第94話

 紫色のブサイクなデブ猫の団長は、僕を見るなりとんでもない事を言いだした。

「やはり、あの船を…。王よ…。私の予想通り…この者が今回の首謀者です」

「うーむ…」

「なっ!?」

 こっ、こいつ…。ぼっ、僕を疑っているのか!?

 僕が団長に反論しようとすると、ルナが代わりに前にでて怒った様子で話しだした。

「口を慎みなさい! この国を救ってくれた恩人にそのような言葉…。到底許されるものではありません。撤回しなさい!」

 団長はクルッとなったヒゲを少し触った。

「ふっ…。ですが…尻尾は逃げてしまったではないですか?」

 まぁ、確かにな…。

「そっ、それは仕方のないことです…。アル様は充分やってくれました…。それに比べて…。…一体、貴方達はなにをしていたのですか!?」

「ですから、国の危機を救おうとしているのですよ。…おわかりですかな?」

「どういう…意味ですか?」

 ルナが質問すると、団長はニヤリと笑い僕の方をみた。

「つまりですね…。彼はあの船を手に入れる口実が欲しかったのですよ…。考えてもみてください。こんなにもいいタイミングで尻尾が逃げますかな?」

「…彼は間違いなく役目を果たしてくれました。別の何者かが封印を解いたのです」

「何者かが…ですか…。ふっふっふっ…」

「…なにがおかしいのですか?」

 団長はステッキを回しながら歩いた。

「いや、そもそも偶然にしては出来過ぎている…。これは初めから仕組まれていたのです…。その何者かは…彼の仲間…。むしろ…彼が逃したのでは?」

 団長は僕の方に近づきピタッと止まると、ステッキの先を僕に向けた。

「なっ、なんて、無礼な!?」

「…それとも、証拠でもあるのですかな? そのものが関わってないという証拠が…」

「それは…。ぐっ…!」

「まぁ、尋問すればわかることです…。兵隊共やつをとらえっ…。ぐはっ…」

 ルナの強烈な後ろ回し蹴りが、団長にクリーンヒットしてバタッと倒れた。僕はルナの立場を心配した。

「ルッ、ルナ!? さっ、流石にまずくないか!? お姫様だろ?」

「いえ…この者を放って置く方がよっぽど問題です。…お父様! いえ、国王陛下!」

「…なんだにゃ?」

「私はあの時のような間違えをもう二度としたくありません! 次期国王として私は彼にあの船を与えます。…よろしいですね?」

 王様は目をつむり、しばらくなにかを考えていたようだった。

「うーむ…。わかった…。好きにするがよい…。ただし、問題が起きればただではすまされないぞ。私も…お前もな…。…わかっておるな?」

「…わかっています」

「おっ、おい、ルナ! ただではすまないってどういう意味なんだ!?」

 ルナは深刻そうな顔をして王様に返事をしていたので、僕が心配して尋ねると苦笑いした。

「大丈夫です…。気にしないで下さい…」

「気にするなって…」

「アル様に頼ることしかできない愚かな私達ですが…許して下さい…。ですが、この国を…」 

 ルナは申し訳なさそうな顔をしながら、深々と僕に頭を下げた。

「ルッ、ルナ…。許してくださいなんていうなよ…。…きっと、呪いを終わらせてやる! …いや、絶対にだ!」

「…はい! 信じています」

「まかせろ!」

「…そうと決まれば急ぎましょう。食料などの準備はしておきます。アル様は皆さんを城の中に集めておいて下さい。では、私はこれで…」

 ルナは駆け足でどこかへと走っていき、王様はそれを見届けると兵士を連れて城の方に戻っていった。


「さて、急いでみんなを探すか…。シャル、いくぞ」

「うん…。あっ! …そういえば、この剣どうするの?」

 シャルは地面に突き刺さった折れた剣を眺めていた。誰も持って帰ってないようだった。

「うーん…。どうするかな…」

 …ノスクに返すか? …いや、今は見せないほうがいい気がするな…。うーん…。

「…ドワーフなら直せないかな? こういうの得意だと思うよ」

「そうか…。ドワーフといえばそうだよな! 今日のシャルはすごいな。お手柄だぞ!」

 シャルは頭をかきながら、はにかんだ笑顔を浮かべた。

「えへへへ…」

 僕は地面に刺さった剣を抜き、柄と一緒にバッグに入れた。

「よっと…。それじゃあ、剣は俺が預かっておこう。さてと、時間がもったいないし二手に別れよう」

「うん」

「俺はアリスを探してくる。シャルはシオンさんを頼むよ。見つけたら城の中に集合だ」

「わかったよ。アル…もう喧嘩しちゃダメだよ?」

「わっ、わかってるよ。じゃあ作戦開始だ」

 こうして僕はアリスが消えた城下町の方へ足を進めた。


「…それにしても、あいつどこにいったんだ?」

 僕は周りは猫だらけだったので、探せばすぐに見つかるかと思っていたがアリスの姿はどこにもなかった。

「…こっちかな?」

 細い道を抜けると、そこには雰囲気の違ったお店がチラホラと建っていた。

「…なんだ? 変わったところにでたな…。ここじゃなさそうだけど…。変な雰囲気だな…。一体なんのお店なんだ? …ん? 看板があるな?」

 僕は歩いていき看板に書いてある文字を確認した。

「なになに…。可愛い子猫ちゃん…おさわりし放題だと!? それにこのイラストは!?」

 僕は胸ポケットに入れていたチケットを取りだした。

 なるほど…。ここだったのか…。あのエロ猫がいっていた場所は…。今度こっそりこよう…。

「…やっぱり変態だったのね」

 聞いたことのある声がしたので、後ろを振り返るとアリスがドン引きして僕を見つめていた。

「…ちっ、違う!」

「変態じゃない…」

「全くやましい気持ちはない! …っていうか、アリスこそなんでこんなところに?」

 アリスは周りを見たあと申し訳なさそうな表情をしながら、ため息をついて肩を落とした。

「はぁ…。迷ったのよ…。さっきの事は私が完全に悪かったし…すぐに戻ろうとしたんだけど…」

「うん」

「道がわからなくなってどうしようかなって困ってた時に、どこかで見たことのある変態さんを見つけて声をかけたってわけ…」

 アリスは諦めたような目で僕の事を見てきた。僕はアリスの方に近づき、右手を前にだした。

「変態さんではないがな…。アリス、悪いけど時間があまりないんだ…。飛びながら事情を話す…。城にいくぞ…」

「わかったわ…」

 僕はアリスの手を掴み、空へと飛び出した。


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