第12話R

「…おーい。アリスー」

 村の入口でアリスはキョロキョロと辺りを見渡していて、僕が空から声をかけると少し怒ったような口調で話しかけてきた。

「一体、どこいってたのよ! 魔物に襲われたんじゃないかと思って心配してたのよ!」

「ごっ、ごめん…。もう終わったよ…」

「…無事でよかったわ。私もびっくりしたんだけど、昨日…村の中に黒い鎧を着けた魔物がでたんだから…」

「そっ、そうなのかー。…昨日? …今日じゃなくて?」

 僕は聞き間違いかと思い、スッと着地するとアリスは近寄ってきた。

「…昨日よ。まぁ、すぐに逃げたんだし、弱い魔物なんだろうけどね…。それよりも私…あの宿に一人で……!」

「悪かったよ…。…ん? …どうした?」

「ねぇ…背中の人だれ…?」

「あぁ…彼女…怪我してるんだ…」

 怪我と言っても空を飛んでいる最中に少しずつ消えていってる。もうかすり傷程度だ。

「怪我…? …ほんとだ。…まさか魔物に!?」

「まっ、まぁ…そんなとこだよ…。それよりも早く宿に泊ろう。彼女の事も心配だけど、もしかすると、まだ、凶暴な魔物がうろついているかもしれない」

「そっ、そうね。でも、あの部屋はいやよ」

「あっ、当たり前だ。別の宿屋にいこう」

 僕達は他の宿を一生懸命に探したが、皆も僕達と同じ考えのようで、どこも宿屋は満室で空いていなかった。しぶしぶ、あの宿に戻ると空いてる部屋は例のあの一部屋しかなかった。


