第85話

「…ステータス! 意識が奪えてなっ…。おっと! …ないぞ!」

「解析中…。意識のある者ではない為、発動できません」

 悪い予想通りだ…。HP0で動くなんて生物ではないのだろう。

「くそっ! ステータス! ドゥラスロールワン解除して、ドゥラスロールスリー発動だ!」

「了解しました。解除後に発動します」

 今度は床の影の文字がⅠからⅢに変化した。

「これで閉じ込められれば嬉しいんだが…。…ステータス! あいつがでてこれないような世界一めちゃくちゃ硬い檻を作って閉じ込めろ!」

「了解しました。発動します」

 僕が勢いよく離れると敵はジャボン玉のような膜に包まれ、大きなシャボン玉が急に割れたかと思うと一気に膜が硬質化した。

「うっ、動きがとまった…。はぁ…はぁ…はぁ…。たっ、助かった…。…ん? あっ、あれは…」

 よくみると自爆した魔物が入っていたダイヤのような鉱石によく似ていた。相当硬いのだろう。尻尾が球体の中でぐるぐる回っている。

「まあ…これでよかった。後は脱出…。なっ、なんだ!? …急に暗くなったぞ!? ほっ、炎が消えてる! それに風も…!? いや、リカバリーまで…」

 どういうことだ…? なっ、なんで消えたんだ…。 それに、いま…変な音しなかったか? ピキッて…。

「MPがたりません。速やかにチャージしてください。一分後に破壊されます」

「…はぁっ!? うっ、うそだろ!?」

 僕はステータスを確認すると、確かにMPが0になっていた。

「…おっ、おわった……」

 まさかここまでMP消費がでかいなんて…。もう…MPがない…。スネークイーターを解除するしかないのか……。…ん?

「まぶしい…。なんだ、あの青い光…。まっ、まさか、ノスクか!?」

 そんな事をおもっていると猫のシルエットが浮かびあがり、ランプを持ったノスクが現れた。

「アルー! だっ、大丈夫!? 助けにきたよ! どこー!」

 僕は急いでノスクの方に叫びながら駆け寄った。

「はぁ…はぁ…。…ノスク! 早く上に移動するんだー!」

「アッ、アル! よっ、よかったよぉおおー。ぐっすん…。みんな、心配したんだからね。でも、もう大丈夫…。僕がきたからには…」

「…はっ、早く時間がない! 上に戻ってくれ!」

「えっ、えっ? うっ、うん。じゃあ、僕に捕まってて…。いくよ…」

「…早く!」

 次の瞬間、先程の崩れた部屋の奥の通路についた。どうやら助かったみたいだ。


「どうしたの? アル、あんなに急いで?」

「はぁ…はぁ…はぁ…。いっ、いたんだ…」

「いたってなにが?」

 僕が次の言葉を言おうとすると猫達に抱きつかれた。

「アルの旦那ぁああああー。ぶっ、無事でよかったぁああー」

「アル様が急にいなくなって心配しましたぁああー」

「みんなも無事でよかった…。でも、いまは…。まっ、まずい! あっ、あの音が聞こえる!」

 穴が空いたところから、ザザザザザッとなにかが這うような気持ちの悪い音が聞こえ、だんだんと大きくなって近づいていた。

「…ねえ、アル? さっきの続きなんだけど下になにがいたの?」

「しっ、尻尾だ! みんな、はっ、早く離れろ!」

 数秒後、黒い噴水のようにうじゃうじゃと尻尾が吹き出し猫達は同時に悲鳴をあげた。

「にゃっ、にゃぁああああー!」

「にゃっ、にゃぁああああー!」

「にゃっ、にゃぁああああー!」

 僕は剣を抜き構えたが、どうやらあの部屋からはでられないようだ。不思議な力がでようとする尻尾を押し返している。

「はぁ…はぁ…。とっ、とりあえずは…大丈夫か…」

「アル、なんなの…。あっ、あれ…」

「いっただろ…。あっ、あれが…ネズミの王の尻尾だ…。絶対に近づくなよ…。HPを吸われる…」

 できる事なら今にも飛びだしてきそうな化物を閉じ込めたい…。…でも、今までなんで出てこれなかったんだ?

「なんで、動いてるの…。封印したんじゃ…」

「わからない…。…封印が弱まってたのか?」

「ごっ、ご先祖様もひどいにゃ! もっと、でれないように床を頑丈に作ればいいのに!」

「…床?」

「あの部屋のだよ!」

「……」

 まっ、まさか、あの床が封印する役割を果たしていたのか? それを僕が破壊してしまったから…。くそっ…。僕のせいじゃないか…。

「アッ、アル、どうしよう!? このままじゃ、まずいよ。あいつが、外にでたら、とんでもない事になる!」

「……」

 せめて、床が戻せれば…。…って、リカバリー使えばできるじゃないか! …いや、ダメだ。こいつらを押し戻さないとできない…。

「アル…」

「……」

 なら…あの方法しか…。痛いだろうな…。

「ねぇ、アル…」

「どうしたんだ、ノスク?」

 ノスクの方を見ると全身を震わせていた。

「巻き込んでごめんね…。みんなを連れて早く逃げて…。ぼっ、僕がやっつけるよ!」

 僕は突撃しようとしているノスクの手を引っ張った。

「…まっ、待ってくれ、ノスク! …作戦がある」

「…作戦?」

 作戦というにはあまりにもお粗末で作戦と呼べるものでは無いが、それしか僕には思い浮かばなかった。

「ああ…。ただ、ノスクが危険なことには変わらない。それでもやってくれるか?」

「…うん」

 

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