第43話

「…いや、なんでもない。…さてと、もう城からでてもいいんだよな?」

「えっ!? もうどっか行っちゃうの!?」

「まだ、もう少しいるよ。…あっ! そういえばアリス、ペンダントありがとう。凄く助かったよ」

 僕は首にかけていたペンダントを持ってアリスに見せた。

「どう致しまして…。気に入ってくれた?」

「ああ…。凄く綺麗で…いいペンダントだ…。でも、高かったんじゃないか?」

「いいのよ…。迷惑かけちゃったし…」

「ところで、ちょっと城の中散歩してきてもいいかな? こんな所初めてで…」

 僕はゲーマー魂に少し火がついていた。異世界のお城なんて、見とかないと絶対後悔するだろう。

「もうっ! まぁいいけど、あの時計が九時になったらご飯食べに行くからね!」

 アリスは外にある僕達が捕まった時計台を指差した。今は七時だ。

「オッケー。アリス、着替えるからあっち向いてて…」

「りょーかい」

 僕はさっと着替えた。

「よし、もういいよ」

「はやっ…。男の人っていいわよね。着替え早くて…。私、ドレス着るだけで一時間以上かかるのに…。はぁー…。私も自分の部屋に戻ろう…」

「エスコートしようか? お姫様?」

「いいわよ。あっ、そういえばシオンさんがあなたに会いたがってたわ。なにか用事があるみたいよ」

「シオンさんが? なんだろう……」

 ボディーガードの件かな…。それとも、アリスの件か…。うーん…。そういえば、牢屋でなにかいいかけてたな…。

 僕は顎のあたりを触りながら少し考えてみた。

「うーん…。わかんない…。なんか少し機嫌が悪そうだったけど…。気のせいかしらね…。じゃ、九時だからね! 忘れないでよ」

「わかってるって…」

 僕が返事をするとアリスは自分の部屋に帰っていった。


「さて、探検にいきますか…」

 まず僕は大きな階段を降りた。そこは、大きなフロアになっていて絵画が書かれた天井がとても煌びやかだった。

「…すごいなー。…ん?」

 周りにはメイドや執事が忙しそうに仕事をしていたが、こちらに気づき一人のメイドが僕に近づいてきた。

「あの? アル様ですか?」

「アル様? いや、まあアルだけど…」

「やっぱり、アル様!」

 僕がそう答えると他のメイドや執事もわさわさと集まってきた。

「どっ、どうしたの?」

「皆、あなたに治してもらって感謝しているのです。本当にありがとうございました」

「いや、いいって…」

 僕は右手を軽くあげてどこかに移動しようとすると、目を輝かせてメイドは進行方向に立った。

「ところでなにかご用でしょうか?」

「いや、お城内を少し散歩しようと思って…」

「そうですか…。それは危ないですね!」

 僕は予想外の答えに驚いて大きな声をだした。

「えっ!? 危ないの?」

「はい。私が案内致します」

 目の前のメイドがそう答えると他のエルフ達が騒ぎ立てた。

「ずるいぞ!」

「私だって案内したいのに!」

「公平に決めろー!」

「そうよ、そうよ!」

 …何故こんなに盛り上がっているのだろう。

「あの? どういうことですか?」

「皆、あなたを案内したくてたまらないのです。すいません。少しお待ち下さい…。三分で片を付けます」

 目の前のメイドが高く腕を上げるとジャンケン大会が始まった。しばらくすると勝者が決まったようだ。敗者達は悔しそうな顔をして仕事を始めだした。


「…で、君が勝ったの?」

 勝者は最初に近づいてきたメイドだった。

「はい!」

「じゃんけん強いんだね。…そういえば怪我したところは足だったよね? 大丈夫?」

 恐らく最初に治したエルフだ。珍しい紫っぽい長髪のエルフだったので印象に残っている。

「はい! 覚えてくれたんですね! アナスタシアと申します」

 …アナスタシアか。

「綺麗な名前だね」

 僕は好きなゲームのキャラクターを思い出していた。

「…綺麗だなんて。…案内ついでに少し私の部屋にきてもらえませんか?」

「君の部屋に?」

「私の足を見てもらいたいんです」

 そういえばフルスキルフルにする前だったし、なにか失敗したのかもしれない。

「わかったよ」

「本当ですか!?」

「ああ」

「では、案内します」


 まず一階に連れて行かれた。ここは、兵士達がニ階よりも多く立っていて、その内の一人が僕に気付くと走ってやってきた。

 …俺、悪いことしてないよな。

「アルさん。昨日はありがとう」

「ええっと…君は?」

 戸惑いながら問いかけると、彼は急に僕の手を握った。

「一緒に飛んだだろ?」

「…ああっ! 君か! 顔が見えないから誰かと思ったよ」

「今から訓練でね。…やべっ! もう始まるみたいだ。いかないと! 本当にありがとう!」

「どういたしまして」

 彼は走っていき隊列の最後尾に並ぶと、隊長らしき人物に頭を軽く殴られ鉄兜が一回転したので笑いそうになった。

「さて、次はどこを案内してくれるの?」

「次は貴賓室です」


 そこは見たこともない豪華な部屋で高そうな絵画や銅像が置かれていた。

「…すごい」

「国宝に指定されているものもあるんですよ」

「へぇ…」

 僕はそれらを見てみた。芸術なんてよくわからないが、すごそうな感じはした。

「では、次は少し遠いところになりますが、庭園をご案内致します」


 庭園につくと見たこともない木々が綺麗に並んでいた。中央には白いテーブルと椅子が並んでいる。

「お花見とか楽しそうだな」

「はい、ここは王家の方がそういった目的で利用されるのです」

「ほんと、さっきからすごいしかいえないな」

「次は、その少し寂しい所になるのですが、私の部屋です」

「いいよ。行こう。メイドさんの部屋見てみたい」

 …むしろ、一番興味がある。

 

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