「それで…どうするんだい? 泊まるの?」

 白猫は眠そうな目をしながら、だるそうに起き上がった。

 ぐっ…。しっ、仕方ないか…。

「…わっ、わかった……。泊まる…」

 アリスは涙目になりながら、僕の左手をつかみ大きく揺さぶった。

「いやあああ! いやよ!! ここに泊まるくらいなら別のとこに泊まる!!!」

「どっ、どこも宿屋あいてないだろ! それに彼女のこともあるし…これ以上は…。ゆっ、幽霊は俺がなんとかしてやるから、ゆっ、ゆらすな!」

「ほっ、本当に?」

「ほんとかい?」

 僕は大きなため息をついた。完全に幸せは逃げただろう。

「はぁ…。気は進まないけど、やってみるよ。危ないから絶対に入らないでくれ…」

「その人は連れて行くの?」

「……まぁ…その…。そこまでは怪我も酷くないし…。早くベッドに寝かせてあげたいだろ?」

 流石に目覚めたら危ないよな…。これでも…四天王だし…。

「お嬢ちゃん、しばらく私の部屋に入ってな…」

「うん…」

 アリスが白猫の部屋に入ると、白猫は近づいてきてゲスな笑みを浮かべた。

「かわいい子だね…。でも…犯罪だけはやめておくれよ…」

「…あのなぁ……」

「お嬢ちゃんには、黙っておくから…。さあ、坊や…よろしくたのむよ…」

「……なんか釈然としないけど…。わかったよ…。はぁー…」

 僕はアリスを一階に残して、あの部屋に入り鍵をかけた。僕は彼女をベッドに寝かしつけると、肩を回しながらソファーに座った。


「これでよしっと…」

 …いや、全然よくないな……。全くイベントやらないなんていったのはどこのどいつだ。

 僕は自分に怒りながら、ステータスを確認した。マリシアウルネクスト…こいつは点滅していない。ということはしばらく大丈夫だろう。

「よっと…」

 僕はスネークイーターズを解除して、魔物の姿になりプレイデッドを発動した。時間は次回解除までにしてある。

「……」

 仮死状態になったみたいだな…。おっと、いたな……。…あの幽霊だ。

 椅子の方を見るとあの黒髪の幽霊が座っていた。僕はあの恐ろしい顔を露わにして話しかけた。

「おい! ここにいると迷惑なんだ! でてってくれ!」

 幽霊はゆっくりと振り返ると、怒った様子で髪を逆立てた。だが、今の僕には流石の幽霊も勝てないようだ。

「迷惑って私がなにしたのよ! …って、ぎやああああああ!!! ばけものぉおおお!!!」

「おい! 聞いてるのか?」

「たっ、たべないでええ!」

 少し怖がらせすぎたか…。

 幽霊は飛び回った後、部屋の角で怯えて丸まっていた。幽霊を驚かすとは一体どんな顔なんだろう。僕は冷静になって話をしてもらう為、顔を鎧で覆った。

「たっ、たべないから…。でも、なんで成仏しないんだ?」

「…成仏? なにいってるの…。私が死んでるみたいに?」

「死んでるんだよ!」

 僕は理解してもらう為、目の前にいる幽霊の体へ手を伸ばしてみた。水の中に手を入れてるような感触だ。

「えっ!? ええっ!? 通り抜けてる!? まっ、まさか? 私…死んでるの?」

「ああ…」

「…じゃあ、貴方は死神なの?」

「いや、違う。まぁ、役割としては同じかもしれないけど…。成仏させにきたというか…。ところで、なんでここにいるんだ?」

「私は…。そう…思いだしてきたわ…。貴方に似た黒騎士に殺されたの…。そして、奴の弱点を誰かに伝えたくて…」

 もしも彼女に肉体があれば涙を流していたのだろう。そんな悲しそうな顔だった。

「…剣が本体で雷が弱点なんだろう?」

「…なぜそれを?」

「俺が倒したから…。倒したからこんな姿になってるんだ」

「…恐ろしい呪いね」

「いや、これは自分のせいだ。まぁともかく君の未練である黒騎士は俺が倒したから安心して成仏しなよ。こんなとこにいつまでいても面白くないだろう?」

「そうね…。ありがとう、化物さん…」

 僕は化物さんと呼ばれガクンと肩を右肩を落とすと、彼女は口を覆いながら笑っていた。

「ばっ、化物さんはやめろ。名前はアルだ」

「ふふっ…ありがとう、アル……。もし、エルフの王都にいくことがあったら祭壇の横の石像に隠し通路があるの…。そこには宝具が多分…。いえ、きっとあるからよかったら使ってちょうだい…」

「おい、もしかして、あんたもエルフなのか!? 名前は?」

「名前はシルフィー…。よかったら覚えておいて…」

 彼女は微笑んだあとスッと消えてしまった。僕はなんとも言えない気分で立っていた。

 …なんか可哀想な子だったな……。まぁ、黒騎士は僕が倒して未練もなくなったし、これで成仏してくれるといいな…。


「…よし、元に戻るか」

 解除して、ドクターペインでスネークイーターズを作成っと……。

「…ん? ……変な音がまだ聞こえる。何だこの音…」

 まさか、まだ幽霊が……。

「…って、なにしてんだあの女…!?」

 ベッドに寝ていたはずの彼女は、ソファーに寝ていた僕の鎧をボコスカ殴っている。というか、驚くのはそれだけではない。角も羽も生えて元の姿に戻っている。

「…貴様ぁあ!!」

「…何で元の姿に……。まさか…。…まっ、まずい! 早く戻んないと!!」

 僕は急いで元の姿に戻ると、彼女のか細い腕を掴んだ。完全には回復していない彼女はそれ以上腕を動かす気力もなく、それ以上は何もすることなく腕を降ろした。

「…私の体になにをした!?」

「…ステータス……! …おっ、おい、声が大きいって! 何もしてないから…」

「だったら、この体は……! …元に戻ってる?  錯乱しているのか…?」

「そうだよ…。少し落ち着いて…」

「……」

 彼女は鏡に写った元の姿を見て安心していた。しばらくしてから、彼女の目線がこちらを向いたのと同時にスキルを発動して今度は僕が元の姿に戻ると、不思議なことに彼女の姿がまた人間のような姿になった。どうやら一つわかったが、スネークイーターズがなんらかの悪さをしているようだ。

