第90話
僕達は城のベランダから空間移動して、空に浮かんでいるあの恐ろしい敵の目の前に立った。
「…あっ、あれ!? 落ちてないぞ…。ノスク、もしかして…空を飛べるのか?」
「みっ、みたいだね。そうか…。この場所に空間移動し続けてるのか…」
なるほど…。
「…よし! ちゃっちゃっと片付けよう! ステータス! あいつにMPドレインのコーティングを…。…あれ? …どうしたんだ?」
敵の様子がおかしい…。こちらに気付いているのに襲ってくる気配がない…。というか、表情こそわからないが、何かに怯えて逃げているようだった。
「…アル、なんかおかしくない?」
「だな…」
まさか、僕達に怯えているのか? あれだけ攻撃してきたのに…。待てよ…。そもそも…こいつどうやって、あの中からでてきたんだ?
「…アッ、アル! 危ないっ!」
「えっ?」
後ろを向くと巨大な火球が僕等に向かってきていた。ノスクが僕の背中にまわり、傘のような剣に水をまとい攻撃を防いでくれた。
「アル、上だ!」
高速で誰かが降下し、炎をまとった剣で僕達を斬ろうとしていた。僕は即座に剣を抜いたが、とんでもない威力の連撃をガードするだけで精一杯だった。僕達は最後の一撃で下に吹き飛ばされてしまった。
「うわぁあああ!」
「にゃぁあああ!」
僕達が振り向くと黒色のフードをかぶった人間が上から見下ろしていた。
「…お前たちか? …あの厄介な障壁を作ったのは?」
誰だ…。というかこの声…。まさか!? いや、そんなはず…。
「…シッ、シオンさん?」
「えっ? アッ、アルの知り合い!? あっ、あれ? 剣がおかしい!? おっ、落ちるにゃあああー!」
ノスクの剣を見ると輝きが消えてしまっていた。どうやら剣が壊れてしまったようだ。僕は空中に浮かび、落下中のノスクの手を取った。
「はぁ…はぁ…。ギリギリセーフ…。あっ、危なかったな…」
「たっ、助かったよ…」
もう少しでノスクが海面に叩きつけられて死ぬところだった。シオンさんがこんなひどい事するわけない…。
黒色のフードをかぶった人間はゆっくりと下降してきた。
「お前…。今、私の事をシオンといったか?」
…なんだ、この質問? やっぱり、シオンさんじゃないのか?
「いや、勘違いだ…。こんなひどい事する奴がシオンさんなわけない!」
「はははははっ…。なるほど…。シオンではないか…。お前…なかなか面白い事をいうな」
目の前の人物は黒色のフードから顔をだすと、そこには見たことのある顔があった。
「そんな…本当に…シオンさんなのか?」
「なかなか面白いものを見つけたな…。なるほど…まだ生きていたのか…」
「…生きていた?」
シオンさんの知り合い? まさか、兄弟?
その人物は、冷たい目をしながら剣先をこちらにむけた。
「…あいつはどこにいる?」
「…ノスク、俺の背中に掴まれ!」
「うっ、うん!」
僕はノスクが背中に乗ったのを確認すると、剣を強く握った。
「ふっ…。やる気か…。まあいい…。少し遊んでやるか…!」
相手が海面を高速で飛び特攻してきたので、僕も勢いをつけて相手の剣を折る気で叩きつけた。
「くっ…!」
ダメか…!
僕は上空に移動して距離をとり、魔法での攻撃を行うことにした。
「ほう…。今の一撃を防ぐか…。なら、これで…。…どうだ!」
目の前に火球が飛ばされたので、水弾を飛ばすとナイフが突然、数本現れた。僕は即座に剣で払い落とした。
「…っ!」
「今のも防ぐか…。今度は…。…ちっ! ネズミめ…。予想以上に逃げ足が早い…。お前、命拾いしたな…。だが、次に会うときは、お前の持っている情報をすべて話してもらう…。…名前をいえ!」
「…お前なんかに素直にいうかよ!」
僕が反抗するとシオンさんによく似た人間は、剣先をノスクに向けた。すると、とんでもなく剣は赤黒く染まっていった。
「…ならばその猫を殺す」
「にゃあ!? ぼっ、ぼく!? アッ、アル! 早く逃げるにゃああ! …あっ。なっ、名前いっちゃたにゃ…。…アル、ごっ、ごめんにゃああ!」
「…ノスク、もういいから暴れないでくれ……」
シオンさんによく似た人間は笑いながら剣を鞘に入れた。
「はははははっ…。アルか…。覚えやすい名前だな…。さて…そろそろ行くか…」
「おっ、おい! お前の名前は!」
「…私の名前? …そんなものはない……」
「なっ、ないって…。嘘つくなよっ!」
「……ちっ! じゃあ、私の名前は…ゼロだ…。ゼロでいい…」
ゼロと名乗る人物は遠くに見えるネズミの王の尻尾を追いかけていった。
「ゼロか…。なんなんだ、あいつ…」
「しっ、死ぬかと思ったにゃ…」
僕は周りを確認した後、剣を鞘にいれた。
「まっ…。深追いはしないほうがよさそうだな…」
「そっ、そうだね…」
とんでもないスピードで移動し、もう姿が見えなくなっていた。
「そうだね…。いったん戻ろう…。みんな…大丈夫だと思うけど…」
…そうだ! 早く王国に戻ろう…。みんなが心配だ。
僕達が王国に戻るとアバンとルナが駆け寄ってきた。
「見てくれ! アルの旦那、この俺が捕まえたんだ!」
アバンは僕の目の前に来るとグニャっとなったネズミの王の尻尾を見せた。すると、ルナは少し不服そうな顔をした。
「あっ、あなたは捕まえただけでしょ。弱らせたのは私なんだから…。信じてくれますよね? アル様?」
「ああ…。信じるさ。みんな…本当によくやってくれた…。…そうだ! アバン、危ないから、それ…貸してくれないか? 閉じ込めておこう」
「はい! アルの旦那…」
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