第91話
僕は尻尾を受け取ると、ランプのような形の檻を作り中に封じ込めた。
「よし…。これでいいだろう…」
MPはゼロだからMPドレインはいいだろう…。
僕がランプの中の尻尾をのぞいているとルナが話しかけてきた。
「アル様…。それで、あの尻尾はどうなったのでしょうか? どこかに閉じ込めたのですか?」
うーん…。そろそろ話すか…。
「ルナ…みんなに報告してくれないか…。ごめん…。実は…」
僕が本体を倒せなかった事を伝えようとすると、僕の話を遮りノスクが急に話しだした。
「ごめんにゃ! 僕のせいにゃ! 僕のせいで本体を取り逃がしたんだにゃ!」
「おっ、おい! ノスク!」
「アルは黙っててにゃ!」
アバンは空を見てあたふたとしながら尻尾を探していた。
「どっ、どこにいるんだ!? 本体はどこに! 尻尾はどこにいったんだ!?」
ルナもまた慌てているようだった。
「あっ、あんなに苦労したのに…」
ノスクは二人をみながら話しだした。
「わからないにゃ…。でも、当分の間は大丈夫…。海の向こうに逃げていったんだにゃ!」
「海の向こうに…」
「…逃げた? …とりあえずは、大丈夫ということですか?」
「うん…。でも…あいつはいずれ帰ってくる…。そんな気がするにゃ…」
アバンとルナはひとまず問題がなくなった事を知り、少しだけ安心したようだった。
「おっ、驚かすなよ…。なっ、なんだ…。びっ、びっくりしたぜ…。まっ、まぁ、何体いようが俺が倒してやるんだけどな」
ルナは呆れた様子でため息をついた。
「はぁー…。私やあの人たちがいなかったらとっくに養分になっていたのに、よくそんな事いえるわね…。…あっ、そうだ! アル様にお客様がきてます」
…客? …誰だ?
「アルー! みんながきてくれたよ〜」
…ん? どこかで聞いた声だな…。
「アルー! 助けにきたよー」
僕が声の方へと振り向くと見慣れた三人がいた。そう…。それはアリスとシャル…。そして…。
「さっ、さっ、さっきのやつだにゃ! 今度こそ、この剣のサビにしてやるにゃ!」
ノスクはさっと剣を抜きシオンさんに襲いかかった。
「…おっ、おい! 待てって、ノスク!」
その数秒後、カンッと音がしてノスクの剣が真っ二つに割れて剣先の部分がクルクルと宙を舞い地面に突き刺さった。
「……にゃぁああああ!! 僕の剣がぁあああああ!!!」
うわー…。綺麗に刺さったなー…。…ん? このシーンどこかで…。………そうか! この剣の刺さり具合、あのゲームのエンディングに似てるな…。本当に最後のセーブはトラップだった…。うんうん…。…ってそんな事を考えてる場合じゃなかった。
「シオンさん! ちょっ、ちょっと待ってください!」
「わかってるよ…。でも、どうしてこの猫は急に襲ってきたんだ?」
僕はネズミの王の尻尾との戦い、そしてシオンさんにそっくりな人物が襲ってきた事について話をした。
「…って事なんです」
「なるほどな…。私にそっくりな人物か…。この猫ちゃんには悪い事をしたな…」
ノスクは泣き止み、放心状態となっていた。
「もう…おしまいだ…。僕の…僕の…補助金が…」
こっ、こいつ…いつの間にか剣から補助金に変わってやがる…。まあ、ちょっとかわいそうだし、しばらくそっとしておこう…。それよりも、シオンさんと話の続きだ。
「…シオンさん、それでゼロってやつなんだけど…心当たりはないですか? …兄弟とか?」
「ないな…。そんな記号みたいな変な名前の知り合いはいない…。それに私は一人っ子だ」
「…じゃあ、隠し子とか?」
シオンさんは目を細めて、口元を触った。
「…ないとは思う。隠す必要性がないといったほうが、正解か…」
「そっか…。……突然なんですけど、リカバリーしていいですか?」
僕が急に話題を変えてリカバリーをしたいといった為、シオンさんは両手をあげて驚いていたようだった。
