第13話R

「…今はいないのか?」

「内乱が起きてその隙に魔族と竜族にやられちまったのさ。そういえば…確か今日が生誕祭だったような気がするね…」

「…生誕祭って?」

「…神様のだよ。…後で教会にいってみるといい。神の加護がある勇者なら、なにか聞こえるかも知れないよ…。ははっ…なんてね……」

「……」

 …神の加護か……。

「さて、私は寝るから後はよろしくね…。あんまり遅く帰るんじゃないよ」

 白猫は眠たそうな顔をしながらカウンターの上にある丸い鍋に入った。見た目からは寝心地の悪そうな硬い鍋に見えるが、すやすやとよく寝ている。

「そういえば、アリス…。シルフィーってエルフ知ってるか? 部屋にいたエルフの幽霊の名前なんだけど…」

「シルフィー? うーん…。どっかで聞いたことあるような気もするような…しないような…。よくわかんない…。まぁ、ここにいたら邪魔だし、部屋にいきましょう」

「そうだな…」


 僕達は階段をあがり、二階の部屋に入った。部屋に入ると、アーデルの姿はどこにもなかった。僕は焦りながらクローゼットや閉まりの悪いタンスを開けて探してみたが、この部屋にはもういないようだ。

「……まずい…」

 四天王の一人を逃がしてしまった……。早く捕まえないと……。でも…あの姿だし…この村からしばらく出れないか…?

「…なにしてるの?」

「……いないんだ」

「……いないって誰が?」

「…女の人だよ。さっき、二階につれて上がっただろ…?」

「……なにいってるの? 一人で上がってたわよ……」

「……一人? そんなわけ…」

 アリスの言葉に疑問を抱いていたが、それと同時に妙な記憶が浮かび上がった。確かにアリスのいう通り、一人で階段を上った記憶がある。デジャブみたいな感覚だ……。でも…確かにアーデルを二階に連れていった記憶もある。でも、アーデルは倒したはず……。いや…助けた? …おかしい。記憶が混濁してる。…頭でも打ったのかな。


「…どうしたの?」

「……ごめん、疲れてるみたいだ。……そういえば、教会ってどこにあるんだ?」

「…まさか、さっきの白猫さんの話…本気で信じたの?」

 全く誰のおかげで幽霊が成仏出来たと思ってるんだ…。少し、脅かしてやるか…。

 アリスはニヤニヤしながら半笑いで僕を見ていた。とりあえず、仕返ししとこうと思う。

「…アッ、アリスの横に! べっ、別の幽霊が!?」

「どっ、どこどこどこ!?」

 震えながらアリスは僕に抱きつきキョロキョロと部屋のあちこちをみていた。あまりにも必死に探している姿に吹き出しそうになった。

「まぁ、嘘なんだけどね…」

 ニヤニヤしながらアリスの泣きそうな顔を見ると、アリスは僕の目の前で握り拳を作っていた。なんか妙な魔力が漂っている。

「…殴っていい? 本気で…思いっきり?」

 ……謝ろう。

「ごっ、ごめん。やりすぎた…。…でも、たのむよ。教会の場所…教えてくれないか? 少し気になることがあるんだ」

「…わかってるわよ。…生誕祭の出店ね! でも、残念…。今年は夜は中止よ…。まぁ…お昼に買ったやつちょっとぐらいなら分けて…」

「……いや、幽霊のことでね…」

「ああ、そっちね!? わかってるわよ! 冗談よ、冗談…。…っていうか、この部屋…もう大丈夫なのよね?」

「ああ、バッチリ成仏したよ。それに同じエルフで勇者の仲間の幽霊だ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「……同じエルフって点がむしろ怖いんだけど…」

