麗しのエルフ王国編
第36話R
「…なあ、アリス。こっちであってるんだよな」
僕達はダイオンから飛び立ち北西に進んだ。かれこれ一時間くらいは飛んでいるだろう。小さな村はいくつか見えたが、まだ目的のエルフの王都までは距離がありそうだ。
「あってるよー」
「…っていうか、よくアリスここまで一人できたな」
「ほとんど馬車だしそこまで大変じゃなかったよ。あっ、髪が目に入って見えない」
「そうなのか。まぁ、それでも行動力はすごいよ」
「へへっ。そうかな〜」
褒めてるわけじゃくて驚いてるだけなんだけどな…。まぁ、いいか…。
アリスは照れながら、金色になびく髪を抑えた。僕は少し魔力を調整して、前方の風を打ち消すようにした。
「アリス、そろそろ結構飛んだし…一回休憩にするぞ」
「うん」
「シオンさん、降りますね」
「……」
…返事がない。聞こえなかったのか?
「シオンさん降りますよ」
「…ああ、かなり早いな。馬車並みの速さだ。少し休憩しよう」
…どうしたんだろう? あまり元気がないな。
シオンさんの事を少し心配しながら、僕はのどかな野原に降りた。なにかまずいことでもあったのだろうか。
「ああ、楽しかった…」
「全くアリスは元気だな。…ってシオンさん!?」
明らかに顔色がおかしく足がふらついていた。僕はよろけたシオンさんをアリスの手を離し受け止めた。
「すまない…」
「シオンさん。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。昨日の酒がまだ少し残っているみたいだ。…少し川の水でも飲んでくるよ」
「つれていこうか?」
「…大丈夫だ。…少し待っててくれ」
ふらつきながらシオンさんは小川に向かって歩いていった。一応、真っすぐは歩けているようだ。
「…大丈夫かな」
「…ねえねえ、アル?」
「なに?」
「…思いだしたんだけど、昨日…お金払うの忘れてたよね? …立て替えてくれたの?」
「いや…。結局、シオンさんが全部だしたんだよ」
「なっ、なんで払ってくれなかったのよ! 嫌われたらどうするのよ!」
アリスは僕の襟を両手でつかみ揺らしだした。流石にこのままだと僕も気持ち悪くなってくる。
「いっ、いや、はっ、払おうとしたんだけど払わなくていいって受け取ってくれなかったんだよ」
「なら…いいのかな…」
「あっ、それとお姫様ってのはバレてるみたいだぞ」
「えっ!? そうなの?」
「ああ」
「なにか…その…いってた?」
アリスが心配そうな顔をして僕に尋ねると、ちょうど小川から戻ってきたシオンさんがそのへんにあった石に座った。
「旅をするのも悪くはないが、皆を心配させるのはやめた方がいい。それは恥ずべき行為だ」
「…はい。すいません…」
「…まあ、君がお姫様なのは自分で選んだわけじゃないし、その点は同情するけどね」
アリスの方をみると、しょんぼりしてうつむいていた。きっと僕が同じ事を言ってもこうはならなかっただろう。
まぁ、アリスも悪いやつじゃないし、少しだけフォローしておくか…。
「…確かに不用心だけどさ。アリスだって頑張ってるんだし…。たまには休暇もあってもいいんじゃないのか?」
シオンさんは少し苦い顔をしながら頭を掻いた後、アリスに話しかけた。
「…そうだな。私も人に説教ができる立場ではなかった。…すまない。…いいすぎた。ただ、ボディーガードはつけた方がいい。もし、次に旅にでるときは私か彼か空いてる方をつければいい」
「本当ですか!? シオンさんがきてくれるんですか!? やったー!」
アリスはシオンさんにボディーガードをしてもらえると聞いて完全に浮かれていた。やっぱり、フォローしないほうがよかったのかしれない。
…ったく、アリスのやつ……。一応、僕もガツンといっておこう。
「…アリス、少しは反省してくれよ」
「りょうかいー」
アリスの方を見ると、浮かれすぎて僕の話をあまり聞いてないようだった。なにかもう一言くらいいってやろうかと思ったが、ただまあ…今回はやめておくことにした。
…でもまぁ、あんな遠い所まで一人で行くんだ。…平民の俺には分からない苦労もあるんだろうな。
「…というかいいんですか? シオンさんも忙しいんでしょ?」
「まぁ…これでもエルフの国に世話にはなってるからな。多少恩返ししても悪くはない。それに王族には顔を売っておいた方が後々動きやすいだろうしな」
「なるほど…。そういえば体調は大丈夫なんですか?」
「…ああ。大分楽にはなったんだがまだ少し悪いみたいだ。回復にはもう少しかかりそうだ」
…そうか。まだ、回復できていないのか。…回復?
「…シオンさん、回復魔法かけてみようか? 気分悪いくらいなら失敗しても副作用はそこまでないと思う」
怪我もないし、おそらくリカバリーワンだろう。
「君はそんなことまでできるのか? …まあいい。試しにかけてみてくれ」
「わかりました」
…ん? …でも、どうやって発動するんだ? 確か自分を一つの魔法と思えとかいってたな。…あれ…そういえば…発動したことあったような……。
「どうした?」
「ああ、すいません。気分悪いところ触らしてもらっていいですか?」
感覚的だが、その方が成功率があがる気がする。
「胸と胃が悪いんだが…」
「わかりました。背中を触りますね。後ろ向いてください」
苦しそうにシオンさんは後ろを向くと、アリスが少し心配そうに近寄ってきた。
「ねえねえ。なにしてるの?」
「アリスか…。ちょっと難しい魔法使うから静かにしててくれ。…あと、大丈夫だと思うけど、一応少し離れててくれないか?」
「りょうかい!」
アリスが離れた事を確認すると、僕は意識を集中し魔法を発動した。すると、金色の光の粒子が僕とシオンさんを包みこんでいった。
「リカバリー!」
…なるほど、こういうことか。回復魔法はイメージ的にジグソーパズルに近い。悪いところを良くして元の状態に戻していく。…そんな魔法だ。
「…うっ!」
回復魔法をかけているとシオンさんは突然、足が崩れ落ち地面に座りこんでしまった。まさか、失敗したのか!?
「ごっ、ごめん! 痛かった?」
「いっ、いや…。とても気持ちいい…」
…とても気持ちいい? まあ、痛いよりは全然いいか…。
「もう少しだから…」
「もっと…。もっと、長くても大丈夫だ…」
………よし、終わった気がするな。…ん? …長くても?
僕は回復魔法の発動を止めてシオンさんの状態を確認しようとしたが、今の言葉に引っ掛かった。
「…え?」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「えっと…大丈夫ですか? 気分よくなりました?」
「…すごい…すごいよ! 不快感が全て消えたよ。ありがとう」
「よかった。成功して…」
「ああ…。ほんと…癖になりそうだ…」
シオンさんは恍惚の表情を浮かべていた。一応、成功ということでいいのだろうか。僕は妙な副作用にただただ困惑していた。
「…へー……」
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