第43話 世界に一つだけのセロリ

 何らかのイベントの会場にいた。

 たぶん前半は何かの趣味的な分野に詳しい人の話を聞いて、後半はお茶会みたいな感じだろう。


 私が覚えているのは後半のお茶会の始まる前に席順を決める場面。


 昼間で、窓の多い明るい部屋だが装飾などはゴシック趣味。

 集まる人の服装もゴスロリからロリを除いたような、ビジュアル系バンドのライブ観客席にいそうな格好をした人がチラホラいた。

 私含め大半はごく日常的な普段着だ。

 みんなの服も部屋の内装もモノトーンで、空だけが青かった。


 一人、男装の麗人と呼びたくなるようなカッコいい女性がいた。短い髪を白銀と黒に染めわけ、おでこを右半分見せる髪型。黒を貴重に、銀色のアクセサリーを多用するファッションがよく似合っている。

 この夢に登場するいちばんハンサムな人だ。


 イベントの参加者は、十数人。

 茶菓の用意はべつの部屋にしてあり、今いる部屋は講演を終えて椅子などを片付けたあとのガランとした広間だ。

 ここで席順を決めてから移動する。


 座席選びにはとても風変わりなシステムが採用された。

 みんなで輪になってぐるぐる回りながら、隣に座りたい相手の名前を1人ずつ言い、その隣に暫定的に移動する。

 これを繰り返し、誰からも要求が出なくなったら決定とし、お茶会会場に入って順番どおりに円卓の席に着く予定。


 しかも、ただ言うのではなく歌うのだ。隣になりたい相手に二つ名みたいなコメントを即興でつけて、メロディとリズムに乗せて。


 曲調はロックに近く、二つ名は厨二病的なものが多かった。


「燃え盛る情熱の○○○○(人名)!」


 言葉の内容は少しくらい変でも、即興でいい感じのメロディを歌うと同時に好きな人のことを端的に語れるのは素晴らしい能力だ。私にはない。


 発言する(歌う?)順番はどう決められているのか、決まりなどないのか、それも不明だ。


 知り合いも、会場で仲良くなった人もおらず、誰の名前も知らない。だから席順にこだわりはなく、ただ自分の歌う番が回ってこないことを祈った。


 歌っていない人の雑談から、とんでもないことが漏れ聞こえた。


「□□□□のメンバーが参加者の中にいるってよ」


 超有名な芸能人男性グループだ(サブタイトル参照のこと)。私でも全員の顔と名前が結びついているほどの。日本でテレビのある家で育った大人なら知らずにいるほうが難しいほどの。

 しかし、そんな素敵なメンズはいらっしゃらないようですが……?


 仕事向けのメイク等をしていなければ意外に地味なの(失礼)? 敢えて目立たないように変装しているの? たんに同姓同名の別人かも?


 私はますます強く、自分の番が回ってこないことを祈った。

 もしそうなれば、つい彼らのうち誰かの名前を出してしまいそうだが、不安要素が多すぎる。

 言ったのとちがう人しかいなかったら? 並び順を移動するとき間違えたら? どちらも失礼だろう。仮にご本人だとして、すべてクリアして隣に行けても、もっと熱心なファンがほかにいると思うと申し訳ない。


 だいたい即興で歌うのムリ!


 そのくせ「せいぜいコメントを考えておこう。舞台『サンソン』で主演だったあの俳優なら『革命の影の主役』……いや、それは役柄のことだから違うか」などと考えているのだった。


 などと思う間に、他の人たちは歌っては意中の人の隣に移動する。


 人気が芸能人に集中しないのは、イベントの参加者とファン層が違うからだろうか。

 もしイベントが「フランス革命を語る会」だったら……?


 と思っている間に、目が覚めて公開処刑を免れた。


 私の脳の夢ジェネレイターは稲垣吾郎の姿をとうとう再現できなかった。


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