第87話

「いやぁー、まずはご苦労さま…」

 どこからか分からないが、手を叩く音とともに憎たらしい声が聞こえてきた。ただ、前の声よりもまた少し声が大人びていた。

「…まあ、大変だったよ」

「でも、今回の戦い…いまいちだったね。点数をつけるとしたら三十点くらいかな」

「…なんだとっ!?」

 僕は立ち上がりあいつを探したが、暗闇の中で探すのは難しいようだ。僕は試しに手探りで探してみたが、何も触れることができなかった。

「おいおい…怒るなよ。でも、本当のことだ…。本当ならあんなにボロボロにならなくてもあっさり勝てたはずだ…。…君も気付いているんだろ? …まさか、気付いていないのかい?」

「……」

 …なんのことだ?

 僕は少し考えてみたが、皆目検討もつかなかった。

「はぁー…。ゲーマーなのに謎解きは苦手なんだね…」

 くっ、悔しい…。悔しいがさっぱりわからない…。いや、そんなことはない! 考えればわかるはずだ!

「はぁー…。てっきり、君のことだから気付いてやってるのかと思ってたんだけどな…。ヒント…だそうか?」

「…まっ、まて!」

 僕は片手を広げて前にだしながら、ヒントをだすのをやめさせた。

 それだけは僕のゲーマーのプライドが許さない…。

「仕方ない…。一分待ってあげよう」

「うーん…」

 考えろ…。どうやってあんな化物を簡単に倒せっていうんだ? 今までの事を思いだせ…。確か…。

 僕は思い出したくもないネズミの王の尻尾との戦いを思い出した。


「…はい! 時間ぎ…」

「わかった…。わかったぞ…。そういう事なのか…」

「…じゃあ、答え合わせといこうか?」

 僕は推理小説を朗読するように辺りを行き来しながら、答え合わせをした。僕は口元を押さえた手を離して、人差し指を一本立てた。

 まずは…最初の違和感だ…。

「僕はノスクの話を聞いたとき思ったんだ。何故、そんな恐ろしいモンスターを封印ではなく消滅させなかったのかと…」

 これはよくあるゲームの設定の一つだけど、当人になってみると案外わからないものだった。ただ…この設定こそが今回の件を紐解いていく重要な手がかりではある。

「…それで?」

「…実際、奴らをいくら斬ってもHPは減らなかった。普通に考えたら、こんな恐ろしい化物みたいな奴はどうやっても僕には倒せない。襲われてるときにノスクのご先祖さまが消滅させてくれれば…なんて事を思ってたよ」

「…それで?」

「そして、少しの間だけどそんな化物を倒そうとしてしまった。それが間違いだったんだ…」

「…なにを間違ったんだい?」

 僕は右手を降ろして答えた。目の前の見えない者に向かって…。

「そのままの意味だったんだ…。ノスクがいったあの言葉…。これはモンスターではなく呪いだと…。つまり、奴らは…HPではなくMPを使用して活動している魔法なんだ」

「ほう…」

 僕は相手の声で理解した。真実に近づいてると…。

「ノスクのご先祖さまもきっと消滅させようとしたんだ…。でも、できなかった…。だから、封印したんだ…」

 倒せないから封印した。そんなシンプルな事だったんだ。

「…じゃあ、そんな恐ろしい敵をどうやって封印できたんだろうねぇ?」

 僕はノスクの青い剣を思い出した。あの時、恐ろしい程に綺麗青く輝いたあの剣を…。

「ノスクの剣だ…。あの剣には恐らくMPドレインがエンチャントされている。だから、MPが一億もあったんだ。MPドレインで奴らを活動停止にして封印する…。…そういう事だろ?」

「せいかいー…。はははははっ…。でも、すごいね…。やればでき…」

 僕は怒って目の前にいるやつの話を遮った。

「まだ、終わってない! お前がいいたいのはこういう事だろ! 何故、あの時ノスクを見捨てて逃げなかったのかってな!」

 しばらく、沈黙した後に目の前の人物は答えた。

「……まぁ、そうだねぇ。猫一匹の命なんて大したことないしねぇ」

「ふざけるなよ! 死んだらどうするんだ!」

「おいおい…。そんなに怒るなよ…。喧嘩したいわけじゃないんだ。それにさ…君も心の奥底ではそう思ってないとは言い切れないんじゃないの?」

「どういう意味だ!」

「君の人生でそんな経験なかったかい? 猫一匹の命なんて…ね?」

 僕はそう言われ、ふと猫を見捨てたあの日を思いだした。

「そっ、それは…」

 仕方がない…。だってあれは…仕方がないじゃないか…。

「まあ、深くは聞かないよ。さっきもいったけど、君とは喧嘩したくないんだ。それにさ、君に伝えて置かなければいけない事がいくつかあるんだ」

「…なんなんだ?」

 僕が問いかけると、目の前の人物はふざけた冗談を言ってる感じではなく、真剣な声で話してきた。

「まず、猫の国から早くでたほうがいい。ここはもう気にするな」

「見捨てろ…って事か?」

「そうじゃない。そもそもこの国はそこまで問題じゃないんだ。あの剣は君の予想通り、ネズミの王に反応するだけじゃない…。いたるところで奴らが目覚めてそれに反応しているんだ。早くしないと取り返しがつかないことになるよ」

「…どういう意味だ?」

「事態はもっと深刻なんだ。猫の国が滅ぶならまだいい。そんなレベルの話じゃない。この世界が…いや、もしかしたら君の世界も滅びてしまうんだよ?」

「おっ、おい! ちょっ、ちょっとまて!? 僕の世界が滅ぶってどういう意味だ?」

 僕は驚いて声の方向に進んだが、不思議な事に通り過ぎて後ろの方から今度は声が聞こえた。

「…まぁ可能性の話だよ。君はさ…君の価値を知らないんだ。君がこの世界で死ねば最悪そうなる…。それにさ、君が死んだとき…神様が本当に君を生き返らせてくれると本気で思っているのかい?」

「なんだと…」

 僕はバランスを崩した体を起こそうとすると、キラキラと白い輝きが僕の足元から現れた。

「君はこの世界の異物であり中心なんだ。いいかい? それを忘れないようにね…。そろそろ時間だ…。…また会おう」

「おっ、おい! まだ話が終わってない…」

「おっと! そうだった! …ひとついい忘れてたよ」

「なっ、なにをだよ…」

 顔は見えなかったが、そいつは少し悔しそうな顔をしながら笑っているように見えた。

「…さっき、三十点だったっていったけど、あれは戦いのみの点数でね。君があの剣に認められたという事実…。これは点数をつけられないくらい予想外の事なんだ」

「…ノスクの剣のことか?」

「ああ…。俺の予想通りなら…。いや、俺も完璧にこの状況を理解できてるわけじゃない…。やっぱり、君は自分の思う通りにプレイするといい…。見ていて楽しいしね…。じゃあ、そういう事で…」

「おっ、おい! お前いったい…」

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