第109話

 ウィンディーネは辛そうな顔をしてコクっと頷いた。

「うっ、うっ、ゔぇろろらろ…」

「……」

 そろそろ手のひらに吐くのやめてほしい…。

「はぁ…はぁ…。少し楽になってきた…。ほんと…。ぐすっ…。ほんと、ひっ、ひどいのはどっちよー! なにあの水…。変なもの媒体にしないでよ!」

「しゃっ、喋った!?」

「うるさいわね。こっちは…。…あれ? なんかこの水、爽快感がすごいわね…。なんか体も軽くなった感じもするし…」

 ウィンディーネはひらひらと天井を飛び僕の手のひらに再度降りた。よく見るとウィンディーネは赤い色から絵本と同じ青い色に変わっていた。

「精霊なのか?」

「そうよ! ったくもう…。…ん? この感じドワーフの国よね…。あんたどうやって、私を召喚したの? 魔法使えないでしょ?」

「普通に呼んだらでてきたぞ?」

「そんなわけないじゃない。私の完璧な魔法に…。…ん? なにかいるわね? …誰?」

「誰って、アルだけど…」

「あんたじゃないわよ。…わかった! この感じヴォルトね!」

 突然、僕の体から紫色の可愛い球体が現れるとウィンディーネの周りをクルクルと飛び出した。

「なっ!?」

「わー久しぶり! 千年ぶりかしら! 元気してた?」

 球体はさらにくるくるとまわって飛び回った。

「…あれ? よく見たら大当たりの確定演出じゃないか?」

「ふんふん…。…えっ!? そっ、そうなの!?」

「ウィンディーネ、どうしたんだ?」

「はぁー…。これだから人間は嫌いなのよ。少しは見どころあると思ったのに…。この子はね、ヴォルト…。雷の精霊よ…。演出なんかじゃなくて、あなたが召喚したのよ!」

「えぇ!?」

 ウィンディーネは僕の周りをクルクルと飛び手のひらに乗った。

「よく見ると…あの服きてるのね…。なるほど…。それで、ヴォルトを召喚できたのね…。…ということは、あの船できたのね?」

「…あの船?」

 …どの船のことだ?

 僕が考え込んでいるとウィンディーネは目の前に飛んできて僕のオデコをチョンとつついた。

「勇者が乗ってた船よ! 城の地下に隠してあったでしょ?」

「あっ、あれ!? …そんな重要な船だったのか?」

「知らないで乗ったの? でも、すごい偶然ね」

「…偶然?」

 僕が問いかけると、ウィンディーネは青い瞳で僕の目をジッとみた。

「ええ…。あの時の勇者もあなたが今からやろうとしてることをしにきたの…。あの船でね…。ネズミの王…。いえ、悪魔の討伐をね…。まっ…結果は失敗しちゃったんだけどね」

「…なんで失敗したんだ?」

「なんていうか魂も精神もない復活できないものを復活させちゃったせいね…。まっ…他にも理由があるけど…。」 

「なんか、ゾンビみたいだな…」

 ウィンディーネは目をつむって過去を思い出しているようだった。僕はそんな姿をみながら、壊れそうな椅子にもたれかかった。

「でも、あの仮の魂と精神体…。あれだけは、ほんとどうしようもなかったわー…。どこにいるのかわからないし、ほんとどうしようもなかったから、この国を魔力のない国にしたのよ。まぁ自業自得よね…」

 ウィンディーネは両手を広げて首を横に振った。

 衝撃の事実が次々でてくるな…。

「…でも、ここまでやらなくても、もう少し範囲を小さくできたんじゃないのか? …悪魔ってちっちゃいだろ?」

 僕がそんな事をいうと不思議そうな顔をしながら、ウィンディーネは首を傾げた。

「なにいってるの? だから、最低限の範囲にしてるのよ。なにを勘違いしてるのかわからないけれど…。この大陸自体が悪魔の体なのよ?」

「…はぁあ!? いや、そんなはずないだろ。俺が戦った悪魔は俺とそんなに変わらなかったぞ!」

「…そんなわけないじゃない。はぁー…。元々、この星はね…。悪魔の体の周りに小さな星がぶつかってできたの…。神がわけたっていっても、そんなちっちゃいわけないでしょ?」

 …どういうことだ? あれは悪魔じゃない? 

「…じゃあ、俺が戦ったのってなんだったんだ?」

「そんなの知らないわよ。見てないし…」

 ウィンディーネは不服そうな表情をして両手をくんだ。

「…っていうか、なんでそんな大昔の事を知ってるんだ?」

「なんでっていうか…。…ヴォルトどう思う? いっていいかな?」

 ヴォルトはくるくると回りぴょこっと跳ねた。声はでていなかったが、精霊達は会話しているようだった。

「……」

「まぁ、そうよね…。大昔の事だし、今更知ってもどうしようもないか…。私達が悪魔の精神体だなんて…」

「あっ、悪魔の精神体!?」

 僕は驚きのあまり席を急に立ち上がったせいで、椅子がバタンと倒れた。

「いっちゃった…。まっ、まぁいいか…。神はね…悪魔の体をわけただけじゃなく、精神もいくつかにわけたの…。それが私達ってわけ…」

「はぁ…」

「でまぁ、消滅っていってもいいかもしれないわね…。私達には悪魔だった頃の記憶がほぼないし、この世界を乗っ取りたいとか思わないし…」

 それじゃあ、ノームも悪魔の一部ってことなのか…。っていうかサラッと恐ろしいこといわなかったか? まっ、まあいいか…。

「なっ、なるほど…。よくわかったよ…。精霊は悪魔の魂ってことなのか?」

「いやいや、違うわよ。話聞いてた? 私達は精神の部分、魂とは違うわ…。魂は別にあるのよ…。今はどうかしら…流石に死んじゃったのかしらね…」

「…誰が死んだんだ?」

「勇者よ、勇者!」

「…なんで、ここで勇者がでてくるんだ?」

 僕はよくわからない現状に頭を悩ませながら、椅子を起こして座った。

「なんでって…。勇者が悪魔の魂の持ち主だからよ」

「…ええ!? 勇者が悪魔の魂の持ち主!?」

「ええ、そうよ。直接本人から聞いたから間違いないわ。ちなみに神様の魂ももってるのよ」

「へぇー…」

 

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