第15話R

 僕の余計な一言で皆が立ち上がって、教会にいる人達が僕に向かって祈りだした。僕は咄嗟に上着で顔を隠して、背を低くした。こんなところで冷静にツッコミを入れてる場合じゃないのは確かだ。

 …まずい。…流石にこれは目立つな……。

「神様…。このピカピカしてるやつ…見えなくならないのか?」

「…あれ? イメージ通りに作ったんですが、違いました?」

「違うし、これじゃ目立つ…。…っていうか、普通…魔法で見えなくするとかあるだろ!」

「…注文が多いですね。…では、見えないところに移動させておきましょう」

 神様が呪文を唱えると光の輪がすーっと体内に吸い込まれていった。

 …これなら大丈夫か……。…でも、どこに消えたんだ? ……まぁ…疲れたし…今日は帰るか…。

「じゃ、神様…またわからないことがあったらくるよ」

「はい。よろしくお願いします」

「よしっ…。急いで帰るか…」

「君は…!? 今のは一体…。まっ、まちなさい!」

「…すっ、すいません! 用事があるんで帰ります!」

 教会から出ようとすると司祭に止められそうになったが、一目散に逃げ出した。コソコソと逃げて、なんだか悪い事をしているような気分になったが、これ以上顔を売るのは流石にまずい。

それに崇められても困るからな…。




「ふぅ…。ここまでくれば、大丈夫か…」

 僕は走るのをやめて、プラプラと歩きだした。辺りはだいぶ暗くなり、兵士達が灯りを手に持ち辺りを警戒していたが、よく見ると僕みたいに出歩く人もチラホラいるようだ。

「さて…どうしようかな…」

 何か情報でも掴めればいいかなと思って、教会に行ったのは正解だった。少なくとも神様と連絡はつく。役に立つかは微妙だが…。

「はぁ…」

 問題はまだ山積みだ。始まりの街から始められないのだ。最悪、ここで魔王まで倒す必要がある。

 まっ…様子見するしかないよな…。全く…先が見えない…。

「…よしっ、帰るか!」




「アリス、ただいまー」

 僕が駆け足で宿まで帰り部屋に入ると、アリスはベッドで寝転がりくつろいでいた。

 全く…のんきな奴だな…。

「おかえりー。勇者様だった?」

「勇者というより…。いや、なんでもない…。一応、聞いておきたいんだけどさ…。危険だから、しばらく魔物がいなくなるまでここから離れるつもりはないんだけどそれでいいかな?」

「私は別にいいけど、あなたはいいの?」

「ああ、俺はいい…」

「あと…できたらでいいんだけど、実はかなり僻地から来たから、今の世の中が全然わかんないだよ。だからさ…アリス先生…。…世界情勢ってやつ教えてもらえないかな?」

 僕は両手を合わせて頭を下げた。アリスは以外にも乗り気な反応で、ベッドから起き上がり、足をプラプラさせていた。

「アリス先生か…。うーん…まあいいでしょう! アリス先生に任せなさい! …で? なにが知りたいの?」

「そうだな…。まず、今の世の中について、あとは種族や国ごとの対立ってどんな感じなんだ?」 

 さっきからここまで来るだけでも色んな種族を見たが、ゲームによっては仲間だったり敵だったりするような外見ばかりのやつだ。絡まれたりしたら逃げる自身はあるし、戦っても勝てそうな気はするけど、国際問題とかになると面倒くさい。

「うーん。まぁ、基本的には仲がいい国はないかもね…。色んな国があるけど、ある程度の力を持った国は五つあるわ。まず、ここエルフの国…。ここはそうね…。来る者拒まず去る者追わずってかんじで本当に当たり障りのない…。つまらない国ね…」

「自分の国なのになかなかひどいこというな…」

「ええ、流石に魔族は拒むけど、基本的に来る者拒まずってことは盗まれ放題ってことよ。まあ、攻撃的な戦争には参加しないって表明してるのは個人的には評価できるけどね。攻撃力、守備力はあるけど使わないって国ね」

