第44話

 奥の通路を渡り二階へあがるとホテルのような感じで沢山の部屋があり、更にしばらく歩いていくとアナスタシアと書かれている扉の前があった。

「ちょっとだけ待ってくれますか? 五分でいいので…」

「わかった。景色でも見て待ってるよ」

 外を見るとさっきの兵士達が訓練をしていた。…ん? あれは…シオンさんか?

 シオンさんは木刀を持ち兵士達に強烈な連撃を繰り広げてていた。

「うわっ、すごっ…。なんであんな動きができるんだ…」

 シオンさんは十メートル近くジャンプし水系魔法で連続攻撃していた。兵士達も負けておらず、各役割分担がうまくいっているようだった。

「気になりますか?」

「いや、まあ少しね。…って、終わったの?」

「はい。あの訓練は昨日の件で大臣がお怒りになりまして…。しばらく、地獄の特訓は続くと知り合いの兵士は嘆いていました」

「なるほどね…」

「…実際、シオン様とアル様がいなければとんでもないことになっていたでしょう。ですから、アル様のような回復術士を育てるという部隊も…。これは聞かなかったことにしてください。秘密事項ですので…」

「わかったよ。…さて、部屋に入ろう」

 中は綺麗に片付いていて小さな独身寮って感じの部屋だった。ふと、部屋の隅を見ると綺麗な花が生けてあり上品な感じがした。

「じゃあ、足見せて…」

「…はい」

 ベットに彼女が座ると、僕はすべすべの足を触りながらリカバリーを発動した。決してやましい気持ちはない。純粋に彼女を助けたいのだ。

「リッ、リカバリ〜…」

「…どうですか? もう少し裾をあげた方が見やすいですか?」

 …やはり目で見て確認しなければ治っているかわからない。仕方ないじゃないか…。…治療の為に仕方なくだ。

「…そっ、そうですね。すっ、少しあげてもらえますか?」

「…はい」

 僕はふと上を見ると色々なものが見えそうになりすぐに下を向いた。

 …なんだかとてもいやらしくないか。…これ以上はまずい! 自制するんだ!

「まだ、あげたほうがいいですか?」

「そっ…そっぅ…。そのくらいで…大丈夫です」

 決してそうですねと言いかけたわけではない。僕は紳士なのだから…。

 さて、そろそろ真面目にやろう。悪い箇所は…。…あれ? …特にはなさそうだな。

「…あの? どうですか?」

「特にないみたいですけど…」

「そうですか。他に悪いところはないですか?」

 他か…。うーん。もしかして、腰から痛みがきているのかもしれないな。…一応、背中の辺りを触らしてもらおう。

「…ちょっと後ろを向いてください」

「はい」

 僕はドキドキしながら、背中を触った。

 …すごくうなじが綺麗だ。…ってヤバいヤバい。…心を無にするんだ。…落ち着け、落ち着くんだ! …ん?

「…少し悪いかもしれません」

「えっ、うそ!? …ほんとに?」

 なんで驚いてるんだ? もしかして…。まぁいい…。先に治そう。

「腰に近い部分に少し軽めのヒビが入ったあとズレて治っています。古傷なのかもしれません。今から治します」

「んっ、うっ、気持ちいぃ…」

「よし、終わりです。歩いてみてください」

 僕はさっとリカバリーを終わらせて、立ち上がった。アナスタシアはベッドから降りて、辺りを歩き回った。

「あれ? 確かになんだか歩きやすい気がします。…ってあれ? …もう終わりですか?」

「終わりです。この魔法はマッサージじゃなくて危ない魔法なんです。…もしかして、気持ちいいからしてみたいとか思ってません?」

「…すいません。…ちょっとだけ思ってました」

 僕が腕を組むと、アナスタシアさんは舌をペロッと出して頭を下げた。

「まあ、実際悪いところがあったんでいいんですけどね…」

「うーん…。もしかしたら、子供のころに変な転げ方をしたのが残っていたのかもしれません。治してくれてありがとうございます。…では、そろそろ私も仕事があるので戻ろうと思います。アル様はどうしますか?」

「シオンさんに会ってきます。…今、行ったら邪魔ですかね?」

「そうですね。もう少し待っていた方がいいかもしれません」

 そんな話をしているとドアをノックする音が聞こえた。アナスタシアさんがドアを開けると目つきのきついメイドのおばさんが立っていた。

「メッ、メイド長!?」

「こんなところでなにをしているのですか? アナスタシア…」

「いえっ、あのっ、アル様をご案内していまして…」

「ほう…。…貴方の部屋をですか?」

「いえっ、その…」

 …僕が説明した方がいいだろう。

「すいません。城の中を探検してみたいとアナスタシアさんにいったら色々案内されてとても満足しました。ただ、疲れてしまって…。少し休みたいといったら、近くにアナスタシアさんの部屋があったので休ませてもらってたんです」

 僕がそう答えると、メイド長はアナスタシアさんに確認した。 

「…間違いないですか? アナスタシア?」

「はっ、はい。間違いありません」

「…では、私が引き継ぎます。貴方は仕事に戻りなさい」

「…はい」

 アナスタシアさんは残念そうな顔をしながら立ち上がり扉を開けて部屋をでていった。ふと、アナスタシアさんの方をみると扉が閉まる前にありがとうと声をださずに伝えてきた。

 …かわいいな。

「全く、あの子は…。では、アル様…。王様がおよびなのでついてきてもらえますか?」

「…王様が?」

「回復魔法について聞きたいそうです」

 まさか、王様も…。なんてな…。


 そのまさかだった…。王様に会うと寝室に連れて行かれ悪いところがないか見てほしいと頼まれた。

「あの特にないみたいです」

「一つもか…一つもないのか!?」

 凄く残念そうな顔をしていた。

「あの回復魔法は危険な魔法なのでマッサージ感覚で使うと、とんでもないことになる恐れがあります。…もしかして、気持ちいいからやってみたいとかそんな事はないですよね?」

「ああっ…! …そっ、そんなことはない」

 王様はかなり焦っていた。恐らく図星だろう。

「…では、部屋に戻りますね」

「待ってくれ! もう一つ話があるんだ。まあ、座ってくれ」

 

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