 もしかして魔法も…使えるみたいだな。…なんで使えるようになってるんだ? まぁいいか…。問題が一つ片付いたんだし…。

 僕はキンキンに冷えたコーラをテーブルに一本置いた。

「それは?」

「ふっふっふっ…。これは悪魔の飲み物…。コーラだ…」

「ごくっ…。あっ、悪魔の飲み物?」

「飲むか? とっーーても美味しいぞ」

「かっ、体に害はないのか!?」

「ああ…。多量に飲まなければ問題はない。いらないなら飲むぞ…」

「いっ、いる! グラスを持ってくる。ちょっと待っててくれ…」

 彼は棚の奥からグラスを取り出し洗ったあとテーブルに置いた。僕は二つのグラスにコーラを半分ずつ入れて一つをエリックへ差し出した。

「ああ、そうだ…。飲むときは一応横を向いといてくれ」

「…なんでだ? まさか…なにかの儀式なのか!?」

「いや、顔にかけられたくないだけだ。慣れないうちは少しずつ飲んでくれ…」

「わっ、わかった…」

「では、乾杯…」

「乾杯…」

 僕はグラスを鳴らしたあとコーラを飲んだ。

「ああーうまい…」

「大丈夫そうだな…。ごくっ…」

「だっ、大丈夫だって…」

 エリックは僕が飲み干すのを確認していたようだった。僕は空っぽになったグラスをテーブルにおいた。

「なっ、なんだ、この飲み物!? うっ、うまい…。もっ、もう一杯くれ! こんなおいしい飲み物、初めて飲んだ…」

「ああ、いいよ…。…ん?」

 僕はバックに手を突っ込むと変なものにあたったので、コーラと一緒にテーブルの上にだしてみた。

「ああ、これか…。さっきイメージしたときにでてきたのかな?」

「…なんだ? その折れた剣は?」

「これがさっきいってた青い剣だ。壊れてるんだけど直せるかな?」

「みっ、みせてくれ! これが伝説の…。…ん? …これが剣?」

 色々な角度から剣を見たあと、エリックは不思議そうな顔をして剣を見つめていた。

「…どうしたんだ?」

 僕はコーラを冷やし終わったので、炭酸を入れながら聞いた。

「これ…偽物じゃないのか?」

「…偽物?」

「まず、この剣じゃ刃がついてないからなにも切れない。それに、この形状…。無駄がありすぎる…。うーん…。模造刀かなんかだろうな。一体、誰だこの変な剣作ったやつ…。柄の部分外すけど、いいか?」

「ああ…。大丈夫だ」

 彼は剣の柄を外したあと大笑いした。

「はははっ、見てみろよ。これ、初代ドワーフ王の名前が刻んであるぞ。…ん? うわぁあああ!」

 大きな声をあげた彼は見事に椅子からひっくり返り床に倒れた。

「だっ、大丈夫か?」

「……」

 返事がなかったので立ち上がりエリックの様子を見に行くと、彼は不思議なことに震えていた。

「剣が…剣が喋った…」

「剣が喋った?」

「うっ、うそじゃない! 俺はそういうスキル持ちなんだ」

「じゃあ、別に驚かなくてもいいじゃないか」

「違う! そうじゃなくて…。いつもはこう…ぼやっとした声なんだ。今のは本当に話しかけられるような声だった。あんなにハッキリした声は初めてだ。それに、名前もいってた…」

「…名前?」

 僕が聞くとエリックはテーブルの上から本を取りだし、ある精霊を指差した。

「こいつだ…。水の精霊ウィンディーネ!」

「…ウィンディーネ?」

 僕がそういった途端、テーブルにおいたコーラの瓶がガタガタ震えだし、バンッと音がなると瓶が裂けて中から絵本と少しデザインの違う赤い女の姿をした小さな精霊が宙に現れた。

「まさか…。…せっ、精霊なのか!?」

「みたいだな…。でも、なんか気持ち悪そうだな…。おい、大丈夫か?」

 ウィンディーネは僕の顔をみるなり、口を膨らませて一気にコーラを吐き出した。

「ぶっーーー!」

「……」

 異世界に来て僕は何回顔面にコーラを吹きかけられたのだろう…。

 エリックの顔をみるとなんだかすごく納得していた。さっき横を向いてくれといった意味がわかったのだろう。

「なっ、納得してないでタオル貸してくれよ」

「ああ、悪い…。すぐとってくる」

 エリックは立ち上がり、部屋の奥に向かっていった。


「ったく、ひどいじゃないか、ウィンディーネ…。…って、おっ、おい! 大丈夫か!?」

 ウィンディーネはよろよろになり、僕の手のひらにゆっくり落ちた。

「うっぷ…。うっ、ゔぇろろろ…」

 …きっ、きたない。

「…だっ、大丈夫か?」

 僕は背中の辺りを優しくさすり介抱した。

「おっ、おい、この辺でいいか?」

 

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