第35話R

「では、僕達はこれで…」

「…ちなみにお次はどこにいくんですか?」

「次は王都です」

「そうですか…。王都にいくのであれば黒猫亭というのを探してください。私の兄さんがやってるのですが、その鈴を見せれば安くしてくれると思いますよ」

「わかりました。機会があればよらせてもらいます。それじゃ…」

「猫さん、じゃあねー」

「お気をつけて」

 アリスは宿屋の扉からでると、元気ハツラツとした顔でこっちを向き、大きな声をだしながら右手をあげた。


「さて、しゅっぱぁっつ! ほら、アルも!!」

「…しゅっぱーつ……」

 昨日の夜あんなんだったのに…。朝っぱらから元気だな。

 僕達は集合場所である街の外の大きな木がある場所に向かった。軋んだ音のする扉をくぐると、確かにこの辺で生えている木の二倍から三倍程度だろう。大きな木の下に人が立っている姿が見えた。シオンさんはすでに待っているようだ。早く行くべきだけど…その前に……アリスにいわなければならないことがある。



「なあ、アリス…」

「なに?」

「…ごめんな……」

「えっ? なっ、なにが!?」

「…詳細は…今度…やんわりと教えるけど先に謝っておくよ。その時に殴っていいからな…。…ごめんな」

 僕は一応、昨日の見てはいけないものを見てしまった件について謝った。アリスはなんのことか、当然わからないので気味悪がっていたが…。

「だからなにがよ! 恐いんだけど…」

「まあ…その話は……おいおい……。……ところで話は変わるんだけど、アリスって何歳なんだ?」

「やっ、藪から棒ね…。…十六歳だよ」

「千十六歳とかではなくて?」

「なによ…その化物…。普通死んでるでしょ」

「そうなのか? エルフって長寿なイメージがあったんだけど…」

 あくまでゲームのイメージでいえば、僕は閉鎖的な長寿の美形集団ってものを想像していた。どうも美形ってところ以外は違うようだ。

「まぁ、スッゴい大昔の伝説上のエルフはそんなに生きたってこともあるらしいけど…。…今は本当に長生きして、百ニ十才くらいじゃない?」

「なんだ…。人間より少し長生きするくらいなんだな」

 アリスのほうを見ると少し耳が赤くなっていた。特に変な事をいったつもりはないんだけど…。

「まぁ、進化というか退化というかは微妙なとこなんだけどね。その…なんていうかな。種族を残す為に、長寿はなくなったといわれてるわね。…私も詳しくはしらないわよ!」

「…別に長寿は関係なくないか?」

「……うーん。昔話を信じるなら…昔のエルフって植物に近い感じだったのかもね…」

「…昔話?」

「…こんな昔話かあるの……。えっと…昔…昔…あるところに……。……忘れちゃった……」

「おっ、おい…」

 僕はガクンと肩を落とすと、アリスは舌をペロッと出して笑っていた。話が始まってもいないところから忘れているアリスの記憶力は大丈夫なのだろうか…。僕が心配そうな目をして見つめていると、アリスは勘づいて声を上げた。

「結構…難しい話なのよ! 設定とかすごい複雑で…」

「…アリス…今日の朝ご飯覚えてる?」

「…えっ、えっと………。……ベーコンエッグ……みたいにされたいの?」

「…じょっ、冗談だよ……。ちょっと…疲れてるか心配したんだよ」

「ふーん…余計なお世話よ…もう…! それに……最後はちゃんと覚えてるわ…」

「…なんで最後だけ?」

「…昔…いうこと聞かないときに聞かされたのよ」

「…効果は限定的だったみたいだな」

「そうね…。試してみる…?」

「いっ、いや、話の続きを…」

 アリスが魔法を放とうとしたので、僕は両手を真横に振った。アリスは大きなため息をつき、歩き出した。

「はぁ…。……こうして…世界は救われ、呪われたお姫様は永久の時をたった一人で生きることとなりました。めでたし…めでたし…」

「…どこが…めでたしめでたしなんだよ。…お姫様が、可哀想じゃないか……」

「…お姫様は悪いエルフだったのよ……。世界を混沌に沈めようとした悪い悪いね…」

「……混沌に…」

「……変なこといったら、わかるわよね」

「わっ、わかってるよ…」

「わかればよろしい…」

 僕はふと辺りを過ぎ去って行く人達を見た。エルフだけじゃない。…エルフ…コビット…ドラゴン…それに…大きな猫……。よくわからないけど、他にもいろんな種族が歩いている。