 …まぁたしかに……。僕も人間の幽霊の方が何倍も怖い…。

「でも、悪いやつじゃなかったしさ。仮にいてもその椅子に座るくらいで悪さはしてこないさ」

「…そっ、そうね。教会なら街の入口にあったと思うわ」

「ありがとう。ちょっといってくる」

「いってらっしゃい。…なっ、なるべく早く帰ってきてね」

 僕は宿屋をでて古びた教会を探した。少し空は暗くなっていたが、ライトアップされて明るい。

「教会どこだろう…。…っていうか兵士やたら多いな。…もしかして、なにかあったのか?」

 教会へ行く途中、周りには武器を持った兵士が至るところに立っていて相当警戒しているようだった。僕は村の異変に気付き、その内の一人に声をかけた。

「すいません。なにかあったんですか?」 

「ああ…。魔物が出たんだ…」

「…魔物ですか……」

「……恐ろしい黒騎士の魔物がでたらしい…。今のところ、実害はないが村中の兵士をかき集めて捜索中なんだ。楽しみにしてた生誕祭の出店は早く閉まるし…。休みは消えるし…。ほんと悲しいよ。…今夜は長くなりそうだ……」

「…そっ、そうなんですね」

「ああ…。では、私はこれで…。なるべく、早く帰えるんだよ。俺も早く帰りたい……」

 …すみません。…本当に…すみません!

 僕は虚ろになった兵士の表情を見ると、心から反省した。僕は深くお辞儀をしたあと、逃げるように駆け足で教会に向かった。



「ここが教会か…」

 中に入るとまさにイメージ通りの教会といった感じで木の長椅子に、窓には綺麗な色のステンドグラスがつけられ室内にうっすらと光が差し込んでいた。そして、教会の奥にはどこかで見たことのあるような小学生のような子供の銅像が立っていた。

「…ん? なんでこんなところに神様の銅像が…」

 …今、自分で答えをいったじゃないか……。そういえばこいつ神様だったな…。神様感がないから完全に忘れてた。

「こっらああああああ!!」

「うおっ!」

 僕は急に怒鳴り声をあげた声の主を探したが、それらしい人物はいなかった。というか、むしろ僕の驚いた声で周りの人に変な目で見られている。

 …なんだ今の声は? …みんな聞こえてないのか?

「あのー…。今、変な声聞こえませんでした?」

 僕は長椅子に座っているおばさんに尋ねると、目を細めて不快そうな表情をしていた。

「しいていうならあんたから聞こえたよ。教会じゃ静かにね」

「すっ、すいません」

「おい! 聞いてんのか…ごらあああ!」

 …また聞こえる。それにこの声は神様?

 僕は周りに誰も座っていない箇所まで移動して木の長椅子に座り小声で話した。

「聞こえてます。神様…」

「私は過去一番怒っています! 貴方のせいで未来が完全に消えてしまったじゃないですか! なにしたんですか!」

「ちょっと待ってくれ。実は…」

 僕は今までの経緯をコソコソと辺りを確認しながら話した。まるで仕事中に私用電話をするみたいだ。


「…なんなんですか!? その恐ろしい裏スキルは!」

「そんなのこっちが聞きたい! 序盤から四天王との二人とのバトルっておかしいだろ!? そもそも漠然としすぎてゴール全然見えないぞ! 魔王倒せばいいのか!?」

 若干、声が大きくなってしまった…。周りの視線が痛い…。

「本当に私にもわかりません…。ただ、滅びの未来も見えなくなってしまいました。あなたの話を聞いてみると…バリアブルブックに逆らったことで正解でもなく不正解でもなく、不確定で不安定な未来になったのかもしれません」

「面倒なことになりそうだな…。…なあ、なんで俺を選んだんだ? ただの偶然なのか?」

「…あなたが少し似ていたんです。かつて大昔に世界を救った勇者の魂に…」

「…俺が勇者に?」

「はい…。あっ、顔は全然似てないですよ。勇者様は私が過ちを犯しそうなくらいイケメンでしたから…」

 なんだその…俺はイケメンではないみたいな…。悔しいから否定しないが…。

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