第37話 ともだちの
何の施設だか分からないが、カルチャーセンターみたいな小綺麗で複数の部屋のある場所にいる。和やかな雰囲気だ。
知らない人も多いが、いろんなつながりの知人がいる。学校の同級生、ベリーダンスに通っていたころ一緒だった人、コミケにサークル参加していたころ同ジャンルだった人、オンリーイベントの主催者、なぜか職場の税理士……。
一部をのぞいてほとんど女性ばかりだ。
そして、どの繋がりにせよ、いちばん仲の良い人ではなかった。
けれど和気藹々としている。
「夏休み中に旅行に行かれる方には注意事項があります。その間ほかの方はご自由にお過ごしください」
アナウンスを聞いて
「自分の荷物をまとめなくちゃ」
と思った。
何の講座か合宿か分からないが、今日が最終日だと知っていた。それに、旅行の予定の有無に関係なくみんな自分のトランクを持ちこんで参加しているのだ。もちろん私も。
拙作「ふつどく! 2014」の旅行と同じトランクだ(宣伝)。
荷物の整理はまもなく済み、時間の余った人たちとダベっていた。
私が「大東京音頭」のサビのところを歌ったら、たぶん唯一の年配の男性に
「上手いねえ。クイズ番組の4択ならいちばん初めに出てきそうだ」
と言われた。
「なんか変な声しなかった?」
女の子が隣の子につぶやいた。
そんな心霊現象みたいな。
「おじいちゃま、今のまた歌って」
と、コミケで同ジャンルだった人。選曲がオジサンくさいと言いたいのだろうか。
「おじいちゃまなの、私?」
苦笑いして同じところを歌うと、今度は部屋の2方向の網戸が音もなく開き、人影が見えた。
「……ど、ち、ら、さ、ま?」
金縛りに遭ったように重い口で、やっと言えた。
「ともだちの……」
そう言いつつ姿を見せたのは、見知らぬ男性だった。
丸顔で太り気味の……と言葉で説明すればあてはまる知人男性は存在する。
しかし目の前にいるのは知らない人。誰かの友達だろうが私のではない。なぜか顔の上半分に細かい傷が無数にある。
幽霊だろうか。
知らないと伝えて帰ってもらいたいが、まだ口が動かしづらい。
目が覚めた。
体に異常はない。
誰も逃げずにそばにいてくれたな、と思った。
私が歌った「大東京音頭」の歌詞は間違っていた。
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