「…怪我してたからベッドに寝かせただけだ」

「でも…どういう事……? …何か大事な事を忘れてる?」

 僕は彼女の後ろにあるステータス画面に手を伸ばしてそっと閉じた。彼女は難しい顔をして、何か考え込んでいるようだった。 

「いや…だから…なんていうか…」

 とりあえず…僕のスキルの事は黙っておこう…。

「……少し…思い出してきたわ」

「そっ、そう…」

「…貴方…黒騎士じゃないわね……」

「…えっ!?」

「いや…正確には違う…。……誰なの? …どこかで会った事が……」

「俺は…アル…。少し説明するから、まずはそこをどいてくれ…」

「……えぇ…」 

 僕は一応黒騎士の仮の姿と言う事にして、後は彼女との戦いが終わったあとの話を正直に話した。


「…っていうことだ……。でも…妙なんだよな…」

「……妙?」

「……そんなに時間が経ってないはずなのに一日たってたんだ。…もしかして、フィールド魔法の影響とかかな?」

 僕は何気なく聞いたつもりだったが、返答が何も帰ってこない。彼女をふとみると顔が徐々に青ざめていき口を覆った。

「一日経っていた……!? …っ!」

「おっ、おい…無理するなよ…」

「いっ、いいから、さっさと続きを!」

「えっ、続き? 続きっていっても…。まぁ…そこからは君を宿まで運んできたくらいかな…。結構…大変だったんだぞ…」

「次元が……揺らいだ? まさか…あれは本当の………。…だとしたら…この世界は……」

「…どうしたんだ?」

「……どうしたんだ!? ……わかっているの…!?」

「…わかってるのかって……。……何が?」

「…ここはお前が………。…ちっ、もういい!」

「…どうしたんだよ。…たっく……」

 彼女は深く布団を被り潜り込んでしまった。何回か声をかけたが反応はない。

「……」

 仕方ない…。下に行って報告でもするか…。


 階段を降りて白猫の部屋のドアをノックして入ると、二人が飲み物を飲みながら談笑していた。彼女達は僕に気付くと暖かいコップを差し出してきた。どうやらホットミルクのようだ。

「お疲れ様…」

「…一応終わったよ」

 僕はホットミルクを片手に信じてくれるかもわからない話を言える事だけ切り取りながら淡々と話した。信じてくれるか微妙だったけど、僕の想像とは裏腹に白猫は妙に納得して、何か考え込んでいるような小難しい表情をしていた。

「…なるほどそういうことかい……。そういえば、そんなこともあったねぇ…」

「…そうなのか?」

「十年くらい前に、この近くに勇者一行が来てね…。一人戦闘不能になったって聞いてたが…。まあ、なんにせよ。ありがとうね…。お礼に好きなだけあの部屋使っていいよ」

「びっ、微妙なお礼だな……。ちなみに話は戻るんだけど、勇者一行はその後どうなったんだ?」

 僕は勇者のその後について尋ねた。白猫は少し言葉を詰まらせていたが、暖かそうなホットミルクを飲むと口を開いた。

「……魔王が生きてるってのが、そういうことだよ」

 …全滅ってことか……。

 僕はその言葉を聞いたあと、白猫に素朴な疑問を尋ねた。

「なぁ…白猫さん、仮に魔王がいなくなればこの世界は平和になるのか?」

「…そうだねえ……」

「……」

 もし、この世界がゲームと同じような世界なら魔王を倒せば世界は救われハッピーエンドだろう。王道RPGなら当たり前の展開だ。

だけど、この世界はもっと複雑で、むしろ僕がいた世界と同じなのかもしれない…。

「次は力のある竜族が魔王の代わりになるだけなんだろうよ。ちょっと前はよかったんだけどね。神族がいたから均衡が取れててね」

 …やっぱりか。…難しいな……。

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