第95話

「その…さっきは悪かったな…」

 一応、謝っておこう…。

「ううん…。私も…ごめん…。ねえ、アル…。その…さっきの事って怒ってる?」

「…ん? いや、まぁちょっと理不尽だなとは思うよ」

 僕がそんな事をいうとアリスは力を込めて両手をグーにした。少し怒ったようだった。

「でっ、でも、アルだって変な事いったじゃない! その…子供パンツとか…」

「じゃあ、一つ聞くが…」

「うん…」

「あの時、みたかったんだ…っていったら蹴らなかったのか?」

 僕は怒られるのを覚悟で、あえてそんな質問をぶつけてみた。アリスは怒らなかったが、顔を真っ赤にしていた。

「みっ、みたかったの!?」

「ちっ、違うわ! 例えばの話だよ…」

 僕が予想外の反応に焦ってそう答えると、アリスはしばらく黙り込んで笑いながら答えた。

「うーん…。更に思いっきり蹴ってたかも…」

「…だろ? かといって正論だけをいっても興味のないような感じで反論しなければアリスは疑ったんじゃないのか?」

 僕が質問すると、急にアリスは地上を指差した。

「うーん…。…あっ! 城がみえたよ!」

「…今、完全に話題変えただろ……」

 僕がアリスの方を見つめると、ニコッと笑って目をそらした。

「なっ、なんの話かな。ほっ、ほらっ、みんな待ってるから、早く、早く!」


 僕達は城の中に入るとシオンさんとシャル…。そして、ルナがすでに待っていた。

「みんな、お待たせ…」

 シャルが駆け寄って来て僕の腕を引っ張り、アリスに聞こえないように小声で話しだした。

「…仲直りできた?」

「…まぁ……」

「そっか! よかったね! ダメだったら、アルとアリスに作戦そのニを実行しようかなと思ってたんだよ」

「作戦…そのニ?」

「うん、そうだよ! 少し、記憶を…。まっ、まあ、気にしないでよ。仲直りできたんだしね。シオン様が聞きたいことがあるんだって…。こっちきてよ…」

 僕はシオンさんの所までシャルに引っ張られながら、今の言葉を思いだしていた。

 記憶をなんなんだ…。まぁ、まぁいいか…。


「…シオンさん、聞きたいことってなんですか?」

「君があの剣を持っているんだよな? 私が戻った時にはなかったんだが…。もっ、持っているんだよな?」

 シオンさんは声を震わせながら、心配そうな顔で僕に尋ねてきた。

「大丈夫ですよ…。預かってます…。ドワーフに直してもらうんでしよ?」

「ああ…。私もあまりのショックにそんな簡単な事に気づかなかったよ。…でも、直らなかったらどうしよう」

 たしかに直らなかったらまずいな。…ん? …直らなかったら?

「あっ…。リカバリーがあるの忘れてた…」

 僕はバッグからノスクの剣を取りだして床に置いた。

「そんなところに入っていたのか…。なにをするんだ?」

「まぁ見ててください…。もしかしたら直せるかも…。…リカバリー!」

 全く僕としたことがすっかり忘れていた。…ん? なっ、なんだこの剣……。なにかがおかしい……。…まずい! …これ以上は!? 魔力が逆流してきた!

「なにも変わってないみたいだが…。…というか、変な音がしなかったか?」

「はぁ…はぁ…。なっ、直せませんでした…」

 でも、なんなんだこの剣…。なんていうか…広すぎる。

 リカバリーを発動するとそれは剣の大きさなのではなく、例えるならまるで無限に広がるような空間だった。

「…そっ、そうなのか?」

「もしかして…とんでもないものを壊しちゃったのかもしれない…」

 僕がそんな事をいうと、シオンさんは思いっきりへこんだ。

「そっ、そうか…。とんでもないものか…。それはそうだよな…。勇者の道標なんだから…。本当に私は…」

「だっ、大丈夫ですよ。たっ、多分…」

「多分か…」

 僕は死んだような目になっていくシオンさんを必死に励ました。

「ドワーフの国にいってから考えましょう! あっちには凄腕がいるんでしょ? すごい技術で直してくれますよ!」

 …とは勢いでいったものの…神様のリカバリーで直せなかったのにドワーフが直せるのか? まぁダメなら神様に直接直してもらうという事もできるか…。

「そっ、そうだな! 早くいこう!」

「はい! いきましょう!」

 僕達の会話がちょうど終わると同時に一匹の兵士がルナに近づいてきた。

「…わかりました。…アル様、お話は終わりましたか?」

「ああ、終わったよ」

「では、アル様…。部屋に食料や飲水の準備ができたそうなのでバッグを貸してもらってもよろしいでしょうか?」

「ああ。よろしく頼むよ」

 僕がバッグを渡すとルナと兵士が部屋に入り、しばらくするとルナがでてきた。


「…準備ができました。本当に不思議なバッグですね。兵士達も驚いていました」

 ルナはバッグを不思議そうな顔をして見たあと僕に返した。

「準備もできたし…。…よし! 海に行こう!」

 僕は城の出口に体を向け歩き始めようとするとルナに止められた。

「まっ、待って下さい! そっ、そっちではありません」

「…えっ? でも、船は海にあるんだろ?」

「いえ、城の地下にあるのです」

 …城の地下?

「…どういう意味なんだ?」

「…移動しながら説明します。ついてきて下さい」

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