「…でもさ…エルフの国って閉鎖大国って…感じだったんだけど、予想外だな」

「そうね。元々はそういう国だったって聞いてるわ。でも、大昔に戦争が各地で起きて小さな国はどんどん滅ぼされていったの…」

「なるほど…」

「それでその時のエルフの王様はこの辺りの小国の全てと同盟を結んだの。一国でもおそわれたら全員で戦うぞって…。それが今も残っているから大国として残っているのよ」

「なかなかいい話だな」

「そこはね…」

「なるほど。猫とかコビットとかドラゴンとか色んな種族がいるわけがわかったよ。…ってことは猫の国やコビットの国もあるのか?」

「小さな国だけど、どこかにあると思うわ。それと…ドラゴンに限っていえば同盟を結んだのは最近ね」

「そうなのか?」

「ええ。ドラゴン強いし…そもそも戦力的には結ぶ必要ないでしょ。必要なのは物資よ。食べ物とかね。まあ、魔族よけにはなるしその点は助かるけど…」

「平和そうに見えるけど難しいんだな…」

「ええ、この前いったけどエルフの国は基本的に来るもの拒まず、去るもの追わずなの…。魔族のせいで各地で戦争が起きれば厄介な移民達が増えていずれこの国がパンクするわ」

「そうだよな…」

 確かに僕の世界でもそんなニュースが流れていた。正直いうとニュースを見ても自分には関係のない話だと思ってなんにも思わなかったけど、まさか異世界で当事者になるとは思わなかったな。移民というか異民だけど…。

「…べっ、別に貴方のこと悪くいってるわけじゃないからね!? 貴方みたいにいい人は別にどんどん入ってきてもらった方がむしろ助かるわ」

「そういってもらえたら嬉しいよ」

「でも、平和を維持する事で皆が幸せならその方がいいじゃない。…私は少なくともそう思うわ」

「凄く感動した。…でも、家出中のお姫様のセリフじゃないよな」

 僕が少し笑いながらいうとアリスもつられて笑っていた。でも…まあ…この年でそんな事を考えているなんて…アリスは僕が思っているよりずっと大人なのかもしれないな。

「最後のセリフは余計ね」

「そうだな…。…お姫様もたまには休日ほしいよな」

「その通り!」

 そんな話をしながら街の門をでると、大きな木が見えた。、確かにこの辺で生えている木の二倍から三倍程度の大きな木だ。よく見ると、大きな木の下に人が立っている姿が見えた。シオンさんはすでに待っているようだ。



「…すいません。遅れました?」

「ちょうど私もきたところだ…。…さて、どうやって飛ぶんだ?」

「シッ、シオンさんもイルンデスネ!?」

 こいつ、また緊張してるな…。

「ああ、王国に用事があるからついでに連れていってもらおうと思ってね」

「おーい、アリス…。悪いけど魔石に魔力をためてくれないか?」

「りょっ、りょうかいっ」 

 僕は小さな青色の魔石を渡した後、思いっきりジャンプをするとふわふわと浮かび上がった。シオンさんは本当に驚いていたようだった。

「まさか、本当に飛んでいるなんて…」

「アル、チャージできたよ」

 魔石を持ったままアリスが僕の手を握るとふわふわ浮かびだし、僕は口を開けているシオンさんに声をかけて、そっと手を伸ばした。

「さぁ、シオンさんも俺の手を握って…」

「こっ、こうか?」

 シオンさんも僕の手を握るとフワフワと浮かびあがった。最初はほんの少し、震えているようだったが、すぐに慣れたようだ。

「…どうですか?」

「信じられないよ。…ただ、少し怖いな。きっ、気をつけて飛んでくれ」

「わかりました。じゃあ、出発します」

 そうして…僕達三人はエルフの王都アルフヘイムへ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る