「なんか…日本みたいだな…」

「…日本?」

「ああ、ごめん。なんでもない…。次の国は?」

「次はドワーフの国。技術大国って感じね。ここは来るもの去るもの両方拒むわね。まあ、許可制でいけるのはいけるんだけど…。基本的には閉鎖大国って感じ。攻撃力、守備力は未知数。ただやられたら絶対に許さんぞって国ね」

 今度は昔の日本みたいだな…。

 どうやらクセのある国らしいが、他の国と比べると比較的に話が通じるようだ。産業が盛んな国で僕が見た帰り道にみた灯りもドワーフの国から買っているみたいだ。

「…なるほど。三つ目は?」

「三つ目は一応神族の国ね。まあ、ここは元々神族がおさめてたんだけど、今は傀儡って感じらしわね。住んでる人も操り人形って感じなのかしら…。……ごっ、ごめん、気に障った?」

「いや、そこには関わりないから別になんとも思わないよ。…でも、神族は滅びたのに力はあるのか?」

「まあ、力があるってよりは持たせてるって感じね。ようは力がある国が多数決をとるときに使いやすいようにってこと…」

 …多数決の意味って…なんなんだろうな……。

 この国は噂話程度にしか情報が入ってこないそうだ。昔は景色が綺麗で文化的に重要なものもあったらしいが、大半が戦争でなくなってしまったようだ。知り合いの考古学者が泣いていたらしい。

「なるほど…。四つ目は?」

「四つ目は魔族の国ね。ここは攻撃的な国ね。小国をどんどん吸収してるわ。攻撃力、守備力も共に高くてはっきりいって扱い辛い国…。絶対に行きたくないわ…」

「なるほどね……。そういえばさ…話は変わるんだけど、魔王が狙ってる君って何者なの?」

 それは最初から疑問に思っていたことだった。落ち着いたら後から聞こうとは思っていたけれど、この際聞いておこう…。

「そっ、それは…。……うーん…。実はここエルフの国のお姫様って感じ…かな…」

「ふーん…」

 なんだ…。やっぱり、予想通りか…。

「ふーんって、それだけ!?」

「まあ、大体そんな感じかなと予想はしてたから…。ボディーガードがいないところを見ると家出したけど、やっぱり辛いからそろそろ帰ろうかなって感じか?」

「いや…その…」

「…しかも、誰も探しにこないところを見ると…何度もやって諦められてるんだろ?」

「ぐっ…。そう…そうよ…。あなた見かけによらず鋭いわね…。でも、私がお姫様って知って全然態度変えないのね?」

「…えっ? ああ、すみません…。姫様、変えた方が宜しいでしょうか?」

 僕はなれない言葉を使ってみたが、かなりぎこちない。でも、流石に王族にタメ口はまずいだろう。

「…やめてよ。普通に話して…。お願い…」

「……じゃ、アリス、五つ目教えて!」

 まぁ…本人が許可すれば別だ。

「そうそう! そうでなきゃ! 五つ目は竜族の国ね。ここは魔族より話がわかるわ。でも、話のわからないドラゴンもかなりいて…。扱い辛さでいえば魔族と同じくらいかもね。攻撃力、守備力共に高いわ」 

 この国は魔族と同じくらい危険のようだが、エルフの国の住人は渡航可能なようだ。でも、聞いた話によると、けして踏み入ってはいけない箇所があるらしい。…理由は教えてくれなかったそうだ。

「なるほどな…。なんとなくわかったよ…。ちなみに生活水準ってどんな感じなの? ここと大差ない?」

「そこまで変わらないと思うけど、そんなの私も知らないわよ。いつかいろんな国にいってみたいんだけどね…。あっ、魔族の国以外ね」

 なるほど、なんとなくこの世界がわかってきた。さて、次の質問の答えは期待できないが、一応聞いておこう…。

「なんかさ…。世界で困ってることとかないかな?」

「…世界で困ってること?」

 アリスはポカンと不思議そうな顔をした。まあ、自分自身でも変な質問だと思う。

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