第88話
僕がまだ話をしているにも関わらず眩い光が全身を包みこみ、気付けば元の世界に戻っていた。
「誰なんだ…って…。…あっ、あれ?」
起き上がるとあの恐ろしいダンジョンではなく、豪華な部屋のベッドで寝ていたようだった。
「…だっ、大丈夫? …アル?」
ノスクが心配したような顔をして駆け寄ってきた。
「…ここはどこだ? …さっきのは夢?」
まさか…夢オチ…とかではないよな? ポーション臭いし…夢じゃなさそうだけど…。
「夢じゃないよ。ここはお城の中さ…。今度はベッドに寝かせたからね」
ノスクは僕の方をみて、ニッコリと笑った。僕は気を失ってからのことが気になっていた。
「…ノスク、あれからどうなったんだ?」
「アルが倒れてから、この剣ですぐにお城に戻ったんだ。心配だったけど…。それから、あの場所にもう一度戻って…皆で更に奥にいったんだ…」
「……」
なるほど……。
「あっ、そうだ…。ごめん…。これ借りてたんだ。返すね…」
ノスクは神様から貰ったバッグを僕に手渡した。
「…ん? …バッグ?」
「うん…。その中には水とか食料とか入ってたからね。もし、僕が戻れなくてもアバンとルナが生きていけるようにね」
「そうだな…」
「でね…。話は戻るけど、それからあの先にみんなで進んだんだ。でも、おかしなことにホコリとか、かなりかぶってたんだけど…」
不思議そうな顔をしてノスクは首を傾げていた。
「…どうしたんだ?」
「うーん…。なんていうか…。作ったばっかりかと思うくらい部屋とか通路が綺麗だったんだ…」
…作ったばっかり? ああ、直したからか…。
「それは俺のせいかも…。リカバリー使ったからな」
ところとごろ壊れていたから、リカバリーで全て元に戻しておいたけど、最初からやっておけばここまで苦労しなかったのかもしれないな…。
「どっ、どういうこと!?」
「だからさ、建物全て直したんだよ」
ここからは僕の予想だが、あのダンジョン自体がMPドレインのエンチャントがされていたのではないかと思う。それがある時、老朽化して壊れてしまい、あんなに尻尾は元気だったのだろう。僕だったら一番閉じ込めるのに有効なものは絶対に入れる。そういえば、あの時…。いや…終わったことだ…。考えても仕方ないか…。
「にゃ!? そっ、そんなこともできるの!?」
ノスクは目を丸くして口を開けてポカンとしていた。
「まぁ、俺の話はいいから…。続きを…」
「えっと…そうだ! それで最後の部屋についたんだ…。そこには…」
「そこには…?」
一体どんなお宝が…。
「なにもなかったんだ…」
「なっ、なにも!?」
なにか重要なアイテムとかヒントくらいはあるかと思ったけど予想が外れたな…。いや、そうでもないか…。あの戦いでMPドレインが弱点…。この情報が手に入っただけでも苦労したかいがあった。
「うん…。それで仕方なく、みんなで帰ってきたんだ」
「…あれ? そういえば、二人しか空間移動出来なかったんじゃないのか? ああ、そうか…。ノスクが一回戻ればいいのか…」
ノスクは首をなぜか横に降った。
「ううん…。そのはずだったんだけど、みんな一度に帰ってこれたんだ…。もしかしたら空間移動の制約って僕の勘違いで、ただの力不足なのかもしれない…。にぁー…」
ノスクは悲しそうな顔をして、ため息をついた。
「そんなことないよ。ノスクは頑張ってくれた。…でも、本当に不思議な剣だな」
「うん。本当にそうだね…」
「まぁいいか…。みんな…無事なんだから…」
「それが…」
ノスクは深刻そうな顔をしていた。もしかしたら怪我でもしたのかもしれない。
「なっ、なにかあったのか!?」
「実はさっきからそこにいるんだ」
ノスクはベッドの中を指差した。
「えっ?」
僕はベッドの布団を取ると、そこには大きな黒色の毛布と小さな白色の毛布…。ではなく、アバンとルナ…それとアリスが僕の足元で寝ていた。通りで足元がやたらと暖かいわけだ。
「やめたほうがいいっていったんだけど…」
「…あれ? 黄色い毛布がないな…」
僕は静かに立ち上がり、両手を広げてゆっくりとノスクに近づいた。
「ぼっ、僕はやらないよ。男に抱きつく趣味はないからね…。…あれ? なっ、なんで近づいてくるの? アル、かっ、顔が怖いよ…。にゃあああああ…」
僕は黄色い毛布を手に入れた。
「ふぅー…。今ので、かなり回復したな…」
「僕は逆に疲れたよ…」
ノスクは疲れ切った顔をしていた。
「…っていうか、これだけ騒いでも起きないなんて、みんなよく寝てるな」
僕は足元で寝ている猫達とアリスをみた。ぐっすり寝ていて、全く起きる様子がない。
「まぁ疲れてるんだよ…。僕らもついさっき帰ってきたところなんだ。お姫様も大変だったみたいだよ…。ふぁ〜あ…。眠い…」
「ごっ、ごめん。そうだったのか…」
僕はノスクを離して起き上がり、頭を押さえてノスクに謝った。
「まっ、まぁいいよ。一番大変だったのはアルだったんだから…。もし、あの尻尾が外にでてたらと思うとゾッとするよ…」
「確かにそうだな…」
僕があのとんでもない尻尾を思いだしていると、ノスクは急に起き上がった。
「ねえ、アル…。話があるんだ…。…ちょっと、ベランダにでない?」
「…いいけど?」
僕達は猫達を起こさないようゆっくりと立ち上がり、そろりそろりとベランダに向かった。水平線が見え、白い帆をあげた船が何隻か見える。てっきりまた山の中かと思ったが、猫の国は海のほうが近かったようだ。
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