第10話 吉良と社長と就活で

 私は、就活中の若い女性になっていた。

 ある会社(実在しません)の就職説明会に参加するため、開催場所である本社ビルに行った。


 まず説明会の前に、社長が吉良上野介を演じる劇を見せられた。本社ビル最上階の大ホールで。驚いたが、劇じたいは面白かった気がする。内容は覚えていないが忠臣蔵そのままではなかった。

 説明会は下の階の会議室で行われる。ホールを出てすぐのロビーの壁の上のほうに、海外の地名を書いた紙が何枚も横にならんで貼られていた。それぞれ何かの日数と人数も書いてある。

 業績を上げた社員に報奨として旅行をプレゼントするらしい。すごいぞ!


 しかし、他にも見えたものがあった。

 ホール出入口の脇に物販スペースがあり、社長の著書がずらりと並んでいるのだ。

 ここの社長は歴史研究の趣味があり、吉良上野介についての本もある。凝った装丁の美本もある。アマゾン通販でおススメされたらついポチッてしまいそうだ。

 けれど……

「これを買わないと居づらくなるような会社なら絶対イヤ」

 と思った。

 説明会に出るのをやめる決心をしたところで目が覚めた。





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