「にゃっ!? なっ、なぜ、急に? 特に怪我もしてないぞ!?」
「うーん…。念の為というか…魂の形をみたいんです。…だめですか?」
今の質問で一つわかった。彼又は彼女はリカバリーの存在と効果を知っている。…という事は、本物…又は、記憶や魂までコピーできる敵かだ…。
「…いいけど、優しく頼むよ」
僕はシオンさんの肩に触れて唱えた。
「わかりました…。……リカバリー!」
うーん…。見た感じ…魂の形は同じ気がするな…。
「…もっ、もういいだろ? くすぐったい…」
「はい…。ありがとうございます…」
僕は手を離してリカバリーの発動を止めた。リカバリーをかけてみたが、シオンさんからは妙な感じはしなかった。
「…信じてもらえたかい?」
うーん…。正直、まだ弱いな…。もし、魂の形までコピーされてたら…。今の方法じゃわからない…。
「…まだ、六十パーセントってとこですね」
「なかなか厳しいな…」
「…シオンさん質問があるんです。どうして、到着が早かったんですか?」
俺も結構寝てたけど…。流石に一週間はたってないと思うんだけど…。
僕がそんなことを思っていると、アリスは慌ててシオンさんに話しかけた。
「そっ、そうですよ! 私も気になってたんです…。私が連絡するまで、全然違うとこにいってたから、当分かかるかと思ったのに…。…もしかして、実は合ってたってことですか?」
シオンさんは困った顔をして、笑いながら頭を触った。
「いや、全然違うとこにいってたよ…。アリス姫から連絡がくるまでね…」
「なら…」
「これをいうと…怪しまれてしまうのかもしれないが…。その…信じてほしい…」
シオンさんは悩ましい表情をして、言葉をつまらせていた。
「はい…」
「私達はアリス姫から連絡がきたあと、こちらに向かっていた…。ただそこは…ここから、遠く離れた海のど真ん中にだったんだ」
「…海のど真ん中?」
…どういうことだ?
僕が質問すると、シオンさんは情けなさそうな表情で深くため息をついた。
「ああ…。この辺りの海流は特殊でね…。迂回しながら航海しないといけないんだが、まさかあんなところにいっていたとは…。割と近くにきていたけど、七日はかかるといわれたよ…。陸路からいくにしてもね…。私がもっと早く気づいていれば…。はぁ…」
「しっ、仕方ないですよ…」
「そうですよ…。私がもっと早くに気づいていれば…」
アリスはちょっと落ち込んで、顔を暗くしていた。
「それが、突然青い光に船が包まれ…。そして、気付けばこの王国付近の港に到着していたんだ…。…信じてほしいけど、なかなか信じられないだろ?」
…青い光? ……ノスクの空間移動か? まさか、ノスクが発動したのか?
「おい、ノスク…」
「……」
返事がない…。ただのしかばねのようだ…。…って、そんな事を考えてる場合じゃない!
「おっ、おい! ノスク!」
僕は気を失ったノスクの肩を揺らして起こした。
「はっ! ここはどこだにゃ!? ごっ、ごめんにゃ、疲れて寝てたにゃ……。夢でよかったにゃ〜。でも、ほんとにひどい夢だったにゃ…。アル、聞いてくれるかにゃ? この剣が…」
ノスクは折れた剣を見ると、そのまま気絶してしまった。
「……質問は当分無理だな。しばらく放っておこう。アバン、ルナ、悪いんだけどノスクをベッドに運んでくれないかな?」
「…ったく、しょうがねえやつだな」
「…全くですね」
アバンとルナはノスクの肩を支えてズルズルと引きずりながら城の中に連れて行った。
「…ん? シオンさん、なに見てるの? ああ、これか…」
僕は右手に持っていた尻尾を閉じ込めた檻を持ち上げた。
「それが、ネズミの王の尻尾…なのか?」
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